はいコチラ、酔っぱライ部

匂いの誘惑

2011 / 11 / 08

今このコラムを書いているのは10月初旬。朝・晩はひんやりとした空気に秋の匂いを感じるものの、日中の日差しは空気が澄んでいる分、強く感じられて汗ばむ日もある季節です。

そんな早秋のとある朝。仕事場へ向かう車中、それほど混んではいない電車のドア際に立って、前日めずらしく「新品」で購入した本に目を落としていました。
けして景気がよいとはいえない昨今、懐具合を考えるとついつい中古本ばかり買っているのはご多分に漏れずというヤツ。
ところがある落語会へ行く途中に寄った書店で手に取ったのが運の尽き、好きな作家の本で発売されてからずいぶん経っているはず、と奥付を見ると初版だったものだからつい財布の紐をゆるめてしまった、という「曰く付き」(それほどでもないか)の本です。
まぁそういう経緯もあって、眼はその本に集中しており、視野のほぼ85%(当社比)は両手で携えているその本で占められていました。本の他には少し埃の浮いた床が見えているだけ、という状態です。

そんな通勤の途中停車駅、背後でドアが開いて新たに数人が乗ってきた時のこと。ふとその85%を占めている視界の残り15%に女性の脚が入ってきた。
素足に赤い、というか朱色の布製パンプスを履いてすらりと伸びたきれいな脚。その刹那、文章を追っている脳の片隅を「きれいな脚」という意識がチラ、とかすめます。

さて、それほど長くはない車中の時間、そろそろ駅に着くかという頃合いを見計らって本を閉じます。
と、眼を本から外して視線を上げると僕の顔から20cm(!)ほどのところに女性のきれいなうなじがあるではありませんか。先ほどの「きれい」だと感じた脚の持ち主のうなじです。
襟ぐりの広く開いた細かな縞のカットソーが両肩に引っかかっているだけで、背中の頸椎はおろか胸椎くらいまで見えている。しかもご丁寧にキャミソールとブラ、2本のヒモのオマケ付き。俗に言う「色っぽい」という風景です。

その時コイツ(僕です)は何を考えたか。

「触る」、「なぜる」、「なめる」(え?)......どれでもない。あろうことか「顔を寄せてその『うなじの匂い』を嗅いでみたい」と思ったのですね。

自分でもビックリしました。公序とか良俗とかいう社会規範とは無縁の、あるいは反射神経のようなものかもしれません。
有無を言わさず、むしろ暴力的といってもいいくらい無自覚にして無意識にそんな考えが浮かんでしまった。
とはいえ自分の思念の「反射」に驚いているうちにドアは開いて女性は電車を乗り換えるためにスタスタと歩いて行ってしまいます。
もちろんそれでよかったわけですが、そんなことがあって、ひょっとしたら自分が「匂い」に対してなにか特別な感情というか、反射神経を持っているんではないかと思い至った、と。

d20111108pic.jpgそう考えてみるとライブ会場に使われる劇場、ライブハウス、寄席、ホール、小屋、スタジオ......それぞれの「匂い」が記憶の中にしっかりと映像と共に収納されている。
武道館の通路やアリーナ、歌舞伎座のロビーと場内、上野鈴本演芸場のロビーと客席の匂い、渋谷クアトロのまだ客がたくさん入らぬ場内のすえたような匂い......。それぞれの風景がその場所の匂いとともにしっかりと記憶されていて、それぞれの匂いを感じた瞬間、体が「反射的」に音楽や噺や舞台を受け入れる態勢に入っている。
つまりいずれ観客で埋まればその人いきれ(その日のパフォーマンスの種類によって匂い(人)が変わる)でまったく別の匂いに変わってしまうであろう開場間際のその場所は、それぞれがそこ特有の香りを持ってるよね、という認識が自分にあったのではないか。

そういえば。たまさか早く用が済んでしまった夕刻、「口開け」で入った居酒屋の店内を占めている空気がいつも客で満たされているときのあの匂いとは違う、これはその場のもつ「オーラの匂い」ではないかと感じる瞬間。
そんなことも思い出したりして、ライブ会場ばかりでなく、知らず知らず居酒屋でまでそんなことを感じていた自分にもちょいと驚いたのです。

考えてみれば「モツを焼く」、あるいは「野菜を炒める」、「コロッケを揚げる」......そんな匂いを感知するやいなやビールの栓を抜く、という「反射」(?)もあるわけで、ことほどさように「匂い」は人間の記憶中枢においてはかなり「有位」な位置を占めているんではないか、と落語のマクラ、「焼いた煙のニオイで飯を食った男に『ニオイの代金』を請求した鰻屋」のクダリを思い出したりもするのでありました。

こんなことを書くとあるいは「コイツは『匂いフェチ』ではないか、そうに違いない」と断じられるかもしれません。いや別に否定はしませんけど「フェチ」は「匂い」だけじゃない、とだけ申し上げておきましょう。
松茸の「香り」が恋しくなるこの季節、そんなことを思いながら「松茸の匂いの記憶で2合はイケル」、あるいは「冬にむけて掛け布団に太陽の匂いを」などと思う秋空の下であります。

【Panjaめも】
・中学のころ聴いていたイギリスの女性歌手「LULU」。
“Shout” がよく取り上げられますが“To Sir With Love”、“Oh Me Oh My”なんかのバラッドもすてきです
From Crayons to Perfume / LULU

・偉大な発明品です
永谷園 松茸の味お吸いもの











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