はいコチラ、酔っぱライ部

「♪噺はみんな生きている 生きているから飽きないんだ」(長いよ)

2013 / 05 / 07

古い川柳に「朝起きて 顔を洗って 歯を磨く」というのがありました。

あまりにも当たり前すぎて笑ってしまう、という趣旨(?)の川柳で、落語でもご隠居さんから「作ってみろ」といわれた熊さんか八っつぁんあたりがひねってちょっとした噺の「くすぐり」に使われることもあるくらい。
こんな川柳にもなるとおり日々の暮らしのパターン化は誰にでもあることで、僕もご多分に漏れず

8時起床→顔を洗う→リビング掃除→コーヒーを入れる→ヨーグルト+コーヒーで朝食→トイレ→出勤

というパターンがだいたい90%(当社比)を越える。ま、そんなもんです。

で、飽きないか、といわれると意外と飽きないんですね。もちろん細かい変化はあります。コーヒー豆の種類が変わる、そこに到来物のクッキーが添えられる。ヨーグルトに入れるジャムの種類が変わる。コーヒー豆が切れていればミルクティーになる……云々。そういうこともあるせいかそれほど飽きない。

僕が好きで聴いている落語も同じことで、定番の古典演目といえば基本的に物語は「同じ」だから、人によっては「もうオチがわかっているのに聞いておもしろいのか」と聞く人がいるくらい。中には「だいたいわかった」と得心して落語会へ足を運ぶことをやめてしまう人もいると聞く。

あまり回数を重ねていない方が多いですね。「もういいや」と思っちゃうらしい。無理もないかな、という気持ちはあります。僕もいっときそんな風に感じる時期がありました。
今思えば実は「その時に飽きて寄席へ足を運ぶことをやめてしまう可能性」だってあったのだ。いやいや。感慨深い。

で、なぜやめなかったかというと「同じ噺家さんが演じる同じ噺でもおもしろい」ということに気づいたからなんですね。

「病膏肓に入る」(恥ずかしながらワタクシ子供の頃これを「病、高校に入る」と思っていました すいません)とはこのことか、と我ながら思ってしまったりするわけで。

さて、そんなことを考えたのは先日、柳家喜多八師匠の「五人廻し」を伺ったせい。最後が僕の聞き慣れたものとはまったく違うサゲだったからで、初めて聞いてたいへんビックリしたのでした。

d20130507_pic1.jpg
今回は「油揚げと三つ葉のサッと煮」を。
上に乗るイカそうめんがポイント

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舞台はおなじみの遊郭・吉原。「廻し」とは一人の太夫(=花魁・遊女)が同時に複数の客を取ることを言う。

むろん複数の男がひとつの部屋で待つわけもなく、人数分のごく小さな部屋をあてがわれて太夫の到来を待っている。待てど暮らせど来ぬ花魁。少しだけ顔を出すのは「三日月花魁」、まったく見せないことを「空床」と書いて「しょい投げ」と呼ぶ。

いつまで待っても来ないので業を煮やして帰ろうとする4人の男達が求めるのは先払いした「玉代」(遊技料金)だ。それぞれ際だった個性で郭の2階を取り仕切る若い者(妓遊太郎・ぎゅうたろう)に難癖を付けて返せと迫るが、むろんそういうわけにもいかず「まもなくお回りになりますから」と弁解して回る妓遊太郎……。

やっとの思いで杢兵衛大尽の部屋にお目当ての花魁「喜瀬川」がいるのを見つけた妓遊太郎が「他の部屋へ回ってくれ」と頼むとお大尽は「ならばオラが4人分の玉代4円(両)を払ってやるから他の客は帰してしまえ」という。それを聞いた喜瀬川。

「うれしいねぇ。アタシにも1円おくれよ」
「それはかまわんがオメエにやってどうするだ」
「その1円返すから、あんたも帰っておくれ」

と、これが一般的なサゲ。これを喜多八師匠はこうしなかったですね。はじめて聴くサゲでした。まぁ【PanjaMemo】にあるリンクで聴いてみてください。「へえ」と思うこと請け合いです。

まぁこんな風に落語の演目は高座に上がる噺家さんが工夫を重ねてその内容が変化することがあるんですね。「噺は生きている」と言ってもいい。そのことに気づいて足を運ぶことを続けるようになった、とこういう次第であります。

 

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実際はこれほどドラスティックな変化をする(させる)ことはあまりない、というのが僕の感想。むしろ「同じ噺の変化」に気づくのはちょっとした仕草、情景描写、あるいは顔の角度、手つき……などごくごく些細なことのほうが多いかもしれません

そのことに気づいて以来、それこそもう幾度となく高座にかけられる「子ほめ」、「道灌」、あるいはそれこそ「長屋の花見」、「時そば」に至るまで、聴き慣れた噺でも毎回演者が工夫を重ねているのがおもしろくて、やめられなくなったのでした。

話す側もいつも同じでは飽きるのかもしれませんね。それが仕事の高座とはいえなんとか自分でも楽しみたいと感じているんではないかと思います。その辺りイラストレーターと一緒。なんとかおもしろく仕事をしたいと工夫する。得心できる態度です。

そんなふうに感じている、と知古の噺家さんに語ったのはかれこれ10数年前。そう話す僕に

「もう抜けられないね、ご愁傷様」

と返されて絶句したことを覚えています。芸にハメられちゃったね。やれやれ。と嬉しい悔しさ。でも言うとおりですよ。あまりに悔しいのでことあるごとに知人を誘って同じ深みにハメています。恐るべし、芸の力。

昔は「アタリマエの噺をアタリマエにやること」がつまらないとさえ思っていたものですが、近ごろでは「アタリマエの噺をアタリマエにやってもこれほどおもしろいのか!」という高み(というか深みというか)に感動する始末。これは「病」は「高校」を卒業して「大学」に入ったと見るべきかもしれません。

そんなわけでもう何度も使ったなじみの食材でも組み合わせと調理法でこんなにおいしく(自画自賛)なるという見本が今回のレシピ「油揚げと三つ葉のサッと煮」。

もう切って売っているもので充分、「イカそうめん」がいい仕事します。

d20130507_pic2.jpg

ぬる燗でも常温でも。やはり日本酒が合うようで。てなわけで今回もこの辺で。次回は5月21日更新の予定です。

【Panjaめも】
●WEBで見つけた喜多八師匠の「五人廻し」


●こちらは原稿でも書いた通常仕様の「五人廻し」。
古今亭志ん朝でお聴き願います


●私、あの「まぐまぐ」でメールマガジンを始めました
モリモト・パンジャのおいしい遊び
こちらでサンプル版もご覧になれます。
登録申込当月分の1カ月は無料でお読みいただけますので、どうぞよろしゅう
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