はいコチラ、酔っぱライ部

人の振り見てなう

2013 / 11 / 19

土曜午後の地下鉄車内。座席はほぼ埋まって立っている人も数人、という混み具合だったと思っていただきたい。

途中の駅から乗ってきた4人連れの親子。小学校低学年の男の子と幼稚園年少組ほどと思われる女児ひとり。男の子と母親は運良く空いた席に座ったが眠りこけた女の子を抱いた若いお父さんの座る席がない。その時事件は起きた。

座席の端に男の子が座って隣が母親。お母さんのさらに隣に座っていた女性が難儀そうなお父さんに気づいて目で合図をしつつ席を譲ろうと立ち上がった直後、ちょうど前に立ってスポーツ新聞を読みふけっていた大きくて太めの男性が座ってしまったのである。

譲ろうとした女性も「あっ」と口を開けたがもう遅い。「ごめんなさいね」という視線に「しょうがないですよ」といった風の笑顔で返すお父さん。ちょうど正面に座っていたので一部始終を目撃してしまった。

「やっぱり声を出して譲るべきだったんだろうけどしょうがないなぁ」と思いながら見ていたのだが、その後がさらに問題だった。その座ってしまった男の態度が大変よろしくないのである。

無神経というか鈍感というか、読んでいる新聞を左右の乗客の前に広げて足を組み、組んだ足の靴を隣の人のズボンに触れそうなくらいの位置に置いている。しかもよく動く。ひっきりなしに新聞をたたみ直しながら手を顔にやり頭にやり、腕を組んで落ち着かないことおびただしい。ともかく周囲に「気を遣う」と言うことがないので見ていてとても不愉快だった。

当該男性が途中で降りたあと、

「ああも鈍感なのは体が大きいから脳に酸素が行かないからだろうか?」

と妻に尋ねると

「酸素、と言うより脳が満足に働いていないんだと思う」

という答え。楽しい舞台を見た帰りの電車でこういう光景に出くわすのは不幸である。ため息をひとつついて終点で降りた。

その日見物に出かけた「楽しかった舞台」というのはこれ。

d20131119_pic1.jpg「さらば八月の大地」。今回はその話題から。

 

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時は昭和19年。日本が満州国にプロパガンダを目的とした「国策映画」を製作するために設立した「満州映画協会(通称満映)」を舞台に、その協会が戦火の末に終焉を迎えようとする時期の撮影所内の人々を描いた群像劇。

中国人映画助監督に中村勘九郎、「第2の李香蘭」を目指して地方の炭鉱から上京した女性に檀れい、戦火が時を追って激しくなる日本から新天地を求めて満州へ来た撮影助手に今井翼、そして協会の実権を握る軍部出身の理事長に木場勝己、という役者陣(敬称略)だ。

鄭義信・脚本、演出は前回の「酔っぱライ部」に続いて登場の山田洋次。「寅さんシリーズ」が特に好きなわけではないんだけど。偶然とはいえなんか縁があるんでしょうか。おもしろい。

物語はフィクションの要素が強いので、名前は架空のものになっているけれど、個人的には「こまつ座」の演技でなじみの深い木場勝己が扮する協会理事長のモデルは明らかに「甘粕正彦(大尉)」だろう。最後に青酸カリで服毒自殺するところも同じである。

主演陣とはべつに山口馬木也(剣客商売!)が気障だけどなんだか人のいい二枚目役者を好演。田中壮太?、広岡由里子(二人とも初見)なども嫌味やわざとらしさのない、見ていてきもちのいい芝居だった。

ラスト・シーンでひときわ大きく台詞を語る勘九郎丈の声が、亡父・勘三郎丈の鼻にかかった声を思い出させて、ちょっと泣けた舞台。新橋演舞場を出てまだ陽の高い午後の銀座を歩く足取りも心なしか豊かになった気分でした。

 

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ところでこの芝居、舞台が中国であるために「中国語の台詞」がふんだんである。勘九郎丈が、檀れいが、田中壮太?が中国語で台詞を語る。観客には何を言っているのかわからないのだが大丈夫。その時には左右に据え付けられた電光掲示板に「字幕スーパー」が出るのである。

この「字幕スーパー機」、たとえば外国で歌舞伎公演をするときなどに大活躍だそうですね。「英語落語」や「フランス語落語」みたいなものはあるけれど、さすがに歌舞伎ではムリ。そんなとき舞台におかれて海外では大変好評だそうで、台詞の翻訳だけでなく、要所要所の解説もするのは歌舞伎公演名物の「イヤホンガイド」の得意とするところ。他の国にはないサービスで、うまいこと考えました。

中には「通」を自認して「イヤホンガイド」を鼻で笑う向きもあるけれど、あれは聞いてみると実に勉強にもなっておもしろいもんです。小山観翁、西形節子、高木美智子、おくだ健太郎、といった解説員がお気に入り。僕も歌舞伎見物の時、よく使わせていただいてます。

さて、今回の舞台も台詞を中国語で話すのでなんだか臨場感がある。「中国人同士で話しているのになぜ日本語?」というシーンがたびたびあるのはご愛敬、よくぞ中国語を覚えたもんだと役者さん達を見る目が尊敬のまなざしと変わりました。

なんたって中国語の発音、難しいですからね。先にも書いた中国旅行中、耳で学んで会話したことはあるけれど、けっきょく満足に話せるようになるには至らずじまい。その時のハードルのひとつが発音だったのだ。

だから、と舞台を見ながらも「僕たちの耳には中国語らしい発音に聞こえている台詞も、現地の本物の中国人の人々が聞いたらどうなんだろうか」と思ったのも事実。
ひょっとしたら外国人が演じる「日本語芝居」のように聞こえてやしまいか、と考えたのである。

あるいは「よく勉強して覚えたね、でもちょっとヘンだけど」と言われるのかもしれない。それはあたりまえでネイティブじゃないからしかたがないとは思う。ただ、それを日本人の耳で確認するのは不可能で、もちろん「発音指導」がついているとは思うのだがカンペキに現地の人々のように話すのは難しいんじゃないだろうか、と推測するのだ。

しょうがないこととは重々承知だがこの件、なんだか「自分の顔を自分の目では直接見ることができない」のに似て、「自分で自分のしていることが正しく確認できない」ことになんとも隔靴掻痒の感を覚えてしまった。

そこで思い至ったのが帰りの地下鉄車内で目撃した光景である。

d20131119_pic2.jpg
今回は「鮭のアヒージョ風」をどうぞ。
オリーブオイルをベースにした炒め煮、ホントに簡単なレシピはこの下に
 
 

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あの「周囲の状況に気づかず座ってしまった男性」も、もしかしたらそれと気づけば座らなかったのかもしれない。でも気づかぬばかりにああいう結果を招いたのではないか。

はたして自分も「気を遣っている」つもりでいても、気づかぬうちになにか周囲を戸惑わせてやしまいか。

はたして自分に「そのつもり」はなくとも知れず「傷つけたり」「がっかりさせたり」してはいまいか。

そんな自分を100%コントロール・客観視することは不可能とはいえ、「人の振り見て我が振り……」と思ったのも事実。自分が穴の多い行動をするタイプ、ずさんな性格をもつ人間であることをよくわかっているだけに、さらに気を引き締めて注意しましょ、と思った次第。いっそそんなことまったく気にしないでいられたらどんなに楽かと思うけれど、気が小さいからできないのだ。あーやだやだ。

なんか知らないうちにいろいろ考えさせたり妙な気持ちにさせていたらカンベンな。すまんすまん、と逃げをうって今回のかんたんレシピは「鮭のアヒージョ風」。毎度のことで恐縮ですがかんたん手間なし、しかも旨いです。調理時間10分。

芝居がマチネ(昼の公演)で早く終わった上に仕事場へ戻らなければならなかったので、この日は芝居見物後の一杯はナシ。そんなギリギリまで仕事をして帰宅が遅い時間になったときに大変重宝するレシピです。塩鮭だとちょっと塩を抜かなければいけないかもしれないので塩鮭よりは生鮭の方が合うかな。一手間かける時間もないしだいいち面倒だ。

d20131119_pic3.jpgところで知らなかったけれど「今井翼」くんて、「タッキー&翼」の翼くんなんですってね。意外と演技が達者でビックリした。もっとも「タッキー&翼」って見たことないからよく知らないんだけどさ。あまり興味もないしね。あれ? なんかオレ今、誰かを傷つけてる? よくわかんないや(笑)

てなわけで今回もコレギリ。次回更新は11月26日の予定です。


【Panjaめも】
●イヤホンガイド。小山氏の解説も舞台の様子と共に試聴できるサイトはこちら

●「さらば八月の大地」公演は今月25日まで

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