はいコチラ、酔っぱライ部

パン屋をめぐる冒険

2014 / 01 / 28

ところでパン、好きですか? 僕は大好きです。24歳の時にひとり暮らしを始めたとき、支度がかんたんなのでパンばかり食べていたことがあって、それでも飽きなかった。今は朝食をとることはしなくなったけれど、旅に出たときに食べるカリカリのバター・トーストに半熟で仕上げたベーコンエッグとコーヒー、という朝食は毎日食べても飽きない秀逸なコンビネーションだとつくづく思う。

だから去年から今年にかけておいしいパンを売る店を近所でたてつづけに二軒も見つけたときには思わず小躍りをしたくなる気持ちだった。夕食にワインを呑もうと決めた日にはどちらの店に行くか迷うのが楽しみになるくらいだ。

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今回は「パンのおかゆ」です。パンでおかゆ?
注目のレシピは下にありますよ
それにしてもどうしてこんなにパンが好きなんだろう。考えてすぐ頭に浮かぶのは僕が育った東京城北部の家の三軒先にあったパン屋さんの工場で遊んでいたときの記憶で、大きな製パン機のドラムの中でパン生地がこねられている様子を長いこと飽きずに見ていたときの風景である。小学校の低学年だったと思う。

今だったらそんなパン作りの作業をしている横に、手もろくに洗っていないような近所の子供を遊ばせておくなんて考えられないことだけど、眼の前で生地がこねられてパンになっていく様子を目を丸くして見ていると、雇われ職人のオジさんは気が向くとその切れ端を僕にくれたりした。もちろんそれをパン焼きオーブンに入れるわけではなくて「それで粘土細工でもして遊んでな」、という感じでヒョイと手渡してくれたんだと思う。僕はそれを手の中でもて遊んでちょっと囓ってみたりした。囓ると生の粉の味の向こうにイースト独特のツンとした匂いがあって、どうしてこれがあんなにおいしいものになるのかと不思議に思ったものだった。

もちろんそのころ好んでいたのは「あんパン」や「クリームパン」、あるいは手袋のような形をした「ジャムパン」で、この「酔っぱライ部」でもいつか書いた「子供時代に焼きたての食パンにバターを塗り、グラニュー糖を乗せて食べていた」のはこの店のパンである。

 

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いま僕が「パンのおいしさの基準」を測る対象にしているのはもっぱら「バゲット」だが、東京でおいしいバゲットが食べられるようになったのはそれほど古い話ではない。

高校生だった1970年代のモーニング・セットは「厚焼きバタートーストにサラダとコーヒー」が定番だったし、80年代に入っても東京駅八重洲地下街にあった「パスコ」なんかで「ペストリー」や「パイ」のたぐいは買えたけれど、バゲットは「パンの代表」という位置にはまだ立っていなかったように思う。

それまではパンと言えば食パンと菓子パンで、カレーパンにUFOパン、焼きそばパンやコロッケサンドが個人的「パン・ベスト10」の上位を占めていた。そんな街中にあるような普通のパン屋でもイギリス・パンと名のついた横浜のウチキ・ベーカリーを元祖とする上部が山のように盛り上がった食パンを売るようになったのも80年代ギリギリではなかったか。「カリカリになったパンの耳」がこのパンの魅力のひとつだったことはこのころからバゲットに対する訴求力がすでにわれわれ民草(笑)の中で高まっていたのかもしれない。

「バゲット」を意識するようになったのは80年代後半くらいからで、個人的に初めて「バゲット」を買ったのは僕の記憶が正しければ、今ほどチェーン展開をしていない時代の「ドンク」か「ポンパドール」である。味は……忘れたが、今僕たちが口にしているものには遠く及ばなかっただろう。

以来、そんな風にパン屋を見つけては「試してみたくなる衝動」がいつも僕の中にあって、よほど「ああここはハズレだな」と思わぬ限り素通りすることができない。「食パンと菓子パン」を売るタイプのざっかけない店では「カレーパン」を、ちょっと気張ってパンを作っているどちらかといえば「西洋風のベーカリー(最近はフランス風にブーランジェリーとか言うことも多いけど)」ではバゲットを買って試してみる習慣ができてしまった。

海外に行ったときにもその土地のパンを食べることは大きな興味の対象のひとつで、NYで生まれて初めて食べた「BL&T(ベーコン、レタス&トマト)サンド」は今も忘れられないけれど、やはりなんと言ってもその味に舌を巻いたのはフランスのパンだろう。

そう書いていて思い出したけれど、今でこそ「バゲット」と名前が表記されているあのパンは、わが国にあってはこれはその昔「フランスパン」と呼ばれていたのである。バゲットでもバタールでもパリジャンでもなく「フランスパン」。なんだそれは。それは形こそバゲットに似てはいるけれど、味はまったく違うもので「細長い食パン」ていどのものでしかなかった。ひょっとすると「イギリスパン」も「日本独自」のものなのではないか(調べてみたらその通りでした)。

話を戻す。その「フランスパン」の本場を生まれて初めて訪れたのは80年代も半ばのころ。パリ滞在初日の朝に温かいポットに入ったコーヒーとミルク、その脇に銀紙に包まれたバター二つと一緒にぞんざいに置かれた半切りのバゲットは「モリモト・パンジャ パン食い史上初」の衝撃だった。「今まで食べていたバゲットはなんだったのか」と思ったほどである。

香ばしく焦げたカリカリの皮、野趣に富んだ粉の香りを含んでしっとりと柔らかな白い生地、しかも軽くてお腹にもたれない……ひとりで1本は軽くいけそうなおいしさだった。

街の露店で買って食べた「ハム&チーズ・サンド」(あちらではカスクルートというそうですが)を食べたときの感動も忘れられない。バゲット半分を横腹から切ったところにバターを塗って薄切りのハムとチーズを挟んだだけなのに、どうしてこれほどおいしくなるのかと舌を疑う(という表現があるかどうか知らないけど)味だった。しかしさらに驚いたのは帰国後だ。

仕事がらみだったのでそれほど長くはなかった滞在から帰国、その味を再現しようと自分でも「ここのバゲットはおいしい」と思っていた店のものを買ってきて同じようにして作るのだが、彼の地の感動がないのである。もちろんそれはそれでおいしいんだけれど何かが違う。何が違うのかと何度も作っては首をかしげて、そろそろそのおかげで体重の増加が気になり始めたある日、ようやく回答を得た。

その回答とはこうである。簡単に言うと日本のバゲットは「リッチすぎる」のだ。どこか甘みを含む上にミルクやバターがふんだんに使われていて、もちろんそれはそれでおいしいのだが、フランスのバゲットと比べるとどちらかというと「お菓子」に近いようにすら思えてしまう。だからあの野性味のあるバゲット・サンドにならないのではないか、と。そこに至って「そうか、本家は『粉の味』を中心に置いているのだな」と得心したのである。

それから幾星霜。ここ数年は東京のバゲットもとてもおいしいものが手に入るようになってきました。

 

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僕が仕事場を置いている自由が丘は幸運にもパン屋に恵まれている土地で、その昔おいしいパンを求めて彷徨っていた時代が嘘のようだ。

サン・ジェルマン、メゾン・カイザー、ビゴー、セヴェイユ、淺野屋、神戸屋キッチン……専門店でない店も入れればもっとあるに違いない。とはいえ栄枯盛衰激しい土地柄、目の前に生まれては消えていったパン屋も数知れず。パンヤ・デ・プレ、ヴォルテール・ピープルズ(すごい名前だ)、どちらも贔屓にしていたパン屋さんだったけれどとつぜん閉店してしまった。2軒とも好きなタイプのパンを焼く店だっただけに非常に残念。パン職人の方がいたのは間違いないわけだから、いつかまた店を起こしてくれることを念願しています。

さて、そんな中にあって僕が今注目している2軒のパン屋さんも書いておく。書くと混んでバゲットが買えなくなると困るけれどね。

一軒は尾山台駅前すぐ近くの「Le Lude」。店舗展開もしているようで渋谷東急Foodshowの中にもお店があります。フランス直輸入の小麦粉で焼いたバゲットは「なるほど」の味ですが「蕎麦粉のバゲット」もお勧め。普通のバゲットとこれをその日の気分でわけて買うのも楽しい。

そしてもう一軒が先日偶然見つけた店「Toshi Au Coeur du Pain(トシ・オー・クー・デュ・パン)」。自転車でジムへ行った帰りに見つけたここで夕飯のために買った「トラディション」を事務所へもどってテーブルの上に置いたとたんに立ち上ったパンの香りに負けて、何もつけずにムシャムシャ食べた。フランスで食べたときの感動を思い出させる味と食感! リピート決定の瞬間でした。何より「焼きたて」がごちそう。そこでパンを焼いている店ならではのおいしさはやはり何物にも代えられません。場所は目黒通り中根交差点すぐそば。とおりかかったらぜひ。お勧めです。

 

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さて、「焼きたてだったから!」と思わず何本も買ってけっきょく固くしてしまったパンはこんな風に、と今回の「かんたんレシピ」は妻に好評の「パンのおかゆ」。

カチンコチンに固くなったパンを水に浸してやわらかくし、トマトベースのシチュー状のものに入れていきます。おいしいパンを無駄にすることなく、お腹も財布も温まって大変よろしい。ぜひお試しを。

d20140128_pic2.jpg 本音を言えば近くに「焼きそばパン」や「カレーパン」を売るような伝統的日本のパン屋さんがもう2軒くらいあるととても嬉しいのだけれど、それはゼイタクというもんですね。はい。

てなわけで今回は「情報満載」の酔っぱライ部。次回は2月11日が建国記念の日なのでお休み、25日更新の予定です。

【Panjaめも】
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