ikkieの音楽総研

第21回 ライヴレポート編 Cyndi Lauper
――シンディ・ローパー in Tokyoという奇跡

2011 / 03 / 22

東北地方太平洋沖地震発生からちょうど一週間後の3月18日、『シンディ・ローパー』の来日公演を観てきました。連日、テレビや新聞で悲惨な状況が報道され続ける中での開催。東京都内でも、計画停電、節電などが行なわれ、さらに余震も続き、コンサートの開催はおそらく難しかったはずです。
東京に住んでいる俺は、正直、震災当日は、ライヴ大丈夫かな?……ぐらいの気持ちだったことを告白します。しかし、時間が経つにつれ、想像を大きく超えた被害を知り、ライヴどころではなく、どんどん増えていく犠牲者の数に、ただでさえ弱い俺の心は折れそうになるばかり。それでも、シンディの性格を考えると、この状況だからこそ、ライヴをやって義援金を募ったりするかも! そう思って、いろいろ検索してみると、本人のメッセージを見つけました。そこにはシンディが被災地の様子を知り、心を痛め、私に出来ることは何?と、揺れる気持ちがつづられており、「それでも私に出来ることは歌を歌うこと!」とありました。……涙が出た。

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会場となったBunkamuraオーチャードホール
これほど待ち望んだライヴって、初めてかもしれない。シンディは世界の音楽界の至宝と言ってもいいほどのスーパースター。それが、自身の危険も、起こりうる批判も省みず、日本のファンのために歌を歌ってくれる。いろんなライヴやイベントが中止や延期を余儀なくされるなか、ライヴをやることを決めてくれたシンディと、その関係者の方々には心から敬意を表します。

そして、今回のシンディのライヴのタイトルは『MEMPHIS BLUES JAPAN TOUR』。そう、ブルーズなのだ。日本で先日発売されたばかりのニューアルバムは、シンディが敬愛するブルーズのカバーアルバム。正直、最初は違和感があった。彼女がブラック・ミュージックに影響を受けていたのは知っていたけども、どちらかと言えばR&Bやソウルといった感じで、今回のような「“ど”ブルーズ」をやる印象はなかったし。でも、今回のこの日程でのブルーズ。神様がくれた偶然なのか?
もともと、黒人が奴隷制度のなかで自分たちの辛さを歌い、日々を腐らず過ごすために歌われたブルーズ。それを、今、この日本で歌うのだ。今年の1月に発表された、ちょっと唐突とも思えた来日の知らせも、今にして思うと……。

cyndi.jpg当日の渋谷は異様だった。こんなに暗い渋谷は見たことがない。節電のため、いろんなお店が看板などの電気を消しているからなんだけど、それにしても暗い。会場のオーチャードホール近辺も、普段ならもう少し明るいんだけど、暗くてどこだかわからない……。勝手知ったる渋谷のはずが、一瞬迷ってしまった。そして予想通り、会場では義援金を募っており、俺も少額ながら募金。客席は9割程度の入りでした。被災された方の中にも、今回のライヴを観に来る予定だった人もいるかもしれないし、そういう気分になれない……と、来ることが出来なかった人もいるかもしれない。そう思うと、胸が痛んだけど、シンディのライヴの様子を皆に伝えること、それが今の俺が出来ること……と、気持ちを切り替えた。

定刻から15分ほど遅れてシンディが登場。黒のタイトなレザージャケットにパンツと、昔よりはシックな装いだったけど、57歳という年齢が信じられないほど、相変わらずキュート。そして、「大変なときに来てくれてありがとう。みんなガンバッテ!」という言葉のあとに、「Make Some Noooooooize !!!」と大声でシャウト!メタルのライヴじゃないんだから(笑)。しかし、それで客席にも一気に熱が入り、皆が大歓声で応える。ニューアルバムからのブルーズも、アルバムでは抑え気味な歌唱だったのが嘘のように、いつものシンディらしく、あくまでハイパーで圧倒的な歌声を聴かせてくれる。代表曲『She Bop』もブルージーにアレンジされ、戸惑った人も多かったと思うけど、馴染み深いコーラス・パートは皆で大合唱。それにしてもシンディ……ほんとに57歳? 走り回っても全然、歌声が乱れないんですけど……どこかのヴォーカリストに見習わせたいぐらいだ。
そして、5曲目、デビューアルバムに収録されている名バラード『All Through The Night』で早くも一度目のクライマックスが。シンディの歌声は以前と変わらないどころか、さらに魅力を増し、最後のファルセットはまさに天使の歌声のよう……。

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この日は最終日。
公演は三日間に渡って行なわれた
ライヴのセットリストは今回のアルバムからの曲が中心で、おそらくバックのメンバーもブルーズ・ミュージシャンを集めたんだと思うんだけど、そのためかメンバーたちのソロ回しも大きな魅力になっていた……と思うのは、俺がミュージシャンだからで、他のお客さんたちはどうだったかなあ。もっとシンディの歌を聴きたい、と思っていた人もいたかも。ただ、今回は特別ゲストとして、日本人のフリューゲル・ホーン・アーティスト、TOKUさんが数曲に参加していて、この人が素晴らしかった! 俺は不勉強で、この人のことを知らなかったんだけど、とてもソウルフルでシンディの曲を多いに盛り上げてくれていましたよ!

ライヴは『グーニーズはグッド・イナフ』、『Change Of Heart』といった懐かしい曲で一旦締め。で、アンコール一曲目はもちろんあの曲、『Girls Just Wanna Have Fun』! これで、ちょっとおとなしめだった二階席のお客さんたちも立ち上がる! 続けて演奏された『Don’t Wanna Cry』、そして永遠の名曲『Time After Time』は、ため息がこぼれるほどの名演……。
「あなたが倒れそうになったら、私が受け止めてあげる。何度でも何度でも……」、その歌詞を今の日本に当てはめずにいられない……。

演奏が終わったあと、シンディがおもむろに話し始め、「この曲をやるべきかどうか、最初は迷ったの。有名な曲じゃないし。でも、何度も自分に問いかけて、今歌うべきだと思ったから、やっぱり歌うことにしたわ。とてもスピリチュアルな曲」との紹介で始まった『Shine』。シンディは客席に降りてきての大熱演! これで客席が盛り上がらないはずがない! そしてバンドメンバーが全員ステージ前方に出てきて、客席のスタンディング・オベーションに応える。メンバー達が袖に帰っていくので、まだあの曲やってないでしょ! と思っていたら、「みんなにお願いがあるの。(湯川)れいこや日本の有名な方たちが集まってくれてるから、ショウが終わったら募金に協力してね。一人ひとりの力は小さいかもしれないけど、それが集まると大きな力になるわ。次の曲はヒーリング・ソング。みんなで歌って元気を出そう」と、ピアノとTOKU氏のホーン、シンディの三人で『True Colors』を……。

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会場に登場した募金箱
その歌声はこれまでのどの曲よりも素晴らしく、信じられないほど美しいその歌声に、俺の涙腺はいかれてしまい、涙が止まらない。そしてコーラスの「Don’t Be Afraid(怖がらないで)」で一旦ブレイク、シンディは拳を振り上げ、『Power To The People』を歌いだした! もちろん、シンディはまた客席中央まで降りてきて、皆と一緒に大合唱! 俺はもう嗚咽してしまい、一緒に歌えないほどだったけど、会場中が一体となった、とても感動的なシーンでした。

ライヴの後はシンディの言葉通り、日本の著名人が集まり、義援金を募っていました。錚々たるメンツが集まっていたけども、大きな混乱もなく、皆、順番に列を作って募金。シンディ本人が出てきたときにはさすがに騒ぎになったけど、それでも押し寄せるようなことはなく……さすが日本人。そんなわけで俺も、この日二度目の募金をしました。サインや写真はダメだと言われていたので、俺は「シンディ、素晴らしいショウをありがとう!」と伝えることしか出来なかったけど、俺と目を合わせ、うなずいてくれました。この日、シンディは何度も「アリガトウ!」って言っていたけども、会場に来た人たちは、どれだけあなたに力をもらったことか。そして、被災地の方々にも、きっとシンディの想いを伝えてくれるはず……。

あの曲も聴きたかった、この曲も聴きたかった……という気持ちもあるにはあったけど、ライヴが行なわれたこと自体が奇跡だったのだから、それで充分。
人々に力を! 
「音楽の力」を強く信じることが出来た一日でした。
シンディ、あなたは神様が日本に遣わせてくれたミューズです。
本当にありがとう……。













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