ikkieの音楽総研

第71回 ロック映画編 アイデン&ティティ
――隠れた名作に見る、"あのころ"

2013 / 02 / 19

前回はロック映画編をお休みしてアーティストの紹介をしましたが、今回からまたロック映画編に戻ります。まだまだオススメがありますからね! さて、音楽も映画も、どうも洋モノばかりを紹介しがちなわたくしですけども、もちろん日本の作品にもいいものはあるわけですよ。今回はその中でも特にお気に入りの「アイデン&ティティ 」を紹介します!

アイデン&ティティは、みうらじゅん原作の漫画 を、個性派俳優として知られる田口トモロヲが監督した2003年公開の作品。脚本は宮藤官九郎が担当しています。わかる人にはわかると思うんだけど、このメンツなら(俺がいつも気になる)ロックに対する愛情もバッチリ。田口トモロヲさんのことを『プロジェクトX』のナレーターとしてしか知らない人には意外なことかもしれないけど、この人もともと、ばちかぶり ってアングラなバンドでパンクやってた人だし、俺なんかにはNHKのナレーターのほうが意外でした。

iden&tity.jpg主人公の中島役は銀杏BOYZ の峯田和伸が好演。彼が実にいい! ナイーヴなミュージシャン役がぴったり(まんま?)。そして彼だけじゃなく、ヴォーカル中村獅童、ベース大森南朋、ドラムにマギーと、演技派が揃ったバンドも、本物っぽくていい。担当パートもハマってるし。映画自体は結構マイナーというか、アングラっぽさも感じさせるんだけど、中島の彼女役は麻生久美子だし、俳優陣はなかなか豪華(岸部シローやあき竹城、大杉漣に浅野忠信まで!)。あとね、これは余談だけど、10年以上前にバイト先が同じだった女の子も出ていてびっくりしました。どの役なのかは内緒にしときますが。

バンドブームに乗ってメジャーデビューしたものの、自分がやりたいロックがやれず悩む中島。本当に大切な存在の彼女がいるのに、ファンの女の子たちに手を出してしまったり、メンバーやスタッフとも衝突が絶えなかったりと、苦悩の日々を送る。そんなある日、中島のアパートに、ボブ・ディランによく似た謎めいた男が現れ……というストーリーはある意味バンドものの定番だけど、この映画には定番を超える何かがある。

音楽には流行り廃りがあって、その中でも、さらに“売れ線”なんて呼ばれるものがある。どういうものが売れ線なのかはその時々で当然変わっていくんだけど、自分でバンドをやろうって人間は、どうも売れ線の音楽を毛嫌いするきらいがあります。売れ線には、わかりやすいだけで中身がないってイメージがあるからかな。世の中にはそういう音楽もあって、需要があることも認めているけど、自分の音楽とは違う、というのが大方の(若い)バンドマンの考え方。

中島もデビュー曲がヒットしたことで、同じような曲や売れ線の曲を求められるんだけど、それは自分の望む本物のロックとは程遠く、いつもイライラして、いつも不安で、セックスしているときにしか不安を忘れられない。彼女に「俺がもしバンドやめても、俺のこと好き?」と聞かずにいられない。こういう感じ、俺にも覚えがあります(苦笑)。ボブ・ディランによく似た男の「どんな気分だい? 誰にも知られてないっていうのは」という言葉が胸に刺さる。いつも、いつも不安だった。ロックは反骨心だの体制への反抗だとのという言葉で語られることが多いけど、実は不安な若者が心の痛みを叫んでいるだけのような気もする。本当に強い人間にはロックなんて必要ない。ロックを知って、若者は強くなっていくんだけどね。

この映画では、バンドブーム終焉のころが描かれています。「この歌を、ロックを単なるブームとして扱ったバカどもに捧げる」ってセリフが印象的。バンドブームってなんだったんだろうね。俺はブームに乗り遅れて、イカ天にもホコ天にも出ていないけど、あの時代のなんだか浮かれた様子をよく覚えている。キワモノっぽいバンドが多かったこともあって、俺はブームに乗っているバンドを、それこそ毛嫌いしてたけど、あのブームのおかげでロックに何かしらの可能性があるように見えたのは確かだし、実は嫉妬してもいた。実情はこの映画以上にいろいろ大変だっただろうけど、ロックに没頭出来ている(ように見えた)こと……それがあのころの自分がいちばん欲しかったものだしね。今もだけど(苦笑)。

中島とその彼女の関係描写は、ディランと、彼に大きな影響を与えたとされる60年代当時の恋人との関係へのオマージュなのかもしれないけど、俺はその辺をあんまり知らないので、ジョン・レノンとオノ・ヨーコを思い出す。しっかりもので芸術家肌の彼女と、ナイーヴな彼氏。男って、好きな女に認められたくてしょうがないんだよね。どうしたって女には敵わないのに。

中島を見ていると、どうにも切なくなる。みっともなくて、痛々しくて……でもさ、ああ、言いたくないけど、これって、青春なんだな。

いろいろ疲れちゃった大人の皆さんにオススメします。隠れた名作ですよう。




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