ikkieの音楽総研

第87回 ikkieのロック用語解説編 グランジ&オルタナティヴロック
――あえて批判的に両者を語る

2013 / 09 / 17

前回の予告どおり、今回はグランジとオルタナティヴロックについて解説しちゃいます! グランジ、オルタナティヴロックが大流行した時代は、俺の愛するHR/HMは下火になり、ギターソロは無くなるわ、アーティストが半ズボン履くようになるわで、大変だったんですよー。

松本●オルタナティヴは前にもちょっと出てきましたけど、グランジっていうのは? この辺になると私は全然わからなくなってきちゃうんですが。
ikkie▲グランジっていうのは、"薄汚れた"とかいう意味で、あんまり良い単語ではなかったと思うんですけど……NIRVANAPEARL JAM なんかが代表的ですね。アメリカの80年代後半から90年代前半に出てきたバンドなんですけど、カウンターカルチャーっていうのかな、巨大化していたHR/HMに対するアンチテーゼとして出てきたと思うんですよね。激しめのロックなんだけど、HR/HMとはまた違うサウンドでした。彼らはハードロックにも影響を受けているらしいんですが、それはMÖTLEY CRÜEやBON JOVIのようなきらびやかなHR/HMではなく、BLACK SABBATHとかの古いハードロックで、もっとシンプルでストレートな感じなんですよ。で、ハードロックというにはずいぶんラフな演奏だったし、アメリカのあの時代に出てきたパンクなのかな、と俺は解釈してます。(80年代に主流になっていたHR/HMの)反対のものとして出てきたんですよ。だから、”オルタナティヴ“なんです。……オルタナティヴって単語は、別のものとか、何かの代わりって意味ですよね。当時主流になっていたHR/HMなんかに対してのオルタナティヴミュージック、として最初は紹介された気がします。まあ、普通の音楽ファンからしたら、「音はうるさいし叫んでるし、HR/HMじゃないの?」って感じだったんでしょうけど、俺ら(HR/HM側)からしてみれば、全然違うんですよね。それに、本人たちももちろんHR/HMとは違うところからスタートしてるわけで。


NIRVANA 『Smells Like Teen Spirit』

★ikkie★
オルタナティヴロックとは、上記したようにそれまでの主流以外のものを指した言葉で、グランジやミクスチャー、インダストリアル……といった様々なジャンルの音楽を総称したものです。でも、個人的な印象では、NIRVANAやPEARL JAMはオルタナというよりはグランジと呼ばれていて、JANE’S ADDICTION や、R.E.M のような、ちょっとひねくれたポップセンスのあるバンドをオルタナ、と呼んでいたように思います。RED HOT CHILI PEPPERS もそうかな。

ikkie▲で、グランジ、特にNIRVANAに対する俺の印象は、下手だなあ……と。テクニックを良しとせずに、演奏してる。それでも、だんだんと歳を取ってきたHR/HMアーティストに飽きてきた若者たちが、飛びついたんですよ。新しかったんでしょう。それに、当時は景気も悪くて……NIRVANAの有名な曲、『Smells Like Teen Spirit』には、「Hello, Hello, Hello, How Low?」って歌詞があって、「やあ、どれだけ最低だい?」と歌ってるんですけど、そういうところに「うわー!」って共感しちゃったんでしょうね。特にアメリカの若い子たちは。でも俺らは……って、俺もまだ18、9歳でしたけど、そうじゃなくて。もうね、バブル時代の"Larger Than Life(実際より誇張されたような、といった意味)"というか、そういう派手なのを聴いて育ってきてるんで、シンプル過ぎるグランジに、「なにこれ?」ってなったんですよね。ま、決して金持ちではなかったので(苦笑)、響くところもあったんですけど……英語を喋らないってのもあるし、それほどは。
でも、もっと若い子たち……例えば俺が一緒にやってる5歳下の相方は、ばっちりその世代なんですよね。で、その相方が言ってたんですけど、NIRVANAなんかを聴いて「これなら俺でも弾ける」ってギターを始めたんですって。俺らは、弾けそうにないのを聴いて「うわー、あんなの弾けるようになりたい!」って始めたんですけど。彼らはこれならやれる、って。
松本●これなら弾けそうだ、と。
ikkie▲そう。俺らの世代よりも、もうちょっと気軽にギターを手に取ってるんですよね。ギターが安くなったってのもあると思うんですけど、もうそこは全然違って。

★ikkie★
このあたりのエピソードは70年代〜80年代のパンクとまったく同じです。あの当時も、これなら弾けると思って始めた、と語るパンクスが多くいました。こういうところからも、グランジは90年代のパンクだ、と思うんですよねえ。

松本●前回、軟投派のピッチャーの例を出しましたけど、それってプロとかに入ってくる前は、直球で140kmぐらい出してるピッチャーがそういう風になるわけじゃないですか。そうじゃないと説得力がないというか、速い球も投げられるなかでスタイルを変えるわけで。
ikkie▲絶対そうですよね。遅くしか投げられない人とは違いますよね。
松本●ikkieさんの場合は、いちばん難しいところから入ってるんで、ちゃんと弾けると。だからこそ、「あいつらダメだ、易しすぎる」とわかる。それで、こういう流れでグランジのバンドが世に出てくるのかな、っていう理屈もわかって、そこにすごく説得力があるんですよね。でも、「それなら出来る」って始めた人って、そこから先、上達していかないから……。
ikkie▲うん。そう思っちゃうんですけどね。まあ、俺の相方はちゃんと弾けるし、続けていくうちにギターや音楽の奥深さとかに気が付いて、技術を磨く人もいるんだろうけど……。
松本●垣根を下げてしまった。
ikkie▲そうそう。ある意味で、それは凄くいいと思うんですけどね。裾野が広がるというか。でも……俺らの学生時代って、やっぱり、バンドやってたりギターやってたりすると、「すげえなあー!」って言われるという、どこか特権者意識じゃないですけど、そういうのがありましたからね。誰でも弾けますよとか、1カ月間、学園祭の前に練習しただけで弾けた、みたいなのは……個人的には、音楽的にどうなのかなって思うところはありますねえ。でも、ロック的な衝動っていう部分と、精神的な部分で、楽曲の良さはもちろん認めてます。俺の好みじゃなかったけど。で、グランジにはなんだか暗いバンドが多かったですね。
松本●垣根の話で言うと、垣根は下がっても、ここから先がプロですよっていう、そのハードルを下げちゃいけなかったっていうところですよね。
ikkie▲そうですよ、下がっちゃったんですよ。
松本●中に入っていく、っていうことは出来ても、でも、中に入ったらこれだけ高い塀があったっていうふうにしなきゃいけなかったんだけど、それも一緒に下がっちゃうと、何でも出来るようになっちゃいますよね。端的な話で「なんだこいつら?」っていうのが、いるわけでしょう? 例えばテレビなんか観てたとしても。
ikkie▲そうですねえ。誰が、とは言いませんけど(苦笑)。
松本●そのレベルでいいと思ってやっちゃうか、それとも「何これ、こんなこと出来ねえよ」って古きを聴いたときにそう思うかどうかってところが、向上心に関わってくるんでしょうね。
ikkie▲でも、技術を磨くことが、ダサいこととされたんです。
松本●はあー……。
ikkie▲ギターソロがなくなるんです、この時代(※HR/HMバンドの楽曲からはなくなりませんでしたが)。
松本●え! 私なんかでも、そこが聴かせどころなんじゃないか、って思うんですけども。なくなるんですか……。
ikkie▲なくなるんですよ。弾いたとしても、ただメロディをなぞるだけとかだったりして。上手にギターを弾けることがダサいことになっちゃったんですよ。
松本●また、それは……ずいぶん極端に変わりますねえ……。
ikkie▲ね。びっくりします。この時期は、ギターヒーローっていうのは、前時代の遺物じゃないですけど、なんかそういう感じに変わったんですよね。
松本●下がるにもほどがある下がり方をしちゃったんですね。


RED HOT CHILI PEPPERS 『Give It Away』

★ikkie★
ギターソロがなくなったのは、ロックシーンにはいつ頃からか速弾きギタリストばかりになっていて、速ければ速いほどいいという、当時のテクニック至上主義な風潮に対するアンチテーゼもあったのだと思います。でも、この時代、ギターヒーローはいなくなりましたが、フリー(RED HOT CHILI PEPPERS)という、ベースヒーローが登場しました。ちなみに、RED HOT CHILI PEPPERSはテクニカルではないけど、とても上手いバンドです。

ikkie▲一時期はMETALLICAまでギターソロのないアルバムを作っちゃって。ドラマーのラーズ(ウルリッヒ)が……その人がバンドのブレーンでもあるんですけど、流行に敏感な人で「今どきギターソロなんて誰も聴かねえよ」みたいなことを言って、ギタリストが怒っちゃった、っていうことがあるんですけどね。
松本●いいやり取りだと思います、それ。
ikkie▲時代がどんどんそんなふうになっていって、俺なんかも、バンドメンバー集めようと思っても、趣味が合わないし、もう全然見つからなくて。おじさんで集まるしかない時代だったんですよね。
松本●それは明るいバンドはいませんわ。なんか根が暗い感じの話ですもんねえ。こう言っちゃなんですが。
ikkie▲でも、それで……俺はちょっとギターが弾けたもんだから、お仕事があったりしたんですけどね(笑)。
松本●なるほどなるほど。そうなった分、当然見返りがあったという。
ikkie▲そうなんですよ。きちんと弾ける人が減ってきたんで。俺は、流行りがどうだろうが技術を磨くことを忘れずに、と思っていたので、流行りに反発しつつやり続けていたら、「ギター弾いてくれない?」ってお話をいただいたんですけどね。
松本●なるほど。先ほどの「暗いバンドが多い」っていうのと、「アナタどんだけ落ち込んでます?」 って話じゃないですが……これはそういう側面が絶対的にあると思って言いますけど、なんか宗教っぽい話ですね。こんな時代だからね、ってそういう人たちが食いついちゃうというのが、なんとなくそんな感じがしますね。悪い意味ではなく。
ikkie▲ああ、そうかもしれないですね。わかります。もしかしたら反対に、暗い曲の中に光明を見たのかもしれないですね。音楽って、フォークの時代もそうですけど、代弁してほしいって人が多いんですよね。
松本●当然そうですよね。
ikkie▲でも、俺らみたいな洋楽好きな人間は、歌詞よりも雰囲気やメロディを重視してる人が多いんですよ。聴こえてくる英語がカッコよかったので。歌詞を知るのは後からだったんです。
松本●はいはい。

PEARL JAM 『Jeremy』

ikkie▲歌詞カードを読まないと歌詞がわからなかったし……、まあ実はわからなくても別によかったりするんですよね。でも、海外の流行を見ていると、ほんとに歌詞が重要なんだなと思って。言葉がダイレクトに入ってくるから、歌詞がすごく響くんでしょうね。日本で洋楽聴かない人っていうのも、歌詞を重要視しますよね。ユーミンでも中島みゆきでもいいですけど、メロディよりも、「あの歌詞がすごくよかった!」とか。
松本●そうですね。「あの歌詞が泣ける」って言い方しますよね。
ikkie▲ぐっとくる歌詞だったらいいんですけど、俺なんかの好みだと、恥ずかしっ! ってなるのもあるんですよね(笑)。日本語でそれ言われたらなあ、っていうのもあるんで。なので、そういう意味では反対に歌詞が重要なんですけど。……そうそう、代弁してくれる人たち、尾崎豊が人気あったのも絶対そうですよね。あれ、歌詞がああじゃなかったら、ああいう人気の出方はしなかったと思います。
松本●おっしゃるとおりだと思います。私なんか高校時代でしたから。よくわかります。
ikkie▲あの人はカリスマじゃないですか。それで、なんていうか、信者ですよね、ファンは。そういう意味では、宗教的かもしれないですね。ファンの人たちは、見てたらちょっと怖いぐらいですよね。神格化しすぎちゃって。
松本●これはオルガナイズだと、どちらかというと。すごくその……当時、小室哲哉とかが書いてる歌詞はそうでもないと思ってましたけど、尾崎豊とかミスチル(ミスターチルドレン)が書いてる歌詞っていうのは……。
ikkie▲今でも、例えば北朝鮮とかだったら、ロックやポップスは精神汚染音楽、みたいなことを言うわけじゃないですか。日本ももちろんそうだったと思うんですけど、いろんな国で歌詞っていうのは、実は弾圧をされてきてますよね。”弾圧”ってあえて言いますけど。やっぱり危険だ、っていうのは、識者の中にはそういうイメージがあるんじゃないですか。
松本●役所に呼ばれちゃったりするわけですからね、ハードロッカーが(笑)。
ikkie▲でも、ほんとにそういうことがあったし、欧米じゃ大真面目に言われるわけです。日本は結構ゆるいけど、“放送禁止用語”ってのはあるわけじゃないですか。でも、だからこそ、刺激的なことを言うと、若者はおおっ! ってなるっていう影響力は絶対あるんですよね。
松本●そうですよね。よくわかります。

さて、今回はここまで! なんだかオルタナティヴロックの悪い面をことさら強調している気もしますが、いい曲もいっぱいあったし、あの当時の派手になり過ぎて過度な装飾が目立つようになっていたロックを、原点に立ち返らせたという良い面もあったと思います。流行るべくして流行った音楽だったのでしょう。久しぶりにNIRVANA聴いてみましょうかね。




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