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第285回 ロック映画編 LORDS OF CHAOS ―― おぞましくも哀しい、衝撃の実話を映画化! 『ロード・オブ・カオス』

2021 / 04 / 27

先日、ブラックメタル黎明期の中心的存在だったノルウェーのバンド、MAYHEM にまつわる実話をもとにした映画、『ロード・オブ・カオス 』を観てきました。海外では2019年に公開されていた本作が、満を持しての日本公開。覚悟はしていたけど、しばらく重い気分を引きずってしまうほど、衝撃的な内容でした。

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真実と虚構に基づく物語……、そう前置きして本作は始まる。MAYHEMにまつわる数々の“事件”は、90年代のヘヴィメタルシーンを知るファンの間ではよく知られています。悪魔崇拝主義者のバンドが教会に放火した、自殺したメンバーの遺体写真をアルバムのジャケットにした、メンバー間で殺人事件が起こった……。以前、彼らのドキュメンタリー を特集したテレビ番組を観た時に、頭のおかしい悪魔崇拝主義者ではなく、理知的にも見えるインテリが冷静に狂気を語っていると感じて、より怖くなったのを覚えています。こんなとんでもない実話を、どう映画にしたのか……、とても興味がありました。

公式予告

 


ノルウェーの長閑な住宅街で、ユーロニモスと名乗る青年がバンドを結成。より過激なサウンドを追及していくうちに、スウェーデン出身のシンガー、デッドに出会い、過激さのベクトルが変わっていく。デッドは鬱病を患っており、希死念慮があった。ライヴ中にナイフで自らの体を傷付け、流れる血液を客席に撒き散らす。そんなデッドの過激な行為に聴衆は熱狂し、MAYHEMはアンダーグラウンドシーンでカリスマ的な人気を博すも、デッドが猟銃で自分の頭を打ちぬいてしまう。……こういったことは決して珍しくはなく(多いわけでもないが)、ナイフやカッターで体を傷付ける、動物の血や肉をぶちまける、といった行為は、80年代の日本のアンダーグラウンドシーンでも行われていたし、残念ながら自殺してしまったミュージシャンもいた。ただ、俺はあくまで知っていただけで、それを映像で見せられるのは気持ちのいいものではなかったし、ほんとにこんなことやってたのかよ、と嫌な気分になった。当時、実際にこういった行為を見て興奮した人もいたのかもしれないけど、俺は興奮しなかっただろう……と思う。

デッドの遺体を発見したユーロニモスは、何を思ったか、彼の遺体を写真に撮り、あろうことかアルバムジャケットに使おうとメンバーに提案する。反発したメンバーの一人がバンドを脱退するも、そういった過激な行為に心酔する者も現れた。ユーロニモスが結成した“誰が一番邪悪か”を競う集団、「インナーサークル」はどんどん過激化、教会に放火し、あげくのはてに、殺人事件まで起こしてしまう。この一連の事件が日本でもニュースになった時、「教会に放火って、マジで悪魔崇拝なのか」と、呆れたものだったけど、本作では、虚栄心や集団心理が暴走して起こったことのように見える。

覚えがある人もいるんじゃないかと思うけど、学生時代や若いころには、誰が一番危険なことができるかだとか、より悪いことが出来るかなんていう、大人になってみるとほんとにバカバカしいことで張り合ったりすることがある。それが仲間内の小さなことで済んでいるうちはまだいいけど、本当にやばい誰かが入ってきた時、誰かが一線を越えてしまった時に、取り返しのつかないことになってしまう。少年犯罪の中には、そういった、いわば見栄の張り合いで起こってしまったこともあるんじゃないか。本作では、ユーロニモスに憧れていた19歳のヴァーグが、彼らに舐められまいと教会に放火した辺りから、歯車が狂いだす。ヴァーグは悪魔崇拝主義者ではなかった。そして、ユーロニモスも。誰も悪魔なんか信じちゃいなかった。ヴァーグには、たしかな音楽の才能があったのに。

ユーロニモスは、過激な発言や行動はアルバムを売るためのハッタリだとヴァーグに語る。ヴァーグは、ユーロニモスの本心にうすうす感づいていながらも、憧れていたユーロニモスの弱気な発言を認められない。自身の行動にも歯止めが効かなくなり、教会に放火することにも抵抗が薄れていく。そして、承認欲求ゆえか自身の行為を記者に取材させ、逮捕されてしまう。証拠不十分で釈放されたヴァーグから、ユーロニモスは距離を置き、「ヴァーグを拷問して、その様子を撮影してやる」と仲間にうそぶく。それを知ったヴァーグは、ナイフを隠し持ち、ユーロニモスのアパートへ向かう……。

MAYHEM 『Freezing Moon』 2015年のライヴ映像

 


怖かった。これが実際に起こったことだと思うと。誰もが最初から狂っていたわけではなく、虚栄心と嫉妬が暴走していった末の凶行。俳優達の演技は素晴らしく、虚勢を張りながらも、ナイーヴな本心が見え隠れするユーロニモス、インナーサークルでの居心地の悪さと、ユーロニモスへの承認欲求を抱え、段々と狂気を宿していくヴァーグの心情が、痛いほど伝わってきた。しかし、これはあくまで映画での描かれ方であり、現実にはさらにおぞましい事実があるのかもしれない。現実のヴァーグは、正当防衛だったと主張している。ユーロニモスの体に、23箇所もの創傷を残しながら。

現実の彼らはどういう青年だったんだろうか。……この映画の通りであったなら、まだ救いがある。

「私の手でユーロニモスを殺害する計画だった」
MAYHEMのオリジナルメンバー、ネクロブッチャーが語る当時の内幕
※デッドの死後、ネクロブッチャーはMAYHEMを脱退し、ユーロニモスの死後にバンドに復帰した

 



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