インタビュー/記者会見

『メキシカン・スーツケース<ロバート・キャパ>とスペイン内戦の真実』
公開トークショー第3弾に写真家・広川泰士&ハービー・山口登場!
フィルムカメラの魅力について語った

capa01.jpg新宿シネマカリテにて絶賛公開中の『メキシカン・スーツケース<ロバート・キャパ>とスペイン内戦の真実』の公開トークショー第3弾が、同劇場にて9月21日(土)21時からの上映後に行なわれた。今回は、写真そしてフィルムに焦点を当てたトークとして、70年代より写真家として第一線で活躍するかたわら、近年は急速に衰退しつつある『銀塩写真』と呼ばれるアナログ写真の豊かさ、楽しさを伝えるべく『ゼラチンシルバーセッション(GSS)』など積極的にフィルムにこだわり活動している写真家の広川泰士(写真左)と、スナップ・ポートレイトという手法で、人間を撮ることを一貫して続けてきた同じく写真家のハービー・山口(同右)をゲストとして迎えた。

スペイン内戦時、戦場となったスペイン各地で写真を撮り続けたロバート・キャパ、ゲルダ・タロー、デヴィッド・シーモア。彼らが撮影した4500枚にも及ぶ写真のネガが、かつて戦火を逃れてメキシコに渡った市民の家で見つかった。「メキシカン・スーツケース」に入っていたものが物質として残っていたネガだからこそ、70年の時を経て発見されることに……。

capa02.jpg広川:今日は、また改めてこの作品を観させていただきました。このスペインの内戦については、いまだに喋ってはいけないという風潮があります。メキシコに亡命した人たちにとっては今のスペインという国は、自分たちが生まれ育ってきた祖国という感じではないんじゃないのかな。
ハービー:1975年、15歳の時に劇団員としてロンドンで2カ月公演を行なった後、スペイン、イタリア、スイス、ドイツとまわって、スペインでは、マドリードとバレンシアで1週間ずつ公演しました。列車での移動中、6人掛けのコンパートメントの個室で、ちょっと政治的な話をしたら、スペインの若者から「誰が聞いているかわからないから、政治の話はしちゃダメだよ」って言われた経験がありますね。映画では1990年くらいから若者たちが、内戦でなにが起こったのか、その真実を知ろうという動きがありましたね。75年の時点ではタブーだった。

広川:亡命する人たちの船上での後ろ姿が、物悲しさを語っていましたね。写真の力って凄いですよね。
ハービー:今では、テレビやインターネットなどのメディアに代わり、速写性に劣るフォトジャーナリズムという言葉は今や死語のようになってしまっていますけど、当時はカメラマンというのはステータスがあって『ライフ』や『マグナム』などが中心に告発者となり、そういった人たちが世の中の正義を担っていた。
広川:もちろん、スピードは大事なことですが、この世に70年経ったネガが発見され、その写真を見るだけで伝わってくるものがありますよね。ネガとかベタ(コンタクトシート)は、ごまかすことができない。今のように加工ができないことが、真実が映っている証拠。

ハービー:兵士と一緒に戦場でカメラを持っての撮影はロバートキャパたちが初めて挑戦したスタイルだった。映画にも出てきますよね。そこで撮った真実というものは価値があると今の人が思ってくれたら、フォトグラファーたちの地位も復活するかもしれない。その写真の一枚一枚の力を我々は信じて、写真家として活動しています。一枚の写真が残したもの、意義というものを認めていただけると良いですね。

capa06.jpg広川:ハービーさんにも参加していただいている、僕ら写真家が集まって、『SAVE THE FILM』をテーマに『ゼラチンシルバーセッション』という展示をしています。特に2000年代に入ってデジタルの技術が進歩して、安価で誰にでも手軽に写真が撮れる時代になった。フィルムというものは、本当に過去の遺物みたいになっている。デジタルのメリットは速写性やメールで送ったりと、いろいろと便利なことがありますよね。しかし、フィルムにしかできないこともあると思う。今回、モノとしてのフィルムが70年経って発見された。フィルム対デジタルの話をするわけではないですけど、デジタルの場合はどうなるのか考えてしまう。実家を掃除した時に子供のころのネガが出てきて、それがちゃんとプリントできる。赤ん坊のころ写真館で撮ったガラスネガもプリントすると像が出てきました。
ハービー:倉庫からクッキーの箱に入った19歳から23歳までの大学時代に撮った400本のネガが40年後に見つかったんです。カビも生えていない。その中からセレクトした写真で写真集を作りました。
広川:写真展やってましたね。
ハービー:それから15歳の時のネガも見つかった。
広川:ハービーさんは写真歴が長いですよね。
ハービー:中学2年からですね。今はその時分のネガを探しています。見つかれば、最初に買ったカメラから50年。その写真集も作りたいですね。
広川:最初のカメラは何でしたか?
ハービー:フジペット(Fujipet)。
広川:あ〜、フジペット! ブローニ判のカメラ。僕も買ってもらって使ったことがありますよ。
ハービー:僕にも40年前のネガが見つかった。私の場合は自分史ですけど、貴重なものですね。
ヨゼフ・コウデルカというチェコスロバキア出身の写真家がいます。エクサクタのカメラとフレクトゴンのレンズを使用して写真を撮られていて、国外に出て無記名でロバートキャパ賞に応募した人です。なぜ無記名かというと、ロシアからの迫害をチェコに残した家族が受けるかもしれないと考えたからです。その作品でロバート・キャパ・ゴールドメダルを受賞し、その後『マグナム』のメンバーになりました。自分の写真だったと公表したのは80年代に入ってから。ロンドン時代に彼と知り合いになり、彼が僕の家に泊まることも……。僕は、まだ25歳のかけ出しで、彼は『マグナム』のメンバー。野球に例えるとメジャーリーガーと高校野球児みたいなもの。でも、彼が僕の写真を観て「この写真イイよね」って、もの凄くうれしい経験でしたね。彼はソ連軍のプラハ侵攻の写真を撮り、その写真を持ちだした。キャパと似た運命を感じますね。
広川:あの人の写真も歴史的に貴重なものですね。

capa03.jpgハービー:ネガのない今のデジタル時代では、プリントすることをお薦めします。
広川:プリントにするとモノとして存在しますからね。
ハービー:カメラ雑誌のコンテストを毎月やっていますけど、今月号で1位になった方は、インクジェットだけどバライタ調のペーパーでプリントしていて……。
広川:バライタ調のペーパーがあるんですか?
ハービー:ライカMモノクロームにエルマー50mm F3.5のレンズ。かなりベテランな方ですね。綺麗な仕上りで、これはインクジェットでもここまで丁寧にすれば情熱は宿るなと思いましたね。だけど、銀塩はインクのプリントとは違い、感光乳剤の中に銀が入っていて、光があたったところだけ、現像液によって黒くなる。
広川:すべて化学反応ですね。
ハービー:それに対してデジタルは信号と吹き付けですよね。その重みはまったく違いますね。
広川:比べるとわかりますね。
ハービー:フィルムも印画紙もまだ売ってますので……。
広川:今、フィルムカメラを買うには良い時代ですよね。ライカでも一時に比べれば安くなってますよね。
ハービー:3分の1くらいの値段ですね。良いライカは最近では日本から中国へ流出していますね。
広川:70年代にニューヨークのライカ専門店で、良いライカは全部日本に流れてるって当時いわれていましたね。
ハービー:ライカは経済が成長する国に集まるということがあります。
広川:なるほど…。
ハービー:もともとはドイツから高度経済成長の60年代のアメリカに流れて……。
広川:年代を超えて人から人へ50年〜60年経ったカメラが今でも使われているわけですよね。
ハービー:ライカは修理もできますしね。
広川:デジカメってどうですか?
ハービー:2年くらいでダメじゃないですか?
広川:愛着がわかないですよね。
ハービー:使い捨てですよね。明らかに新しいモノの方が性能が良いですからね。
広川:パソコンと同じような感じですね。3年〜4年で買い替えるような。
ハービー:銀塩の時代は一生使えるものとしてカメラは愛すべき存在だった。デジタルになって使い捨ての存在になってしまった。

capa04.jpg広川:今日のテーマでもあるんですけど、ハービーさんはライカですよね。
ハービー:ですね。
広川:フィルムで撮ってますよね。
ハービー:ですね。
広川:どうして?
ハービー:緊張感が全然違いますからね。往年のアンリ・カルティエ=ブレッソンもキャパも使っていたライカを自分も使っているということは、自分もひょっとしたらブレッソンのような写真が撮れるんじゃないかと……。モチベーションが上がりますね。ホールディングも良くて手になじみ、完璧にオーバーホールされたモノはスムーズで、コトンとシャッターが落ちて、そのすべてが気持ちが良い。
広川:名機ですね。
ハービー:今のライカのM3を作ったら500万円くらいするだろうと……。当時の値段でそのくらいしたんですね。
広川:昔は家が一軒建つともいわれてましたね。
ハービー:中学を卒業して高校進学前の春休みに、ニコンFという高価なカメラが欲しくて、ニコン系列の旋盤工場にアルバイトに。私はアルバイトなので簡単な作業しかさせてもらえなかったですが、ベテランの最後のフィニッシュは神業でしたね。
広川:ハービーさん、いろんなことをされているんですね。
ハービー:それで2割引でニコンFが買えたという……。
広川:ニコンの系列でバイトをしたおかげで買えたんですね。

capa05.jpg広川:プロはデジタルなのかというとそうでもなくて、フィルムにこだわっている写真家も多いですね。僕は今回、8×10という大きなカメラで『ゼラチンシルバーセッション』に出展しますけど、今日着ているこのTシャツ(会場にて販売)のいちばん上が8×10のフィルムサイズです。そして4×5、6×6……。
ハービー:8×10はカメラが大きいんですよ。それで写真を撮ったら描写力が違いますね。
広川:この大きなフィルムで撮った化学反応から出てくる画像は奥行きがあるんですよね。デジタルでバラバラバラって撮る方法とは違い、ここでシャッターを押すという重みもあります。
ハービー:そのテンポが良いですよね。「あと5枚ダゾッ」っていう、気合いが入ります。
広川:最後の1枚で良い写真が撮れたときは気持ち良いですよね。
ハービー:気持ち良いですね。自分で良い写真が撮れたと思う写真は何枚も撮っていない時の写真が多いですね。何百枚撮ったうちの中から選ぶよりも2〜3カットしか撮影していないモノに傑作がありますね。神様が撮らせてくれると思ってます。
広川:『ゼラチンシルバーセッション』の中で、2人1組でネガを交換をしてプリントするという展示をしました。相手と自分の現像したプリントを2人1組ですから4枚展示します。ネガだけを渡しますので、それだけで判断してプリントする。まったく違うプリントが出来上がり面白かったですね。
ハービー:アンセル・アダムスはネガが楽譜でプリントが演奏者と。
広川:まさにその通りですね。


◇ゲストプロフィール
・広川泰士
1950年神奈川県生まれ。1974年より写真家として活動開始。東京工芸大学芸術学部教授。広告写真、TVコマーシャルなどで活躍する一方、ザルツブルグ、パリ、ミラノ、アムステルダム、ロンドン、ニューヨーク、ロサンゼルス、ヒューストン、シドニー、東京他、世界各都市での個展、美術展への招待出展多数。講談社出版文化賞、ニューヨークADC賞、文部科学大臣賞、経済産業大臣賞、日本写真協会賞、日本映画テレビ技術協会撮影技術賞、A.C.C.ゴールド賞、A.C.C.ベスト撮影賞、他受賞。プリンストン大学美術館、ロサンゼルスカウンティ美術館、サンフランシスコ近代美術館、フランス国立図書館、ミュンヘンレンバッハハウス美術館、神戸ファッション美術館、東京都写真美術館、他に作品がコレクションされている。また映画の撮影監督として「FLOWERS」(小泉徳宏監督)2010年、「トニー滝谷」(村上春樹原作 市川準監督)2005年では世界30余カ国で上映され、ロカルノ映画祭において審査員特別賞、国際批評家連盟賞、ヤング審査員賞の3賞同時受賞をしている。
http://hirokawa810.com/

・ハービー・山口
1950年東京都出身。大学卒業後1973年渡英、およそ10年を過ごす。
劇団に在籍し舞台役者をしたり、また折からのパンクロックやニューウエーブのミュージシャンとの交流を重ね、アーティストから市井の人々までを写真に収めた。デビュー前のボーイ・ジョージとはルームメイトだった。
帰国後も福山雅治らとコラボレーション、そして東京とヨーロッパを往復し広く人間にカメラを向け作品を撮り続けている。スナップ・ポートレイトという手法にこだわり、一貫したテーマは希望を撮ることである。
2011年度日本写真協会賞作家賞受賞。最新刊は「HOPE311 陽、また昇る」講談社刊。現在、青森県三沢市、寺山修司記念館で、寺山修司の素顔を撮った唯一の写真家として11月まで個展を開催中。
10月公開の映画「東京シャッターガール」には高校写真部の顧問役で出演している。 
www.herbie-yamaguchi.com

■広川泰士、ハービー・山口が参加する
『Gelatin Silver Session 2013 - Save The Film -』が10月4日(金)から10月20日(日)まで
AXIS GALLERYにて開催!
詳細はこちら→ http://www.gs-s.info/



capa07.jpgロバート・キャパ生誕100年
『メキシカン・スーツケース <ロバート・キャパ>とスペイン内戦の真実』

★イントロダクション
スペイン内戦時、戦場となったスペイン各地で写真を撮り続けたロバート・キャパ、ゲルダ・タロー、デヴィッド・シーモア。彼らが撮影した4,500枚にもわたる写真のネガが、かつて戦火を逃れてメキシコに渡った市民の家で見つかった。70年の時を超えて発見されたそれらの写真には、生々しく激しい戦闘の様子と共に、内戦に翻弄されながらも必死で生きようとした市民の姿が克明に記録されていた。
本作品は、奇跡のように発見された数多くの貴重な写真と、かつてスペイン難民としてメキシコに渡った数少ない生存者たちの証言を通じ、スペインでは歴史上のタブーとして扱われ、封印されてきたスペイン内戦の真実を明らかにしていく。そして、世界一有名な戦場カメラマン<ロバート・キャパ>の知られざる姿をも浮き彫りにしていく。

監督:トリーシャ・ジフ 
撮影:クラウディオ・ローシャ 
編集:ルイス・ロペス
音楽:マイケル・ナイマン
配給:フルモテルモ×コピアポア・フィルム 
協力:マグナム・フォト東京支社
公式HP:http://www.m-s-capa.com/

©212 Berlin/Mallerich Films
Magnum Photos/International Center of Photography, NY

新宿シネマカリテは9月26日(木)まで上映中!
9月28日(土)より梅田ガーデンシネマ、名古屋シネマテークにて公開!
以降全国順次公開!
上映劇場一覧:http://www.m-s-capa.com/theater.htm











エンタメ インタビュー/記者会見   記:  2013 / 09 / 25

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