
湯けむり企画 その1 ―どうしてまた、そんな山奥へ?―
1996年、大学を中退してすっかり手ぶらになってしまった私は、山奥のある温泉旅館で住込みのアルバイトをしていました。温かさとわびしさ。本来ならば対極を為す感覚がごく自然な形で同居する“温泉”という独特の世界に魅了され、時間をみつけては書綴ったのが「湯けむり情歌」。
あれからずい分長い歳月が経ちました。それでも、作品というのは生き続けるもの。なんと一昨年、ひょんなことから曲がつき、「これは何とかしなければっ」 その後様々な方の協力を得て、2006年11月には晴れて! CD化実現となりました。
「何回聴いても飽きない」「ぜひ全国の温泉地で流してほしい」
嬉しい感想をいただきながら、現在“ほくほく”と販売中。ここではその「湯けむり情歌」の発祥地である旅館での暮らしから、曲作り、そして完成にいたるまでの物語を、5回に分けてお送りしていきたいと思います。
今回は最初ですので、プロローグにあたる部分、「なんでまたそんな場所へ行ったのか!?」その辺りについてお話します。(大学を中退した下りについては、著書「優等生ものがたり」で述べられています。もし興味がおありでしたらそちらも合わせてご覧下さい)
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きっかけは、ごく単純なものでした。「環境を変えることで何かが掴めるかもしれない」 そんな大いなる意志(?)もあるにはあったのですが、もともと学生の時から、夏休み、冬休みを利用したリゾート地でのアルバイトに強い憧れを抱いていたのです。しかし、クラブの練習もありましたし、だいたいが新しい環境に馴染むのに時間のかかる性質でしたので、短期間だけ勤めたところでどうせ楽しむ余裕ひとつ持てないまま終わってしまうのは目に見えている。やめとけ、やめとけ。行くだけ無駄…。中途半端な欲求不満をかかえたままずるずると日々は流れ、気がついたらドロップアウト。もしかして私今、え?完全にフリー?
「それならば」と決心し、実行に移したというわけです。
「行くなら上高地」 私の中ではほぼ答えは決まっていました。リゾート地 → きれいな所 → 海は嫌 → じゃあ、信州 → 上高地しかないでしょう! と、何とも短絡的な思考からでした。それが、友人の「上高地なんて、開かれすぎ(明るすぎ)ちゃうん?どうせ行くんなら、大阪とは正反対のところにしぃや」という言葉に、それもそうだと再検討。
大阪 = 人が多い、建物も多い、うるさい、せわしない
それなら、
人が少ない、建物がない、静か、のんびり = 山奥の一軒宿 …、
これや!!
そうして求人広告からなるべく山奥の、つまりは曲の歌詞にもあるような「人里離れた」旅館を選んで履歴書を送付。1週間後にはめでたく採用の電話がかかってきました。
全ての段取りがついたのち、当時はまだ一緒に住んでいた親に、「来月から長野県(あ、言っちゃった)行くことなった。11月まで帰ってこーへん。どうせ働くとこないんやったら、今しかできへんことしたい」 親、「それもそうね。気をつけてね」
平静を装いつつも、内心は不安と緊張でどうにかなりそうでした。本当にやっていけるのか?知らない人ばっかりなのに。家を離れたのなんて、私の中では10日間が最高記録(旅行で)。やめるなら今だ(大阪を発ち、長野県に到着して旅館の事務所でお茶を出された時でさえもまだそう思っていた私)、誰かこれを夢だと言って! …嫌ならやめときゃいいんですけどね。何かを始める時は、いつもこうです。結局は、したいんです。それがわかっているから、ぐずぐずする気持ちに鞭打って、何とか前へ押し出す。そうやって今まで生きてきました。たぶん、これからも、ね。
こんな感じで新しい世界に最初の一歩を踏み出したわけですが、はてさて私に、旅館でのお仕事が無事勤まったのでしょうか?次回をどうぞお楽しみに!
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