
湯けむり企画 その3 ―何て素敵! 曲がついた―
長野から帰ってきてしばらくの間は、調子が狂いっぱなしでした。「素敵な日常を作るんだ」その意気込みが、今思えばあまりに大きすぎたのでしょう。わけのわからないビジネスを考えついては、力もないくせにとにかく実行しようとする。そして案の定できずに、こける。
本来サービス精神が希薄な私は接客業が大の苦手で(だったら旅館なんか行くなよ?)、「それならば。接客さえできるようになれば、もはや私に怖いものはない」という激しい思い込みのもと、売り子やらテレフォンオペレータやら色々やってはみたのですが、結局どれも胃を痛くしてやめてしまう。私はちやほやされるのが好きなの。その私がどうして他人をちやほやしなくちゃいけないの。ぜったい世の中間違ってる。自己中心もここまでくればたいしたもので、次第に心がこわれ、塞ぎこみ、すっかり人が怖くなり…。
でも、30歳を前にした頃かな。私気がついたんです。世間って、こちらさえ心を開いて接すれば、優しい人間はいくらでもいる。対人恐怖なんてただの甘えだ。地味でも小さくてもいいやんか。その優しい人たちに、失礼のない生き方をしたい。
だからといって急に何ができるわけでもなく、とりあえず身近なところからと、CADを習ったり本を出したり。そんな中、知人にアレンジをお願いして趣味のCDを初制作。自宅の窓を閉めきって、安い録音機材に向かっておっかなびっくり吹き込んだというたいへん粗い出来ですが、それでも自分の作品があのまーるい円盤の中に収められるという現象には不思議な快感がありまして、そこで頭に浮かんだのが、昔旅館で書上げた「湯けむり情歌」。
はじめは販売するつもりなんてなかったんです。ただ、自分では大変気に入っていましたし、何とか形にできないものかと偶然見つけたインターネットの楽曲制作サービスに「ものは試し」で詞を送ってみたところ、返ってきた曲(デモソング入り)を聴いてあらまぁ、すごくいいじゃない。趣味のCDに関しては自分で気の向くままに曲をつけたものの、私、作曲ははっきり言って専門外です。昔エレクトーンを10年習っていたので、楽器を全くさわったことがない人に比べたらそこそこわかっているつもりでいたのですが、実際は“Aメロ”“Bメロ”という基本の単語でさえ「何のこと?」と聞き返す始末。うーん、やっぱりちゃんと音楽やってる人が作ると違うなぁとくり返し歌っているうち、「これはただ事じゃないかもしれない」。で、商品化を思いついたというわけです。
真剣にものづくりに取り組んでいらっしゃる方々からすれば、とてもいい加減に思われるかもしれません。否定はしません。その通りなので。でも私、きっかけなんてどうだっていいって思ってるんです。美しいものは美しいし、同じように感じてくれる人がいたら素敵だな。その素敵を広げられたら、もっともっと、素敵だな。
以前書いた、とある詩の一節。
心優しい人々の国は
心優しい人々を救えない
けれど
誰かのほんの小さな夢が
知らない誰かのほんの小さな元気になれば
そんないつかをつなげていけば
どんどん、どんどんつなげていけば
ということで、頑張ってみることにしました。次回に続きます。
あなたも今日から湯けむり美人。
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