
源氏物語
「 好きな姫君第三位 “平安の小悪魔”夕顔・玉鬘 親子 」
私源氏物語中、色気ナンバー・ワンといえば、なぜでしょう、私の中では断然夕顔、なのです。一般的には、おそらく朧月夜や六条御息所(ただし人間の時)、明石の御方あたりを挙げる人が多いのではないでしょうか。
従順ではかなく、守ってあげたい女性の代表格のような彼女ですが、時にチラッと流し目を送ったりして、男の心をわしづかみにする。かもし出される雰囲気がとにかく絶妙。相手を自分に惹きつける間合いを、本能的に知っている女性という印象を受けます。そんな夕顔に源氏はもうメロメロ。何と言っても源氏、17歳の恋。ふたつ年上の恋人への想いはまさに青春真っしぐらといった具合で、読んでいてくすぐったいやらかわいいやら。
もののけに襲われ、目の前であっけなく息絶えた彼女。源氏にとってスキャンダルは禁物です。夕顔とはあくまで「お忍び」の関係であり、源氏の従者は何とか事を秘密裏に済ますため、遺体の処理を自ら引きうけ大急ぎで源氏を屋敷に帰します。源氏は最後まで付添いたいのですが、立場上許されない。そこが切ない。「どうしてひとり戻ってきてしまったんだろう。万一彼女が生き返った時に、私がいないとどう思うだろう」 公にはできません。それでも、荼毘に付されてしまう前にせめてもう一度会いたいと、夕顔が安置されている寺まで無理をして夜中に出かけていくシーンはキュンと胸を打ちます。
死んだ夕顔の手をとらえ、大声で泣く源氏。「われに今一度、声をだに聞かせ給え」 帰り道では放心状態で馬からずり落ちるなど大騒ぎしたその約18年後、登場するのがお待ちかね、玉鬘(たまかずら)です。
ひょんなことから自邸に養女として迎えることになった、亡き夕顔の忘れ形見、玉鬘(父親は葵上の兄君です)。存在は知っていましたが、会うのは初めて。でもって、母親のか弱いイメージとは一味違った利発で健康的な彼女に、これまた源氏はメロメロに。玉鬘、ほんとにいいんです。世間知らずで育ったため、20歳という年齢の割には大変なウブ。はじめは源氏に手を握られただけでどうしていいかわからずおろおろしていたものの、このあぶない養父が「口では色々言っても実際に手を出すつもりはないらしい」ことがわかってくると、彼女、完全には拒まず、けれども受け入れることもせず、という微妙な態度をとるようになるんですね。それがとても自然で、ちっともいやらしくないんです。
いっぽう当の源氏はたまりません。源氏は、手を出すつもりがないわけではないんです。出したくてうずうずしてるんです。「かわいいかわいい玉鬘。いいのか!? いや、だめだ」 煩悶する源氏。本人には悪いが、かなり楽しい。しかし世間体もさることながら、源氏には既に最愛の紫の上がいます。「やはり自分には紫の上が一番だし、紫の上に並ぶものなどいるはずもない」 つまり仮に玉鬘と男女の仲になったとしても、それは単にその他大勢の妻(=紫の上以外の妻)たちのうしろに彼女をつけ加えるだけのことに過ぎず、「それでは玉鬘がかわいそうだ!」 他の妻達、立場ないですが、それだけ源氏の玉鬘への思いは特別ってことで。
危うい魅力の夕顔と、現代的な香りのする玉鬘。大好きです。面白いのが、玉鬘に対して源氏がさんざん苦悩しているわりには、ふたりの清い関係を信じている人間が、彼のまわりに誰もいないという現実。世間もしかり。源氏の息子の夕霧や、紫の上。玉鬘の実父。すったもんだの結果玉鬘の夫に落着いた髭黒の大将でさえ、彼女が生娘であったことに感激したほど。「どうだ、潔白だっただろ?」と紫の上に得意がりつつ、玉鬘の出て行った部屋を訪れては人知れずため息をつく源氏が、かわいい・・・。
一位から三位まで挙げてきましたが、姫君たちはもちろんのこと、忘れてはならないのが従者や女房といった大勢の素敵な脇役陣。特に、慎み深くて気持ちの半分も言えない姫君とは対照的に「何もそこまで」というくらいにずけずけと発言しまくる女房や乳母たちの存在がなかったら、この物語の面白さは半減してしまうのではないでしょうか。古典は苦手という人が、こんなに興味深い作品を楽しむために最低限必要と思われることを次回に述べて、いったん源氏物語シリーズは終了しようと思います。 |