長男を生んでから、「この子が大人になったら、一緒にお酒を飲むんだ!」という願望があった。これって、父親が思うことのはずなのだけれど・・・。その時は、1人で父親役もしながら育てることになるなんて、これっぽっちも想像してもみなかったのだから、先見の明というのか、予知能力というのか、不思議。
事務所に近い三田のお気に入りの店で、ふたりでカウンターに並んでみると、なんだか気恥ずかしい。長年の念願がかなって、内心ワクワクしているのは私だけだ。彼は無心に品書きを見ている。「で、なんの話?」「実はね・・・」と聞けば、仕事の悩みで、誰かに話してしまえば気が済んでしまうという、たぐいの話である。なぁんだ。
でも、そりゃそうでした。家でも良いというのに、この機を逃すものかと、わざわざお酒の席を設けたのは私なんですから。だから、だから、懐が寂しいのに奢ってしまった。彼の誕生日だしね・・・。
そして、性懲りも無く次の機会には、この店と密かに決めているのが、神楽坂「渡津海」(わたつみと読む)。
以前は、格子戸に暖簾の掛かる昔かたぎの店で、店内も渋くて無駄なものがまったく無く、正統派酒飲みの店を突き進んでいたというのが私の印象だ。すごく気に入っているのに、たくさん飲めない私などは遠慮してしまう店だった。
飲み屋の並ぶ小路から移転した店を、探していたのに見つけられなかった。
それが、市ヶ谷から九段にかけて夜桜見物をした帰り、偶然にも見つけ、さっそく次の機会に訪れた。
一足踏み入れて、小奇麗で明るい店になっているのに驚く。カウンターに座り、店主の相変わらず1人でもくもくと腕を振るっている姿に、ひと安心。
さらに変わったのは品書き!サラダはあるし、なんと懐石コースもある。
座るとまず突き出しが出る。
この日は、ほたるいかの酢味噌和え、山葵の花のおひたしと出て満足していると、さらにそら豆・螺貝・白海老のかき揚げの一皿が出て、うれしい驚き。
刺身は縞海老と鯵。縞海老は美味しく、海老の頭はあとで素揚げして出してくれ、うれしかった。

年に一度は食べるのれそれ(マアナゴの幼魚の高知県での呼び名。名前の由来は不明)の卵とじ。するすると優しい食感は春を感じさせる。私は白魚より好きかもしれない。たけのこも柔らかく香り高い。さわらの西京焼は連れがとても気に入った。まこがれいも焼き具合がほど良い。美味しい美味しいと、満足でした。突き出しがあれだけ出るので、一品多かったかもしれない。

お酒は信州岡谷が蔵元の「神渡」。「みわたり」と読む。寒い冬、男神の諏訪大明神(上社)が女神(下社)のもとへ渡ると諏訪湖に氷の亀裂が走る。その御神渡(おみわたり)から採られた名前で、呑み口はさらっとしている。
シトシトと降りだした雨に、さりげなく常連客に傘を用意する心配りがなんともよろしく、こちらの気持ちもなごむ。
「静かに飲む」以前の店も捨てがたいけれど、味は変わらず、こちらも心地よかった。
一品は800円位から。4合のお酒と前述の料理で12,140円でした。
テーブルもあり。10時半には閉めてしまうのでご用心!
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「渡津海 わたつみ」
大江戸線 牛込神楽坂駅 数分
東京都新宿区神楽坂5-30
03-3267-6415 |