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できれば、歩いてて気持ちのいい道をいきたいよね。
『銭湯民族の教え』‐11 

日の出湯 –タヌキの幻想–
日曜日の夕暮れ。
ビールを飲みつつ、東京都浴場組合が発行する「東京銭湯お遍路MAP」を開く。
銭湯に行く前は身も心も燃えたぎる。この時点ですでに上半身は裸だ。
おおし決めた! 今日は“恵比寿湯”だバカヤロー!
そんな気合とともに家を飛び出し、駐輪場に停めてある愛車アマゾネス号に飛び乗った。
うぉーと叫びながら、猛スピードでペダルをこぐ。
隣町にある恵比寿湯までは、片道約15分といったところか。

気合ばかりが先行して、よく地図を確認せずに家を飛び出したので、途中でどこに向かっているのか分からなくなってきた。
「恵比寿湯はどこですかバカヤロー!」
通りすがりの人々に尋ねてみたが、みな首をかしげるばかりで的をえない。
仕方がないのでそのまま猛スピードで走っていたら、“恵比寿湯”ならぬ、“日の出湯”に着いた。
据え膳食わぬは男の恥。目的地は違うが、こうなったら日の出湯に入るしかない。
早速アマゾネス号を飛び降りて、破風屋根が美しい日の出湯の暖簾を分けたのだった。

下足箱に履物を放り込んで男湯のガラス戸を開けると、昭和の面影漂う脱衣場が広がっていた。
最近の銭湯には珍しく、子供らが賑やかに走り回っている。
高まる感情を抑えつつ、素早く服を脱ぎ捨てて“TANAKA”のアナログ体重計に乗った。
「よし」
何が「よし」なのか自分でも定かではないが、とにかく、そう呟いて浴場に入った。
正面の壁には、鬱蒼と茂る白樺の森が描かれている。
L字に組まれた浴槽は、左から薬湯、座湯、電気湯に岩盤湯だ。

島カランに肩をならべた3人の坊主頭の子供らが、声変わりしていない甲高い声で、何やら元気に話し込んでいる。
頭を洗いながらその声を聞いていたら、ふと、自分が子供の頃に通った銭湯の記憶がよみがえってきた。
ボクは少年野球のチームに入っていたので、試合の後などは、よくこうして仲間たちと銭湯に通ったものだ。
相手ピッチャーの球質や監督の采配についてなど、子供ながらに一丁前のことを話しながら湯に浸かった。
目をつぶって頭を洗う仲間の坊主頭に、いつまでもシャンプーをかけ続けるいたずらをした。
帰り際、仲間たちとフルーツ牛乳で乾杯し、誰が一番早く飲み干せるかを競い合ったりした。
銭湯とは、こうした思い出を育んでくれる場所なのだ。

湯から上がって脱衣場に戻ると、庭で涼む老人の姿が見えた。その背中が、銭湯民族だった亡き祖父の背中と重なった。
子供らの声でよみがえった昔の記憶といい、なんだかノスタルジックな幻想を見ているようだ。
ふと、庭の一角に目を向けると、タヌキの置物が佇んでいる。
もしや、タヌキが見せる幻想か?
そんなことを思いながら、あの日と同じフルーツ牛乳を探してみたのだった。


『日の出湯』
東京都台東区三ノ輪1-15-12
TEL 03-3872-0671


記:高杉 圭一2008.06.23

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