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阿蘇とくじゅうは兄弟みたいな観光地で距離も近いのだが、南阿蘇の高森町へ落ち着いてからは、くじゅうへ出かけることが少なくなっていた。
その九重(ここのえ)町に10月末、日本一の歩道吊り橋が開通したというので、通過以外で久しぶりに訪ねた。いきなりずいぶん、客でごった返しているらしく、私が行った平日の午前9時台でも、入場口に長蛇の列ができていた。紅葉シーズンでもあった。

九重町といえば多彩な温泉が散在していて、ドライブ中の立ち寄り湯に事欠かないのだが、町としてはそれでは困る、1泊してほしいと、そんな長時間滞在の起爆剤にと、約2年半の年月と約20億円の費用をかけて、「九重“夢”大吊橋」を、鳴子川渓谷に現出させたのだった。
主塔間の長さ(390メートル)で茨城県常陸太田市の竜神大吊橋(375メートル)を抜き、水面から歩道までの高さ(173メートル)で宮崎県綾町の照葉大吊橋(142メートル)を抜き、タテヨコ、名実ともに日本一として誕生したのだ。標高は777メートル。
ところで私は、基本的に高所恐怖症の部類に属する。だがここにいる、1000人を越すとみられる人たちは、そうではないのだろうか? と不思議の思いに包まれながら、頑丈そうにも関わらず、ぐらぐら揺れる吊り橋を渡り始めた。格子越しに谷底がのぞけるが、あまりのぞかないようにして。と、くじゅう連山が遠くに望める。昔は歩いて下りて観賞するしかなかった落差83メートルの震動の滝が、らくらく見渡せる。
高さ長さの数字もすごいが、これはまあすばらしい地点に架けたものだと感嘆した。
まだ見ぬ皆さんのために、こうして強がって説明してはいるが、揺れはやまず、おまけに帰りも渡らないと、駐車場へもどれない。500円で往復できてお得だと思うより先に、わざわざ500円出して命がけの行動をしてご苦労さんな気持ちもないではなかった。
他のある男性は10歩で先へ進めなくなったとわめきちらしていた。
「500円、谷に捨てたようなもんだ」とこぼして、あまり潔い姿とは見えなかったが、命落とすより賢明かも。これもまた憶病者の言い訳でして、橋の名誉のために付け加えると、体重65キロの大人が一度に1800人乗れる強度なのだ。

橋のほど近くに、川端康成も滞在したことのある、ひなびた名湯、筌の口温泉がある。ここの共同浴場は鉄錆びて濁った湯だが、晩秋くらいになるとその熱さが、体に沁みる。
いつにも増して気持ち良くありがたく感じたのは、吊り橋の上で神経がガチガチに張りつめていたからであろう。恐くて震えついでに、真冬の雪が舞う中を渡ったら、幻想世界に乗り移れそうだという想像がよぎった。
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記:福田 章 2006/11/20
特派ルポ:九州よかとこばい
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