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僕の住む横須賀の馬掘・走水には、様々な言い伝えや伝説が残っている。
馬掘という地名は、上総国から海を泳いで渡ってきた荒馬が、小原台という丘に住み着き、土を掘ったら水が湧き出て、その水を飲んだ荒馬が後に源頼朝の愛馬になったという言い伝えから、地元民はそこを「馬掘の里」と呼ぶようになったらしい。
走水の由来は古事記にまで遡る。ヤマトタケルとその妻弟橘姫が上総国へ渡る際、海神の怒りに触れ、沈没しそうになった。弟橘姫はその怒りを鎮めるため、自ら入水し海神の怒りを治め、一行を乗せた船は海を走るように進んでいった、という伝説だ。
それから千幾百年余りが過ぎ、八百万の神々の町も今ではすっかりヤシの木の生い茂る海水浴場になった。夏ともなると家族連れやカップルが大挙して押し寄せ、毎年大量のゴミを残していく。
人混みの苦手な僕は、そういった喧騒からちょっと離れた場所にある『かねよ食堂』という店を時々訪れる。小原台の山と、走水の海に挟まれたとても落ち着いた雰囲気の店だ。
店に入ると、懐かしの黒電話やボロストーブや幾何学アートなどのインテリアが目に付く。旅と波乗りが好きらしい店長さんの趣味だ。
メニューを見ると、走水近海で取れた地魚の刺身やスープが多い。なんでも、店長さんの父親が漁師で、取れた魚を直接料理しているそうだ。
「夏っぽい料理をください」
と言ったら、地ダコと三崎マグロの2色丼とメキシカンタコスが出てきた。
なぜタコス?と思ったが、これが意外に美味い。口に入れると、ぱりっと歯切れ良い音がして、噛むほどにモチモチとした食感が楽しめる。中身はトマトやレタスやアボカド、豚肉など至ってシンプルで、ソースの香草の香りでよりさっぱり食べられ、なるほど夏っぽいな、と納得できた。
2色丼の方も、近海で取れた地ダコと、有名な三崎のマグロの上に香草を乗っけたシンプルな物だ。取れたて新鮮なのでそれぞれ単体でも風味が良く、しそとわさびがさらに香りを際立たせる。
食べ終えた満足感を堪能するため浜辺で一服していると、涼しい風が吹いてきた。
山の木陰から吹いているからなのか、甘い、ふっくらとした土のような匂いも一緒に運ばれてきた。子供の頃から野山を遊び場にしていた僕にはどこか懐かしく、またこの季節がやってきたんだな、と感じさせた。

そんな週末の昼下がりにも、弟橘姫の海は、静かに、静かに、その波の営みを続けていた。
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記:広重尚也
特集:世界の夏を食べ歩き!
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