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小学校にあがったばかりの夏休み。祖母と商店街を歩いていたら、すれ違った女の子が膨らんだビニール袋をぶらさげていた。ピンク色にウサギの絵、ゴムでくくった口に突き出た割り箸の先。あ、綿あめ。思わず声をあげたあたしに、「欲しい?」と祖母が訊く。こっくりうなずくと、祖母はあたしの手を引いて「綿あめ、どこかな」と唄うように言いながら、人波をぬって歩き始めた。
が、結局、綿あめはどこにもなかった。郊外の大きな街の広く長い商店街を、あみだくじをたどるように歩いても、見つからなかった。「遠くの神社でお祭りがあったのかもしれないね」。そう言われて、あかりの灯る夜店を思い浮かべたら涙がにじんだ。べそべそと泣くあたしの頭をなでる祖母の笑顔も、どこか哀しそうだった。
そのせいなのか、今もお祭りというと、まず「綿あめ」を思い出す。そしてずらりと並ぶ夜店の屋台を。
なのに、近ごろのお祭りには夜店が少ない。神社の夏祭りにも数えるほどしか並ばないし、町内会の盆踊りでは、テントの下に焼そばとフランクフルトが並ぶくらいだ。だから、平塚の「七夕祭り」に行ったときには驚いた。日本の「三大七夕祭り」(仙台と平塚。が、なんと、あとのひとつは不確定らしい)のひとつ、というくらいだから、街を埋めつくす「竹飾り」はもちろんのことだけれど、何よりこの祭りには「夜店」が多い。聞けば、その数、およそ900。
「湘南ひらつか七夕祭り」は、JR平塚駅北口商店街を中心に開かれる。竹飾りは、中心街に約500本、市内全域で約3,000本。特に「湘南スターモール」と「紅谷パールロード」という通りにある竹飾りは豪勢で、時の人物や人気キャラクター等を取り入れた大がかりなものが多い。幼稚園や小学校のペットボトルで作った飾りもあって、「○○先生にお嫁さんが来ますように」などと書いてある短冊を読むのも、なかなか楽しい。
このメインストリートに並ぶ屋台は商店街によるもので、それぞれの飲食店の名物やドリンク、いち押し商品などがが売られていて、祭りというよりバザーのようでもある。が、古い瀬戸物屋さんには風鈴や豚の蚊遣りが並び、いかにも手作りといった「おばけ屋敷」も特設されていて、どこか懐かしい風情でもある。郷愁を覚えながら横道に逸れると、とたんに昔ながらの夜店が並び、興奮しつつ右へ左へと歩いていると、ふいに広い通りに突き当たり、思わず、うわぁ、と声をあげた。四車線全てを通行止めにした道に、びっしりと透き間なく並ぶ屋台。その名も、「屋台通り」。
金魚すくいにヨーヨー釣り、射的に輪投げ。べっこう飴にカルメ焼き。そうそう、お祭りはこれでなくちゃ。浮かれながら歩くものの、あまりの数に目移りして買うものが決まらない。イイダコが丸ごと入っているタコ焼きや、「カメすくい」とか「うなぎ釣り」まであって、目を丸くしながら歩き続けるものの、肝心の「綿あめ」が見あたらない。あちこちの店を冷やかしたあと、ようやく見つけたそれは薄暗い路地の角にあり、なんだかやけにひっそりとしていた。買おうかどうしようか迷ううちに人波に押され、後ろ髪引かれながらも通り過ぎる。今の子ども達は、綿あめなど欲しがらないのだろうか。
そう思いながら見渡してみると、こんなの初めて見た、という夜店も多く、頬を上気させる男の子の手には銀色のバルーンが握られ、女の子の胸にはきらきら光を点滅させるペンダントがぶらさがっている。「お面」をかぶっている子どもなど滅多にいない。ハッカパイプもフルーツパイプという新種(?)が主流のようで、「かき氷」のシロップは、小さな蛇口のついた容器からセルフでかけるようになっている。それでも毒々しいほどに鮮やかなシロップの色は、確かに「祭り」特有のもので、子どもばかりではなく大人達も満面の笑みで氷を赤く青く染めていた。
それにしても、なんと食べ物の種類が多いことか。祭りといえば、イカ焼きとか焼きそばの定番屋台が繰り返し現われるだけだと思っていたけれど、この祭りの屋台は実にバラエティに富んでいる。横須賀風ねぎだこ、明石焼き、博多地鶏焼き。松坂牛串焼きという屋台には、大きくカットしたステーキ肉が串刺しで並んでいて、思わずのけぞるような迫力だ。その他にも、信州おやき、元祖大橋屋のチキン、佐世保バーガー。餡餅(シャーピン)、チェロス、シシカバブ。ここはデパートの物産展か?とも思うけれど、根本的に違うのは、それらが皆由緒正しい「夜店の屋台」に並んでいることだ。軒に揺れる鮮やかな暖簾、黒々と踊る大きな文字、橙色の丸い灯り。ねじり鉢巻きのお兄さんや首にタオルを巻いたお姉さんの威勢のいい濁声に、群がる冷やかし客がどっと笑う。それはまぎれもなく祭りの光景で、居並ぶ屋台の透き間をゆったりと歩く人々の足は、日常から少しだけ浮いている。
軒を並べる夜店の途中には、空いたスペースにテントを張って、テーブルと丸椅子を並べた「呑み食い処」が何ヶ所か特設されていた。ようやく日も傾いて、さすがに歩き疲れたあたしたちは、入り口にはためく「生ビール」の旗に呆気なく陥落してしまう。オトナは、やっぱりこれでしょ。夫や友人達とそう言いあいながら、冷えた生ビールで乾杯する。飲み干して思わず大きな溜息をつくと、ふいに綿あめを探して歩いたあの夕暮れを思い出した。赤々とともる提灯の向こう、人波の揺れる通りのどこかに、今はもういない祖母が歩いているような気がした。まだ年若く美しい祖母と、綿あめを抱えた子どものあたしが手をつなぎ、笑いながら歩いていく。そんな気がしたのだった。
今年もまた、行けたらな…。
第58回 湘南平塚七夕まつり
平成20年7月4日(金)〜7日(月)
竹飾り消灯・露店閉店は21:30です。(最終日は21:00まで。)
夜店以外にも、たくさんのイベントやパレードなどが催されます。詳細は平塚市のサイトにて。
http://www.city.hiratsuka.kanagawa.jp/tanabata/index.htm
商店街には、夜店以外にも、平塚の名産品などを販売する特設会場などもあるので、お土産を買うには便利かも。
湘南ひらつか名産品・推奨品等特設販売所設置MAP
http://www.shokonet.or.jp/hiratuka/tanabata/tanabata-meisan.htm
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記:田川ミメイ
特集:世界の夏を食べ歩き!
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