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アウトドアでこそ旨いもの 2.首折サバを食す
食材を求めて九州へ
知人のOシェフが、今度福岡にレストランをオープンすることになった。私は、彼のレストランで使う食材の仕入先を開拓するために、一緒に九州食材探しの旅に出た。同行者はもう1名I氏。I氏は以前勤務していた会社の上司で、現在は退社し、NPO法人で鹿児島県の産業振興や観光PRの活動をされている。我々男3人、鹿児島の農家や食品会社、市場などを回る毎日、つかの間の休暇ということで、地元出身のI氏の勧めで串木野方面に行ってみることにした。

東京を出発するときから、I氏は、「鹿児島行ったら、首折サバ食べよう!」としきりに話していた。鹿児島到着の夜、我々は早速、I氏のなじみの割烹に行った。しかし、あいにくこの日は、「首折サバ」がなかった。お目当ての物がないと、実に悲しいものである。この男たちの共通点は「くいしん坊」であるということだ。それだけに、食べ物に対する執念もすさまじい。お互いに「同じにおいのする生き物」と称して、酒を飲み交わすのだが、やはり、このまま「首折サバ」を食わずして、帰ったとなれば、「一生の不覚」とばかりに、翌日、日置市東市来町にある江口浜に行くことになった。

その翌日は日曜日でありながらも、仕事のスケジュールが入っていた。一行は、早朝ホテルで食事を済ませた後、牧場見学に出向いた。ここでの取材、ならびに、仕入れ交渉をしている最中も、不謹慎ではあるが、今日の昼飯は何を食うのか考えていた。頭の中から「首折サバ」が消えないのである。一通り話が済んだら、車は一目散に江口浜に向かう。すでに、気持ちは「現地」に飛んでいる。最高気温が35℃に達する真夏日。海岸では海水浴を始める若者や子供たちの姿が見える。

ゴマサバ!痙攣!!
市来ICで高速道路を降りて、右手に海岸線を眺めながら国道207号線を南に下ると、車が多く駐車され人の賑わいを感じる場所に到着する。「江口蓬莱館」である。地域産物のブランド化を目指して、様々な食材の販売をしているコミュニティーであるが、我々一行も冷やかし半分で覗いてみることにした。
日曜日の昼時ということもあり、多くの人手でにぎわっていた。食堂施設もあるが、すでに満席で潜り込む隙間もない。
ここでの昼食はあきらめ、海産物を物色する。館内左奥に鮮魚コーナーなるものがあり、その日にあがった魚が並べられている。多くの種類の魚が陳列されるなかで、ひと際目立つ場所があった。なぜか?氷を引いた台の上で、魚がピクピク動いている。これぞ、まさしく「鮮魚」というにふさわしい物のように思える瞬間であった。
それは、鮮度保持のために、首を折られたゴマサバが痙攣を起こしている状態である。首を折られ瞬間に血抜きして並べられている。

サバ、GET!!
1尾730円という値段がつけられている。決して安い値段ではないが、鹿児島でも、このような状態で一般客が購入できる「首折れサバ」は、他にあるだろうか?生きているサバを浜に上げて、すぐに処理して販売する東市来町の漁協のすごさには脱帽だ。「町おこし村おこし」とは、つまり、こういうことなのだと感じた。地域の特性を活かし、その土地ならではの食材を他に真似できない状態で提供することで、話題を盛り上げ、人々の関心をひきつける。私も、しばらく、この魚の前に釘付けになってしまった。そして、どうしても、この魚「食べたい」という衝動に駆られた。しかし、食堂はご覧の有様。ならば、「自分で捌こう!」と思い立ったのだ。「三枚に卸してくれる?」と店の売り子に聞くと、「そこまではできないけど、頭と内臓は落としてあげる」と応えが返ってきた。

生姜、醤油、酢、そして酒!!
九州での旅はキャンプも予定していたので、車に、まな板&包丁は積んである。「よし!ならば、これを買って海辺で刺身を食おうじゃないか!」という私の提案に、諸手をあげて喜ぶ同行者ふたり。氷を詰めたビニール袋に下処理をしたゴマサバを詰めて、レジで勘定を支払う。
車に向かう間も、ビニール袋の中での「痙攣」は治まらない。頭も内臓も無いのに、魚が生きているようにピクピク動くのである。なんとも不可思議な感覚である。

すぐさま捌いて刺身にして食べようと切り出すと、「コレに焼酎があればなあ」と訴えるような目で見つめるI氏。確かにと納得。しかし、私は車を運転する立場なので飲むわけにはいかぬ。自分の願望は抑えるとしても、この場所を教えてくれたI氏の思いも汲んで、焼酎を手に入れる方向で話が進む。合わせて生姜、醤油、酢なども必要になるので、コンビニか酒屋を探すことにした。

コンビニまでは距離があったが、道すがら、店先で野菜を売っている店を発見。ここで生姜を入手。醤油は自前のものがあったので、あとは、酢と焼酎。幸い近所に釣具を販売する酒屋を発見。店先に車を止めて酢を探す。酢は店の奥の棚に陳列されていたのだが、問題はそれが一升瓶であるということだ。「ううーーーんんん!」私は思わず唸ってしまった。
店のおばちゃんが「どうしたの?」と後ろから声をかけてきた。「実は、かくかく、しがじか」と、サバを買って食べる話をしたところ、それならば、買うまでも無く「家にあるのを分けてやる!」という話になった。その瞬間おばちゃんの顔が女神様のように見えた。「うちは親切な酒屋だから!」と、紙コップに米酢を分けてくれた。もちろん代金などとらない。嬉しくて、焼酎、ビール、ジュースと奮発して買い込んでしまった。でも、見知らぬ旅先で人の親切に触れると、とても嬉しくなってしまう。

サバをサバく!!
我々一行は、再度江口浜に引き返す。海辺の駐車場の奥に車を止め、折りたたみテーブルとイス、包丁&まな板、魚と酒が入ったクーラーボックスを、それぞれ持って、浜辺の公園に向かう。日よけ付きのベンチがあったので、その場所で捌くことになった。テーブルにラップを引き、ペットボトルの水でまな板をぬらす。早速クーラーボックスから魚を取り出すが、先ほどの痙攣はすでに治まっている。まるで手術をするかのような使い捨てのゴム手袋をはめて、「執刀」を開始する。

鯖は、扱いが悪いと身割れしてしまうデリケートな魚で卸すのが難しい。この日の鯖は鮮度抜群で、身割れの心配はまったくない。身にも弾力性があり、包丁を入れてもプリプリとはがれていくのが、小気味良い。
包丁は鋼のものが切れ味良いが、錆び易いという欠点がある。アウトドアで利用する包丁は、断然ステンレス製あるいは合金物が良いだろう。少々手入れを怠っても、錆びる心配はない。しかし、切れ味は、良く手入れしておかないと、満足のいく結果にならないので、油断は禁物である。

腹骨をすくい、きれいに整形する。慣れないうちは、腹皮をもろにすくってしまい、食べる部分が少なくなってしまい、悲しい思いをしたこともある。この腹骨をすくう作業は、出刃包丁ならではの特製を活かして行う。
出刃包丁の刃と峰(包丁の背)の間にある膨らんだ部分のことを「しのぎ」と呼ぶが、この「しのぎ」が魚を捌くときに重要な役割を果たしている。出刃包丁は、「しのぎ」を境に刃と包丁本体に「角度」ができるように作られているので、魚の骨と身を切り分けるときに、ちょうど使い易いように手首の角度が固定される。
これを考えた日本人は天才だと思う。世界に類を見ない機能的な包丁だと自負しても良いのではないだろうか?普通の万能包丁でも魚を捌くことは出来るが、この作業に関しては、出刃包丁にはるかに及ばない。

卸した鯖の身が膨れている。鮮度が良いから身の張りが断然違うのだ。身の締まりに関して言えば、東京の市場で買う「関サバ」よりも上等である。「サバの生き腐れ」という言葉があるように、サバは鮮度が落ち易い魚である。もし、美味しいサバを食べようと思ったら、できるだけ漁場の近くで食べるに限る。この場合、ピクピク動いていたものだから、これ以上の鮮度を期待するのであれば、あとは船に乗るしかないだろう。

新鮮なサバを焼く
卸した身の一部は、皮目に包丁を入れ、金串に刺してバーナーで焼く。生のものを焼いたので、身崩れが起きてしまったのは、少し残念な結果になってしまった。酢で締めたものを焼くと格別な味わいになること間違いなし。

薬味の生姜をおろすための、おろし金も常備している。好みの問題もあるが、青魚は生姜で食べるものと決めている。皮を剥いて円を描くようにやさしく卸すことで、繊維が旨く断ち切れて、おいしい生姜になる。この方法は大根おろしにも言える。「雑」におろしたものとは「味」が違うので、是非お試しを。

江口蓬莱館の入り口付近では名物の「つけあげ」が販売されている。「つけあげ」とは、俗に言う「さつま揚げ」のことであるが、鹿児島の人たちは、「さつま揚げ」とは呼ばない。材料は、白身の魚だけではなく、イワシのすり身なども使っているものもある。さつま芋が入っているのも鹿児島らしい。しかし、何ゆえ、「さつま揚げ」とは呼ばないのだろうか?おそらく、その呼び名は、鹿児島以外の人がそう呼んだのが始まりかもしれない。ナポリにはない、「ナポリタン」のように。

旨し!首折サバ!!
身が引き締まって歯ごたえのあるサバである。小ぶりなゴマサバは焼いて食べるものと、相場が決っていたが、この「首折サバ」を食べたからには、その考え方を改めなければなるまい。

ある男が、この「首折サバ」の鮮度を保ったままで、東京に運んで食べてもらおうと研究している。それほど遠くない将来、この美味しさの魚を東京で味わえる日が来るかもしれない。

次号につづく

記:水上 均
特集:6〜7月はアウトドア!

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