|
師走の慌たださが少し一段落した、エアポケットのようなある日、オットの実家から突然電話が入った。「お父さんが、入院しちゃったのよぉ」と姑のアヤコさん。ええっ!
「でもね、大したことないの。下痢が止まらなくてね。年よりは脱水症状がコワイから、入院しちゃえってことになってね」
翌日、総合病院に義父を見舞ったところ、そこそこ元気でホッ。
「船に乗るから、それまでに退院するからな」なんて勝手に決めて、じいちゃんってば。しかし、世の中そんなに甘くなかった。主治医から「今は薬で下痢を止めている状態です。食事もやっと三分がゆなのに、船に乗るどころか退院も無理です」と、旅の前日にドクターストップ。すったもんだの末、ピンチヒッターとして、急きょ嫁の私がアヤコさんのエスコート役として、飛鳥(2)2泊3日クルーズに乗ることになったのである。
旅に出るときはジーンズにリュック(取材旅行でも)。ゲストハウス、土木関係者御用達民宿など、泊まる場所は安くあげる。最近はサウナも範ちゅう。食事は地元の市場やスーパーで調達する。そんな、“およそいき”の旅とは無縁の私に転がり込んだ豪華クルーズ。そこで体験したアレコレをレポートします。
●旅のいでたち
前日も深夜まで仕事して、旅支度をしたのは出発3時間前。
「えっと、ドレスコードはインフォーマル…って何これ?」説明文を読むと、夜の服装は盛装までがんばらなくていいけれど、そこそこ気を使いましょうというニュアンス。ううむ。キャリーケース(じいちゃんの退院用だったのを借りた)に、ちょっとよそいきのワンピース、ブラウス、スカートをギュウギュウ詰める(仕事用パソコンも…)。スーツにコートをはおり、くつはヒール高めのパンプス。今まで絶対にあり得なかった旅姿…。
●セイルアウェイパーティー
夕暮れのなか、デッキで振る舞われるホットワインを飲みながら出港風景を楽しむイベント。横浜港の夜景を見ながら、「やっとここまでたどり着いた」ハァーとため息。アヤコさんは、「お父さんにはかわいそうなことしたわねえ」としみじみ。飛鳥のキャラクターと思われる着ぐるみさんが場を盛りあげようとお客さんに愛想をふりまくが、あまりお近づきになりたくないなあ。このデッキパーティ、出港のたびに催されていたが、寒いのであとはパス。
●飛鳥(2)の乗船客
今回の船旅は、アヤコさんの女学校時代のお友だちHさん夫妻と一緒だった。ご夫婦とも持病をいくつかかかえ、特にHさんは、食前食後にものすごい量の薬をコップ2杯の水で摂取。船旅なら「少しぐらい体に支障があっても大丈夫」ということで、海外クルーズにも出かける、飛鳥(2)の常連とのこと。
Hさんのようなシルバー世代が多い。蝶ネクタイにタキシードをビシッと着こなし、車いすに乗った、銀髪の紳士が印象的だった。
40台、50台の女性グループも目についた。若い人もチラホラいたけれど、役者不足という感じ。おじいちゃん、おばあちゃんと一緒の子どもを見つけたときは、「孫とはいえ、チビのぶんざいで10年、いや100年早いぞ」と心の中で毒づく。

●食事
船旅の一番の楽しみは「食」にあると見た。
朝・昼・夜の三食に加えて、エレガント・ティータイム(ケーキやハンバーガーがあるらしい)、レイトスナック(午後11時〜の夜食でにゅうめんなど軽食が出る)が提供される。そのほかにもお寿司屋さんやバー(有料)があったりする。

朝食は、和食とビュッフェスタイルの洋食がチョイスできる。
H夫妻と一緒に和食を食べたのだが、銀しゃりがうまー!! 五穀米のおかゆもあって、それも食す。正統派の日本の朝ごはんを堪能し満腹な私の横で、アヤコさんとHさんが目配せし、「さあ、行くわよ!」と席を立つ。ど、どこへ?「デザートに行くのよ」と、洋食ビュッフェのラウンジへ向かう。
洋食ビュッフェには、フルーツコーナーがあり、オレンジ、メロン、すいか、ブドウなど、冬どきに高価な果物が盛りだくさん! そうか、これを食べない手はないわけか…。
アヤコさん、「あらあ、カリカリベーコンがおいしそう!」と大皿を手に、ついでにスクランブルエッグやサラダなどものせていく(見守る私はウップ)。恐るべし、朝食の二度食い!
昼食で一番おいしかったのが、の洋食ビュッフェのチーズパスタ。大きなチーズは、世界一周クルーズのとき、イタリア寄港先でシェフ自ら買い付けたとか。「そのほかにも、新鮮な魚貝類や特産品を料理に取り入れる楽しみがあるんですよ」と船のシェフとしての醍醐味を語ってくれた。
私はパスしたが、アヤコさんとHさんはティータイムもおしゃべりしながら、アレコレ食べた模様。後日聞いた話では、3か月の世界一周クルーズですべての食事を網羅した結果、30kg太った人がいたそうだ。そこまでいかなくても、豪華客船の旅は、気分のおもむくまま食べていたら絶対に太る!と断言したい。
●ディナーパーティー
今回のクルーズのメインイベントは、Xmasスペシャルディナー。「ドレスコードはインフォーマルですが、乗組員は盛装でお迎えいたします。男性はタキシード、女性はカクテルドレスなど、フォーマルもお楽しみいただけます」とパンフレットに書いてあった。実際、皆さん、かなりリキが入っているようす。美容室も満杯とか(あるんですよ、エステも美容室も)。日常で、華やかなドレスや豪華な着物を着る機会はそうそうない。船旅の毎日はそれができる。それがメインディナーであれば、なおさらだ。
アヤコさんは「私は地味でいいのよぉ」と言いつつ、スーツケースのなかからドレス選びに余念がない(しかし、2泊3日の船旅に海外旅行用のサムソナイトってどうよ)。
私? 私は今回黒子。およそいき程度のワンピースざます。で、せっかくだからアヤコさんに今風のお化粧をしてさしあげる。アイシャドウにハイライトのホワイトをほどこし、アイラインをくっきり入れたら、「あら、すてき」とアヤコさんはニッコリ。
ディナー会場に並ぶ人々は、さまざまなドレスに身をつつみ、上気した顔、顔、顔。
着物姿の女性。後ろから見たら、背紋が入るところに天使の絵がほどこされていた。すてきだなあ。やるもんだなあ。 海外のクルーズ船では、ベストドレッサーが選ばれると本で読んだことがある。飛鳥(2)でもやったら盛りあがるだろうなあ。
●お楽しみアレコレ
太平洋をゆっくり航海する船内は、いろいろなお楽しみが演出されている。
アヤコさんたちは「船に乗ったらこれをやらなきゃ」と、カジノのスロットマシーンにはまる。私もちょっとやってみたが、ぜんぜん出ない。そこで、ブラックジャックの台に行ってみた。遊び方をていねいに教えてくれるので、初体験の私もすぐに慣れた。「これ、おもしろーい!」。あとから加わったアヤコさんも、お気に召したようだ。国内クルーズの場合、本格的賭け事はNG。でも、買ったコインの数に応じて景品がもらえる。
もうひとつ、盛りあがったのがビンゴゲーム大会。残念ながら賞品はゲットできなかったけれど、なかなか高揚感を楽しめた。
 このクルーズの寄港地は清水と新宮。陸上のオプショナルツアーもあったけれど、寒いのでパス。でも、飛鳥(2)だけで、アヤコさんもHさんも十分満足していた。船旅の場合、目的地が目的ではなく、船旅自体が目的なのだと実感。朝起きたら、海にポッカリ富士山が浮かんで見えた。そんなエピソードで十分なんである。
●まとめ
今回、涙の断念をしたじいちゃんとアヤコさんは、春にふたたびHさん夫妻と一週間のクルーズに行くのを楽しみにしている。
日本の高度成長時代にひたすら働いてきたシルバー世代で、豪華客船の旅を楽しむ人々は限られているのかもしれない。でも、後日、調べてみたら、1泊体験クルーズもあり、各種割引を上手く利用すると、決して手の届かない金額ではないことがわかった。
私はというと…今回のクルーズでお腹一杯である。船室の扉をあけるたび、いずまいを正す旅は性に合わない。リュックしょって自由気ままにほっつきまわる旅が、今のところ気に入っている。でも、10年先、20年先、船旅に目を向ける自分も想像できる。
それが本音かな?
|