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有働薫のQui est-ce, Madame?

「ペレアスとメリザンド」とわたし

現在までに5冊の詩集を出版していますが、第1詩集『冬の集積』(1987)には「メ リザンドの娘」、第3詩集『雪柳さん』(2000)には「スタラクタイツ・スタラグマイツ」と、たびたびこの戯曲から自分の作品の題材を取っていることをプロデューサーの方から指摘され、自分では気付かなかった「こだわり」があるのがわかりました。なぜこの「お話し」に惹かれるのか、それを考えてこの戯曲紹介を終りたいと思います。

中学生のとき演劇部で「青い鳥」を演じることになり、共学校にもかかわらず男子部員が居ないので、しかたなく色黒で眉毛の太かったわたしがチルチルをやることになり、色白で巻き毛の友だちがミチルをやったのはいいが、妹のミチルのほうが背が高いと笑われたのでした。この上演は火や水やの妖精の表現もよくできていると、学校祭で再演にもなりました。そのころのことを第3詩集『雪柳さん』に「内気な中学生」という詩で書いています。指導は国語の川口先生でした。最初にも書きましたが、高校に入って演劇部でメーテルランクに眼をつけたのは、この中学時代の経験が下敷きにあったのかもしれません。
でも「青い鳥」のような演じやすい作品はもう他にはメーテルランクにはありませんでした。神秘性と象徴性の強い作家で、最近短編を1つ読みましたが、それも子供のころ井戸に落ちた時の印象を夢幻的に書いたもので、かなり病的なわかりにくい作品です(モーリス・メーテルランク「夢の研究」フランス幻想文学傑作選3白水社1983年刊)。

惹かれたのは、フランス文学辞典で見た挿絵のペレアスが金髪のスレンダーな王子であること。メリザンドも華奢で夢のような美少女でした?男美女の悲恋物語だから、野暮ったい、強引な夫ゴローをメリザンドの身になって憎みました。このカップルをこんな目に合わせ、追い詰める憎い仇役だと思っていました。不倫だとはいえ、純愛はわが方にあり、というわけでした。それとメリザンドの素性の知れなさも魅力でした。当時ソプラノ歌手古沢淑子がメリザンドのはまり役と言われ、その貴族的な雰囲気に憧れていました。残念ながらこのドビュッシーのオペラの上演は見てはいないのですが、古沢さんのフランス歌曲のリサイタルなどを熱心に聴きに行きました。思えばこの定型想念がずっと手付かずで続いていたわけです。メリザンドが死の直前に産み落とした女の子、泉に落ちたペレアスの結晶化した遺体の保存のよさ、そんなところばかりに気が向いていたのは今で云えばかなりのオタクだったのでしょう。

今回の詩のコーナーで、ためらいなく出てきたのが、「わたしの好きな純愛物語」だったはずでしたが、プロデューサーのまりこさんと話しているうちに、ペレアスよりメリザンドより、この古い城の跡継ぎの、もう若くはない王子ゴローの侘しさにはっと目が開いたのです。杉本秀太郎さんの解説によれば、メリザンドは水の精オンディーヌ、ペレアスはその女神への犠牲の若子と読み取れるというのでしたが、ということは、ゴローとペレアスが城の土台の腐食を調べるシーンがありますが、そのあたりが俄然重要な意味を持ってくるのでした。やがては水没するであろう古い城、それに立ち会うことになるだろう人間としての不幸なゴロー。人の生のあやうさのなかに、神話的な幻想の花がぽっと咲くのを眺める気分がして来たのでした。これからは、今までとは違った側面から、より深くこの戯曲、メーテルランクの美学の魅力を味わって行こうと思います。


有働薫著『スーリヤ』より ふらんす堂刊





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