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「メリザンドの娘」
メリザンドは死の床で
女児を生んだ
盲目のアルケル王はいちはやく赤子を死んでいく母親から
引き離した
あなたに名をつけて
あげよう
一つの疑問をのがれたあと
すぐに別のもっと大きい影にすくいとられてしまった不運な
母を知らぬ名を「やぐるまそう(ブルーエ)姫」と
王女は成長した
母の面影そのままに
とりわけ声は母の生き返りを錯覚させた
「春の海を渡ってきた」と感じとる人がかつてこの城にいた
ことは伏せられたまま
ある日王女は
昼も暗いすがれた庭園にうちすてられた泉をみつけた
地の中心から湧きでるかのように澄みきった深い泉
水の眠りが聞こえそうな静寂
ぼだい樹の下の大理石の水盤のふちにこしかけて……
昼の鐘が鳴ったとき人の叫びを聞いたように思った
夜が美しかったので
少女は窓を開いて髪をとかしていた
異国の小鳥のように歌をくちずさみ
星のいちばん多い夜海上に月も昇った
庭園の闇に一輪のばら
髪と光がまざりあい
いくえにも編目をつくり
塔を流れくだって……
そのとき流れる毛先にくちづける人の指先を感じたと思った
鳩がとびたち闇の中にきえる
ある夜露台から
大きな船が港を出ていくのがみえた
帆をあげ
あかりを高くかざして
灯台の火でその帆が見分けられた
ああわたしの船が出ると王女は思わずつぶやいた
晩くまで森で遊んだ少女は花と葉で腕を一杯にしている
少女はいつごろからか
窓を開いたまま眠るようになった
夜閉じられた窓ガラスに人の姿が映っているのを見たように
思ったので
夜の湾をこぎさった船は
南へか北へむかったか
きこえるわたしに
海を渡る鳥のはばたき
流氷のきしむ音
櫂をあやつってわたしもいくだろう
予感のむこうへ
有働薫著『冬の集積』より 詩学社刊
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