まりこさま
では、『閉ざされた庭』にはいりましょうか。
ぼくという若い男性が語りはじめます。
ガラスのかけらでひげを剃るというし、猫の背中に蚤がうごくというので、どんな状況の話なのだろうと、いぶかしく思います。読み進むうち、この語り手がもう4年8か月、21日の間、公園で夜を過ごしており、その間一歩も公園の柵の外に出たことがなく、他のホームレスたちと助け合って生きていることがわかります。
今からおよそ5年ちかく前に、この公園で恋人を待っていて、恋人のエルザが暴漢たちに襲われ、助けられずにただ見ていた、そのときから、彼は両親の待つ家に帰れなくなり、いくども探しに来た家族から逃げ隠れしている。事件当時18歳の恵まれた大学生だった彼が、なぜこんなに長いあいだ、こんな苦しみに身を沈めなければならないのか。
話は現在進行形で、青春を謳歌した過去の生活と現在の状態を対照させながら、元に戻ることはけっしてない、生存ぎりぎりの状態を具体的に、詳細に、冷静に語っていきます。たとえば、「19歳になった日、この誕生日に、パトリックが僕をとても痛い目にあわせたので、つかまっていた(公園の囲いの壁の)石が外れて落ちた」、と語られる事実を思うと、その無残さに、背筋が固まる思いがします。
こんなふうに、日常の家庭生活ではありえない事態が、ありのまま、冷静に語られて行くのをたどっていくうちに、ホームレスの人々に持っていたさまざまな偏見が、鱗のように剥がれ落ち、自分の日常が問われるような気持ちがしてきます。
作者が設定したこの過酷なフィクションをまりこさんはどう思いますか?
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