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有働薫のQui est-ce, Madame?


まりこさま

池澤夏樹さん新訳の『星の王子さま』のあとがきに、星の「王子さま」はイエス・キリストに似ている。それが言い過ぎだとしたら、天使と言い換えてもいいけれど。という行に出会って、なるほどと思いました。

池澤さんはその理由を、天から降りてきて、自分自身も傷つきながらモラルに関するメッセージを人間に伝えてまた天に帰るという行動のパターンが似ているというのです。さらにあとがきのあとのほうでは、語り手のパイロットも「王子さま」も共にサンテックス自身である。と書かれてあり、ヨーロッパの作家は、こういう考え方をよくするように思いました。

訳をする者も、はやくどういったタイプの作家であるかを決めたくて、このパターンをいち早く持ち出してしまうという欠点があるかもしれません。小説を訳そうとすることは未知の世界を、手探りで進むようなものですから、パターン化してみれば分かりやすいと思っただけです。私が教養があって、まりこさんは教養がないなど言いたいのでは毛頭ありません。

とりあえず、そうしてみておく、といった意味でしかありません。 ぜんぜん違った読み方もできるよ。と教えられれば、ああそうか、あんな古道具は使わなくても済むんだったのに、と読み手の新しい感覚に感心するばかりです。訳者というのは、あんがい保守的で、用心深い。あまり個性的に飛んでしまわない。標準を心がける。というのが、役目上のモラルなんです。

読者の読みの冒険をしっかり支えるためにも、訳者はしっかり標準的でなければと、自分を励ましているんです。小説を読むのに、資格や条件などいらないのも本道です。自分がどう読むか、だけで充分です。でも標準を嫌わないでください。個性にとっては野暮くさいかもしれないけれど、標準というのは恩恵に満ちていると思うんです。「親の脛」のようなものかもしれません。 

 
有働より
 




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