「みんな強くなって、一回り大きくなります」
星野さんが思い描き、願ったとおり、氷上生活体験はこどもたちを育てている、と新開さんは実感している。
なにしろ東京⇒シアトル⇒アンカレッジまでは空路として、ルース氷河へはタルキートナのポートからセスナで飛ぶより交通手段はない。よしんば活動日程を終えた時点でも天候に恵まれなければセスナも飛べない。根を上げて途中で投げ出すことはできないのだ。
理屈で諭すまでもなく、身をもって全てを学び、意識するとしないとにかかわらず自立心と自己信頼を獲得したこどもたちにとって、その体験は確実にその後の人格形成のターニングポイントになるに違いない。
「いじめで悩んでいたけれど『それ自体がなんてちっぽけなことだったんだろう』と思えたとたん、いじめにあわなくなった」「様々に困難な状況に置かれた時、人生の岐路に立った時、あの体験が胸の底に原風景となって自分を励ましてくれた」「あの時を思い起こせば、どんなことでも立ち向かう勇気が湧いてくる」
かつての参加者たちのそんな声が聞こえてくる時は「活動を続けてきてよかった」と、いっそう嬉しい気持ちになる。
「氷上の医者だって必要でしょ、と言って、医者を目指しているのが二人もいるんですよ」
思えば、その喜びをエネルギー源にして活動を続けてきたと、新開さんは14年を振り返る。
できるだけたくさんのこどもたちをルース氷河に連れて行きたい。そのためにはコストダウンは常に課題だった。NPOの申請もしたが、活動の場がアラスカだからと受理されなかった。NGOはというと、あまりにも煩雑な手続きやその後の必要労力を考えると、ただでさえスタッフはボランティアで活動に参加していて、「仕事」との兼ね合いに苦心している状況下ではとても困難だった。
企業に働きかけ基金を募ることも考えた。マスメディアや装備・装具の関係企業にあてもあった。
しかし、企業から支援を受けることは、それ相応の見返りも要求される。その都度カメラが入ったり、選択肢をせばめなくてはならなくなったり、束縛されたりもする。こどもたちの自然な感性の発露をスポイルしてしまうことを何よりも恐れた新開さんたちは企業をノックすることも断念した。
参加したこどもの親たちをはじめ、クラブの趣旨に賛同してくれる人たちからなる会員の年会費1万円の他には、毎年、製作販売しているカレンダーの売り上げだけを資金源として活動してきた。
カレンダーに使われている写真は、アラスカで撮影された動物や風景で、いずれも、星野さんの遺作。2006年版は既に販売を開始している。
「夏のアラスカも素晴らしいんですよ」
今年試しに実行した夏の企画が好評だったこともあり、アラスカ行き・夏バージョンを軌道に乗せることを新開さんはこれからの目標にしている。アラスカ・ユーコン川のラフティング。川岸でキャンプを設営しながら、10日をかけて川を下る。氷雪の時期とは打って変わってアラスカの大自然が、おおらかで豊かな表情を表すのだという。
嬉しいことに若手スタッフが育ってきていると新開さんは感じている。10回キャンプからスタッフとして参加してきた渡辺直史さんは、今年は新開さんに代わって引率責任者を担当した。渡辺さんと同じ写真家の野村恵子さんと、ボディーワーク、カラーセラピー・セラピストの斉藤万里さんは2004年からスタッフとして参加している。「目標達成は固い」と新開さんは期待をふくらませているのだ。
「そうやってオーロラクラブが広がって続いていけば、星野の遺志に報いることになるでしょう」
新開さんは顔をほころばせた。