別荘のオーナー層と永住層の融合が比較的スムーズなのに比べ、二つの層と地元の人々との融合がそううまくはいかない現状もある。三つの文化の「二極化」を広川さんは指摘する。
もともと外国人の手によって外からもたらされた独特な文化は、長い間地元の人たちにとっては「縁のない」雲の上のものであり、踏み込めないエリアだった。二つの文化は融合など望むべくもない異質なものとして、それぞれが別々に変遷してきてしまった。その精神的な土壌が今も地元の人たちに根強く残っている。
軽井沢のみならず日本の貴重な文化を、行政を含む当の軽井沢の人々が価値を認識していないのでは、と広川さんは心配する。
「別荘文化は自分たちとは関係ない、という捉え方じゃなく、それを含んでの郷土愛が必要なんです」
乱開発にもつながりかねない小規模開発を避け、環境を守るためには、地元の人たちの理解なくしては望めないと、広川さんは考える。いつの間にか「軽井沢の魅力を伝える」と「軽井沢の自然や文化を護る」は、広川さんの中で同義語になっていった。
英国のナショナルトラストになぞらえた、軽井沢の自然や文化を護る「軽井沢ナショナルトラスト」は設立から10年を経ようとしている。その価値を知られないままオーナーが代わるうち、床暖房やセントラルヒーティングなど、便利さだけを追い求めた結果、歴史的に価値のある洋館別荘が無残にも取り壊されてしまうことに惜念と危惧を感じた郷土歴史家や有識者とともに立ち上げたものだった。
会員として名を連ねた別荘のオーナーには元有島武雄邸や堀辰雄邸などの保存のために力を尽くした人たちも出た。元建築家レイモンド邸はペイネ美術館として保存されている。
もちろん建造物を残すことだけではなく、野鳥の声が聞こえ緑の木漏れ日がさす林や森、清らかな水の流れ、他に類を見ない野草の数々など、その周りの環境ごと護っていかなければならない。
「なんとかして地元の人たちや行政も巻き込んだ軽井沢の自然と文化を守るためのシステム作り、それがこれからの課題ですね」
少しずつでも理解をうながすことができればという思いで、Vignetteはストックが出るのを覚悟で冬号も発行を続けている。外へ向かっての発信ではあっても、続けていくうちに内側への影響力も期待できるはずだと信じればこそだ。「軽井沢新聞」も採算を度外視して出し続けてきた。2006年には観光協会が発行する「観光案内パンフレット」の編集も引き受けることにこぎつけた。
「これほど、好きなことを好きなようにやってきた人もいない、と思うくらいやりたいことをやってきたんじゃないかなー」
と、東京の大学で仏語の教鞭をとり、時々はVignette編集の助っ人にかけつける長女の美愛(ミマナ)さん。
「ま、働く女性の鏡だとは思いますよ。主婦・母親としては…だけど」
など、ちょっとばかり憎まれ口をきく娘に、笑いながら
「よく、いうわ、好きに言ってよ」
なかなかどうして、うらやましいような母娘関係のようでもある。