VIVA ASOBIST

Vol.60 田部井淳子
「山は楽しく登ろう」――偉大な女性登山家の真骨頂

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【プロフィール】
1939年福島県生まれ。
登山家
62年、昭和女子大学・英米文学科を卒業後、社会人の山岳会に入会。登山活動に力を注ぐなか、69年に『女子だけで海外遠征を』を合言葉に女子登攀クラブを設立。75年、エベレスト日本女子登山隊・副隊長兼登攀隊長としてエベレストに女性としては世界初となる登頂に成功した。その後、92年にはこれまた女性初の7大陸の最高峰登頂者となるなど世界に誇る女性登山家であり、71歳となるいまも山に登り続けるスーパー登山家。
近著として『田部井淳子のあんしん!たのしい!山歩きお悩み解決BOOK(マイコミムック)』(毎日コミュニケーションズ)。


公式ホームページ
http://www.junko-tabei.jp/index.html

あけましておめでとうございます。
昨年は無念のモンブラン断念があったアラカン編集長、
今年はモンブランへリベンジとなりますが、ヒマラヤに登ったと言っても、
失敗経験があるだけどうも弱気になってしまうのが、アラカン編集長のいいところ。
そんな相次ぐネガティブ発言をキッチリ受け止めてくれたのがこの方でした。
今回は偉大すぎる女性登山家、田部井淳子さんが登場!


★女性初のエベレスト登頂も“七大陸”も「女性が行っていなかっただけ」

――これはもう、いつもお話になっていることかと思いますが、まず最初に山へ登ろうかと思われたこと…女子による社会人山岳会をお作りになったことなどもうかがっておりますが、その当時のことを教えてください。
田部井●小学4年生のときから山との付き合いは始まっているのですが、大学を卒業したときに社会人山岳会に入ったんですね。そこはもうみんな男ばっかりで。その山岳会でずーっと男と登ってまして、最初は女と登るなんて考えはなかったですよ。でも、そのときは本当に登ってて辛かったです。
――辛かった、ですか。
田部井●もう本当に切ないっていうか、手や足を掛ける取り付きに行くまでが、もうゼイゼイハアハアで。で、取り付きに行ったら行ったで手は届かないし、足は届かないし。それでみんな背は高いしね。「あとはどうやって行くの?」って。でも私は楽しかったけどね(笑)。どこかで必ず私にできるようなところをチャレンジさせてくれたので、「登った!」っていう感じをすごく味合わせてくれた人たちだったね。すごくそれは恵まれたと思いますね。
――「楽しい」とか、「恵まれた」っていう思いがあるからこそ、七大大陸制覇ぐらいのすごいことを成し遂げられるわけですね。
田部井●いや、“七大陸”って全然すごくないですよ。
――ええっ?

IMG_4616@_03.jpg 田部井●「そんなの何?」みたいな(笑)。本当、全然すごくないです。エベレストだけはやっぱり別格の山なのですけど、あとの山はもうツアー登山でできますから……ああ、今はエベレストもツアーで行けるのですけれど(笑)。いまはキリマンジャロもツアーがありますしね。モンブランもそう。決して大それたことじゃないです。
――いやいや、想像もできないですよ。
田部井●まあ、私が登った当時は時代が、40年前と今では全然違うので。まあ、あのころは大変ではあったんですけれど……“七大陸最高峰登頂”なんていうタイトルは今もう、言われたら恥ずかしいぐらいで私……
――そんなそんな(笑)。この“七大陸”というのもそうですが、田部井さんの偉業は「女性としては世界初」というのが多いですよね。いやホント、これこそ『スゴイ!』と思ってしまうわけですが、それに関してはいかがですか?
田部井●うーん。別に私はエベレストにだって、女性が誰も登っていないから行ったわけでもなんでもなくて、行きたくて行ってるわけですね。それがたまたま女性では誰も登っていなかったということであって、最初からそれを狙ってたわけでも全然ないし、“七大陸”にしたってそう。結果としてそうだったということでして、それを人が言うのは、なんというかしょうがない。でも、私自身はあんまりこう……すごいことだとは思っていないんですよね(笑)。むしろ過去のことよりもこれからなんですね……はい(笑)。

★「山は楽しむもの。そうでなければ私は行かない」

――そんな田部井さんを前にしてなんですが、私、そろそろモンブランに登らないといけないのですね(笑)。
田部井●うんうん、そうなんですか。
――まあ「登らないといけない」ということもないわけですが、相当弱気なんですね、いま。
田部井●あら、それってなぜなんですか?
――それが……山登りを始めたのがもともと遅くて、57歳で初めて奥多摩に行くまで、本当に本当インドア派だったんですよ。
田部井●ははははは、はい。
――で、09年に最初にモンブランに行くことを決めたときに、訓練を重ねてやっと「このぐらい歩けたら大丈夫かな」って、ガイドさんにも言われたんです。ところがそこで怪我をして、そこから半年以上ブランクを作っちゃいました。
田部井●ああ、なるほど……。
――そしたら……なにかこう“戻ってこない”んですよ。脚力とか体力とかが……。
田部井●うんうん。
――そうしたら今お世話になっているガイドさんから、「OK」が出ないのですね。
田部井●え? OKが出ない?
――ええ。周りに付いて行けないんです。もう30mぐらい遅れちゃうのですね。
田部井●うーん……たとえばどういうところで?
――あの、それが普通に歩いているのですね。ただ、ザイルしてるときはともかく、ザイルが離れた途端にもう遅れちゃうんです。必死で歩いてるんですけど……。要するにスピードが出ないんですよ
田部井●うーん……でも、山登りって競争じゃないからね
――競争じゃない?
田部井●うん。まあ、私が思ってるんですけどね。やっぱりその人その人のスピードってあるでしょ。たとえば、男と女で絶対違うのは、スピードと瞬発力だと私は思うんですよ。だから、最初に言ったとおり、男と登るのはものすごく辛い。私はついて行けないですよ。
――田部井さんが付いて行けない!?
田部井●付いて行けないですよ。だから自分は自分のペースで行けるように行く。前との間が離れてるたびに、はあ……っ思うような山登りだとストレスになる(笑)
――ははは、それはなりますよね。
田部井●なりますよね(笑)。だから、ストレスにならないようにしないと。
――どうしたらいいんですかね?
田部井●私はもうね、「遅いです」とかね、「こんなだともう着いていけません」とかね、はっきり明言しちゃう。それで「私に合わせてください」って(笑)
――ええええええ、そんなこと言っちゃうんですか……。
田部井●そうしたほうがでしょ? たとえば20m離れたからって、「だからどう?」って思ってね。「いいじゃん離れたって。むしろちゃんとついて来てるでしょう?」って。私はもう、あんまり気にすることはないと思うし、むしろ外国の現地のガイドさんと登るなら、そう思うほうが楽だったりしますよ(笑)。
――そうなんですかね……?
田部井●と言うのはね、そういうの外国のガイドさんはちゃんと考えてくれているから。日本人ガイドはけっこう厳しいっていうかね、“来い来い来い来い”っていうのがあるんですけど、現地のガイドさんの場合は……私は今、現地で必ずガイドさんを雇いますけど、最初から言っておくんですよ。「私は速く歩きません」って。
――「速く歩きません」、ですか。

IMG_4635@_03.jpg 田部井●「急ぎません。でも登る気持ちはあるので、一緒にお願いします」って言っておくと、ちゃんと合わせてくれるの。それがガイドの仕事だと思うんですよ。ガイドとしては、むしろ日本人のほうが厳しいかもしれませんよ。
――なるほど。モンブランだとフランス人かイタリア人の方となりますかね。
田部井●そうなりますかね。そこで「私はあんたみたいに速くぜったい歩けない。でも登る気持ちはすごくある」って言うんですよ。そうしたら、1時間前に出発するとか、そういうことも考えてくださるので、やっぱり満足……“客の満足度を上げる”っていうことで、プロの仕事をしてくれると思います。
――なるほど。
田部井●日本人のガイドはその辺で、けっこう厳しくしてるかもしれませんよね。だから、あまり心配はいらないような気がする(笑)。
――そうですかね……いや、なにか心配しすぎて、なにがなんだかわからなくなってきていて。「山っていいなあ、大好きだ」って思っていたのが、そういうのが最近どこかへ行ってしまって、シンドイばっかりで……。
田部井●やっぱりね、楽しくなきゃ(キッパリ)
――はい、ですよね(笑)。
田部井●だってね、私が知り合った方の大部分は60歳を過ぎて定年退職になって、それで時間ができてやっと行けたって人たちなんですけども、それでマッターホルンにも登っているし、いろいろな高い山にも行っている。だからそれなりの歩き方で充分なの。
――そのみなさんは、それまで山に登られたり、スポーツとかをされていた方が多いんですか?
田部井●それがほとんどしてない。教員の方が多いんですが、バレーボールの顧問をやっていたけれどもそれは部活でやむを得ずだったり、自分はできないんだけどソフトボール部の顧問をやってたとか、自分が元気にガンガンやっていたというのはないんですよ。それでもちゃんと登っていますよね。ホント、そんなに心配することないと思いますね。
――うーん……。
田部井●……やっぱり私が思うのは、男と女のいちばんの違いは、まず、骨格から始まって“身体のでき方”が違いますよね。だから肉体的な条件が違う人と行くっていうのはたしかに辛いんですよ。それで私は『なんで女だけで登りに行くの?』って言われたときに、「肉体的な条件が同じ者同士で行ったほうがフェアだ」って考えた。男とはスピードも瞬発力も違うけれども、女だけで行けばそれがない。
――確かにそうですね。
田部井●男の人と登りに行って辛いのは、やっぱりスピードね。足の幅とかとてもついていけないわ(笑)。ホールドも届かないけれども、それでも登っていかなきゃならない。若いときにはそれでもなんとかなったんですけど、今はけっこう難しい。『えっ! こんなとこ登るの?』なんていうところにも行くんですけど、それでもガイドさんたちは、私たちでも登れるようなルートを取ってくれる。そういう点はすごくプロだなーって思いましたね。……で、モンブランは決してクライミングじゃなく、基礎体力が必要とされるので、長時間歩ける体力があれば、スピードはあまり気にしないでいいと思いますよ
――自分のペースがちょっとぐらいで歩くところであれば大丈夫だと思うんですが、傾斜のあるところに行くとハアハア言いながらヨタヨタになっちゃって……
田部井●うーん、そういうのには私は行かないな、たぶん。自分が楽しくないし、「ああ今日もバテた、今日もバテた……」みたいだとストレスになっちゃうじゃないですか?
――うん、最後は泣きながらって感じで……。

IMG_4625@_03.jpg 田部井●うーん、そういうのでなく、もっとゆっくりで、たとえ7時間かかっても楽しかったっていうほうがね、いいような気がするのでね……うーん……小玉さんは、みんなで山に登る際は年長者になりますよね?
――年長者ですね。
田部井●ああ、やっぱりそうですか。だったら「私に従ってよ」って言えば(笑)
――ええっ!?
田部井●私なんかいつも、「敬老精神、敬老精神」って。「もう、私に合わせてよ」って(笑)。だってね、山はいちばん力の弱い人に合わせて、楽しく行くことが基本だと私は思いますよ。そうじゃなかったら楽しくないですね。私はそんなのやったことないし。
――ただやっぱり、論外に遅いのかなって。普通のおばさんに比べれば、まあちょっとは速いのでしょうけれども、“山岳地図”に書いてあるコースタイムよりちょい速いぐらいでは、やっぱり遅すぎちゃうのか――?
田部井●あらららら、そうなんですか?
――そうなんです。
田部井●それじゃ私なんかとっても付いて行けないわ。
――えっ? そうなんですか?
田部井●そうですよ。私なんか2割増しで計算してますからね。普通のコースタイムの2割増しの時間で着けたら、「やったねー」っていう感じ(笑)
――えええっ? そうなんですか!?
田部井●そうですよ。それに対して、普通の山道でコースタイム通りに歩けてるわけでしょう? それよりやや早いんでしょう?
――いや、ちょびっとだけですよ。
田部井●いやいや、私、そんな時間に歩けないです。そもそも歩かないです。
――ちょびっと早いとは言っても、周りよりは遅いので、何かを見るゆとりもないんですよ。ただ歩くだけで。
田部井●そうでしょう? そういう山登りはしないの、私は。時間がかかっても、もっと楽しくなきゃいけない。みんな登山者は違うタイプで、いかに楽しく登ってもらうか、っていうのがガイドの役目だと私は思っているし。別に何時間以内に登んなきゃいけないってことはない。そりゃ、早いに超したことはないかもしれないけれども、ゼイゼイ走って、どこに登ったかわかんないぐらい余裕のないような山登りは、私はしたくないっていうかね。勘弁してくださいだよね
――なにか、だんだん惨めになってきました(笑)。
田部井●そりゃあそうだ。あーん、もう、そんなの楽しくないですよね。いや、あんまりしょっちゅうね、「これはいい花だわ」てやってるのもなんですよ(笑)。でも、ちゃんと時間通りに歩ける範囲で、周りを見る余裕があって、おしゃべりもある程度はできる、そういうのでないとね。周りの人のお尻しか見なかったなんて、昔の山岳部みたいじゃない(笑)。まあ、お金出してそういう思いすることもないような気がしますよ。
――なにか寂しい話になってきました……。
田部井●うん。でもね、山登りの醍醐味をぜんぜん味わっていないうちに、肉体的な苦痛だけが残ってる感じよね。それは本来の山登りと違うような気がするの、私。山登りって本来は楽しくて、たとえ登頂ができなくても、ここに来てるっていうこと自体も楽しく味わえるようなのがいいと私は思うんですよ。競争じゃないし、金・銀・銅メダルで分かれるわけでもないんだからね。……まあ、ガイドさんがそれだけ一生懸命なのかもね。でも、自分の気持ちっていうか、わかってもらうってことはすごく大事なことですよ。
――田部井さん、山に行かれるときとか、「行きたくないなあ」なんて思いませんよね?
田部井●私、ぜんぜん思わないよ(キッパリ)。「やったー!」って。だって、楽しいですもん(ニッコリ)。

★ウキウキワクワク、世界各国の最後方を目指す旅へ

――最後にうかがいます。61歳の私の目標がモンブランとして、71歳の田部井さん、これからの目標はなんですか?

IMG_4659@_03.jpg 田部井●はい。どんな小さな国にも最高峰がきっとありますよね。それがどんなに低い山だとしても、各国の最高峰を登りたいな、と思っているんですよ。
――相当進んでいるのですか、制覇は?
田部井●いえいえ、これがまだまだ進んでいない。国連加盟国が192で、そのうちの60くらいです。まだまだ(笑)。
――まだ3分の1も行っていないのですね……
田部井●本当は先日、アイスランドの最高峰の予定だったんですが……。
――あ、それはまさか……
田部井●噴火しちゃったもんですから(笑)。それでちょっと延期にしました。やっぱりそういう天変地異とか、いろんな現象が起きますよね。でも、そういう目にあっても、テンション下げないようなことがすごい大事。精神的なものって、すごい肉体に影響を及ぼします。だから、ウキウキワクワクするように、ウキウキした気持ちで行けるっていうのはすごい大事なんですよ。
――田部井さんには、各国の最高峰がウキウキワクワクなんですね。
田部井●ああ、そうそうそう。だからそれを忘れないで。山は楽しく、ね。
――はい! 頑張ります!!











読み物 VIVA ASOBIST   記:  2011 / 01 / 01

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