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Vol.92 生野正――銀座発「日本刀は文化であり芸術品なのです」

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【プロフィール】
生野正
刀剣・武具を扱う「誠友堂」代表取締役

テレビや映画などから影響を受け、幼少期から刀剣に深い興味を抱く。会社員生活の傍ら日本刀の収集を続け、やがては日本刀を中心に刀剣・武具を扱う「誠友堂」の開店に至る。現在は銀座に店舗を構えている。

誠友堂HP:https://www.seiyudo.com/ 
全国日本刀買取 銀座誠友堂:
https://www.seiyudo.co.jp/ 



「日本刀」
さてみなさんどんなイメージがあるだろう?
時代劇でバッサバッサと敵を斬る……きっとそんな感じ、ですよね。
ところが。「そういった“武器”ではない!」という声が銀座から聞こえてきました。
日本刀が持つ魅力、そして文化とはいったい……?
本物の“刀屋さん”が語ります。さあ読んでくれ!



――今回は日本刀や火縄銃、武具などを扱う『誠友堂』の代表取締役、生野正さんにご登場いただきます。こんにちは。
生野●こんにちは。よろしくお願いいたします。
――誠友堂さんが店舗を構える銀座のショッピングビル、銀座ファイブにお邪魔してのお話しです。飾られている日本刀など店頭からも見ることができますが、先ほどからカップルなどが興味深そうに見ていますよ。
生野●そうですか(ニッコリ)。若い人が注目してくれるのはいいことですね。
――それにしましても、日本刀などテレビで目にすることはありますが、実際に扱っているお店に来るのは初めてです。
生野●刀屋さんはあまり多くはないですからね。日本で何軒、という感じですよ。
――誠友堂さんがオープンされたのはどれくらい前なのですか。
生野●このお店はオープンして……何年になりますかね? 本社機能が東京の板橋にあって、かつてはそちらで扱っていたのですけれどね。板橋のほうはいま写真を撮ったり、事務のほうで使っています。
――そもそものお話しですが、なぜこのようなご商売を始められたのでしょうか。
生野●はい。私はもともとは“紙関係”……まあ違う仕事をしていたのですが、若いときからこの仕事をやってみたかったのですよ。昔から刀は好きでしたしね。まあ好きが講じて本業になっちゃったんですよね(笑)。
――でもやはり好きじゃなければ出来ないお仕事だとは、この刀の数々を見れば感じますね。そんな生野さんの刀との出会いを教えてください。
生野●出会い、ですか……。まず小さなころから刀とか鉄砲が好きだったのですよね。小さいときに男の子なら出会いますでしょ?
――チャンバラごっことか銀玉鉄砲とかですね。
生野●そうそう。私たちの小さなころってゴールデンタイムに時代劇とか必ずやってましたよね。それで夜の9時になれば映画の時間になってそこでは西部劇や戦争映画、と。それに憧れるというのは男の子ならみんなが一度は通る道ですよ。それで刀を握って、銀玉鉄砲を撃って……って子供のころをみんな過ごすのですけれど、私の場合はそこから成長がなくて(笑)大人になってもそれらが好きだったんです。それでまずはホンモノを持とうと思いました。
――いまもお店に並んでいる刀を拝見いたしましたが、やっぱりお高いものですよね……。
生野●そうですね。ですから社会人になってからちょっとずつ貯金をしまして買いました。こればっかりは親に「欲しいから」ってお願いするわけにもいかないですしね(笑)。
――「日本刀を買ってほしい」と親に言うのはなかなかハードルが高いですよね(笑)。それでお買い求めになった刀は……。
生野●若い私には高かったですね。そしてそこからまた別の刀を……となっていったわけですね。
――素晴らしい。ただ趣味として刀の収集をされている方は他にもたくさんおりますが、お店をやろうというのはなかなか勇気がいりますよね。それこそ“お店がやれるほど”なんて例えくらいに品数がなければいけないのでしょうし。
生野●そうなのですが、たとえば最初は店舗や業者の“交換会”などで刀の種類を増やしたり、委託販売などを多く扱ったりしまして今に至っておりますね。親の代からであるとか、古いところでは江戸時代からやっているようなお店もあるんですよ。新しい感覚で特色のあるお店にしていければいいなあとは常に思っていますよ。

syono_b.jpg「サラリーマンが買える刀屋さん」

――いいですね、「新しい感覚」。
生野●刀屋さんといいますとね、近づきがたくやはり敷居が高い、店に入り難いものがあるのですよ。私も最初に買ったときはそうでしたし、刀を見るのも緊張していました。それってとても大事なことではあるのですけれども、近寄り難いばかりだと裾野が広がっていかないですよね。
――普通には触れられないものだという認識になってしまいそうです。
生野●そうなんです。先も申し上げましたが、ゴールデンタイムに刀が登場する時代でもない今である以上、刀自体の文化が日本から衰退していきかねません。現に最近は外国のお客さんが増えてきているのですよ。日本刀に興味を持って訪ねてきたり、買って帰られる外国人の方々、増えてきておられます。
――現役メジャーリーガーもいらしたそうですしね。
生野●ははは、そうですね。刀を飾っている博物館などに行っても相当数が外国の方だったりもしますよ。翻って日本人はどうかというと……年配の方はともかく、若い人にはあまり浸透していませんよね。そうすると文化として廃れてしまいますし、外国に文化財がどんどん流失していくことも考えられます。それではいけないですよね。
――そうですね。
生野●なのでウチは……あの、“名前”のある刀って、やっぱり高いのですよ。
――テレビでの知識でしかないですが『正宗』とかそういった“名前”、ですね。
生野●はい。そういったものはとても高いのですが、私が目指したのはそれらではなく「サラリーマンが買える刀店」なんです。それは2万円や3万円ではなかなか買えないですが、10万円、20万円……お給料から少し貯金をすれば買えるのではないか、という刀を扱うお店なんです。高価ではない、あまり名前の知られていない刀匠さんが作った刀にも名品はあるんですよ。丹念に造ったものは人の心を打つところはあるのです。
――はい。
生野●有名な刀工が造ったものというのは材料もいいですし、技術もいいです。たしかに一級品なのですが、なかには不出来なものもあります。ただ、そういった不出来なものでも値段が付いてしまうのですね。
――言ってしまえば“名前だけ”で高価な値段が付いてしまうものもある、と。
生野●私はそういうものではない、名前が知られていない人のものでも心を打つものがある、それを伝えていきたいと思っているのですね。
――なるほど……ここまでのお話しだけでも刀に対する印象が少し変わりました。
生野●これまでどう思われていました?
――いや、やはり人を斬るものだと……。
生野●そうですよね。お店に来ていただいた方でも「これで首を斬ったんだね……」とよくおっしゃっているのを耳にします。たしかにそういった時代もあったかも知れませんが、刀というのは江戸時代やそれ以前からの文化、文化財なんですよ。
――はい。
生野●いま残っている刀でも人を斬ったものもそれはあるかもしれません。ただ現存しているいい刀というのは武家に長く伝えられて、大切にされて来た刀なんです。そういったものでなければ、(飾られている刀を示して)こうして綺麗に残っていません。それこそ数百年前に作られた刀が、現代で作られた刀とそんなに変わらない形で残っているわけですからね。それは大切にされてきた証拠です。
――なるほど。まさに文化財であり、芸術品、美術品なんですね。
生野●そうです。刀の拵え(こしらえ)、外装に付いている鍔などの部品に至るまで丹念に作られています。日本人の文化の結晶ですよ。全世界で武器とされるもの、たとえば剣とされるもので、日本刀ほど価値があるというか、芸術性を持ったものはありませんよ。日本で国宝に指定されているジャンルでいちばん多いのも……
――それは当然……。
生野●刀剣なんです(ニッコリ)。それだけ重要な日本の文化なんですよ。それはやはり若い人に目を向けてもらわないといけませんよね。どうせ売るのだったら日本の人たちにしたいですもん。そのように盛り上げていくのは自分たちの責任でもありますよね。
――先ほどのカップルではありませんが、こちらのお店は目にも付きやすいですから、もっと刀を身近に感じてほしいですよね。
生野●そうなんですけどね……敷居の高い低いだと、ウチの場合は低くし過ぎて入りやす過ぎちゃっているのか、お店の奥にいても「これで首を……」っていっぱい聞こえてきちゃって(笑)。そうではないんですよ、ってお話しするのも大変になってきましたよ、ははは。

syono_c.jpg刀を助ける、刀が助ける

――今後のために“刀屋さん”としてのお話しをうかがいます。日本が誇る美術品である刀を売買するお仕事についてですが……。
生野●はい。まあ商人ですから利益を追求はしていかなければならないのですが……あ、変な話ですが、刀が「助けてくれ」って言っていることがあるのですよ。
――助けてくれ……ですか。
生野●自分に訴えかけるといいますか。ある刀を見ていて直さないといけないな、と思うのですが、それはあまりお金にならない。商人ですから赤字は嫌ですが、ヘタすりゃトントンくらいになるものもあります。それでも刀は「助けてくれ」と訴えていますから、研いだりなんだりとその刀を直します。
――はい。
生野●そうすると、お客さんとしては20万円以上の費用がかかるのですが、これによって私としては大切な文化財としての刀を救ったことになりますし、お客さんとしてもそれだけの費用がかかったのならたとえばお子さんに受け継ぐとかして、そのとき掛かった費用以上の価値が段々と出てきます。そうしたら大切に扱われるようになりますよね。
――利益以上に生野さんが目指される、文化や芸術品としての日本刀の存在を救ったことになりますね。
生野●はい。それでそうすると、今度は刀が「助けてくれる」のです。
――今度は刀のほうが……。
生野●先ほどのような刀を粗末に扱って簡単に流通させるのではなく、気持ちを込めて再生をさせてあげる。そういった商売をしていると、不思議なことに同じ銘の良い刀が入荷してくるのですよ。刀が刀を呼ぶ、ということがあるんです(ニッコリ)。
――恩返しのような話ですね。
生野●ああ、そうですね。自分が愛情を持って……そのうち気に入っちゃって売りたくなくなるようなこともあるのですが(笑)、そんな愛情で接していれば刀屋家業も楽しいものですよ。
――とてもいい話です(しみじみ)。
生野●思いきって言っちゃうとね、刀を商売の道具として雑に接していると、長くは続かないですよ。その道具を自分で持っていたいな……という気持ちになれる人じゃないと、いい刀は集まらない。簡単な言い方ですが、好きじゃなきゃ出来ない商売ですよ。
――愛情を持っていい刀を薦め、売っていれば、いい刀だけじゃなくいいお客さんも集まりますよね。
生野●それはその通りです。傷や欠点がわかっていて知らんぷりでは刀にもお客さんにも申し訳ないと思うか、まあいいやと売ってしまうか。安い買い物ではないのですから、そんな刀を売りつけられたらお客さんだってバカじゃないから、「なんだあの店は」となりますよね。悪い刀を売り抜けて一時的な利益は出しても、それでは絶対に後から損をします。
――それは間違いないですね。
生野●お客さんに最初に安い刀を買っていただいて、それで楽しんでいただく。自分もそうでしたがそれで歳を重ねて、段々と勉強もして、いつかは……退職金が入ったら(笑)そこでいい刀を買ってくれるかもしれない。そういう長いお付き合いができるお客さんがウチの店も多いと思います。ありがたいことですね(ニッコリ)。
――お話しを聞いているといいお客さんが集まって当然に感じます。
生野●いろいろなお客さまがいらっしゃいます。刀と一緒にいろいろな人形を集めている方がいます。
――なんか日本刀とは真逆な感じがしますね。
生野●綺麗なものを綺麗として感じたい人、優しい人なのですよ。あ、この(ケースに入っている)観音様もその方にいただいたんですよ。その方は立派な方でして、私の恩人でもあります。
――いい観音様ですね。
生野●あと、会議とかで疲れて帰っても、刀を見ていると落ち着いてよく眠れるという方もいます。
――それビックリしますよね、ご家族のお客さんとか来たりしましたら。
生野●ははは、そうですね。でも落ち着くのはよくわかりますよ、はい(ニッコリ)。

syono_a.jpg日本刀文化を衰退させない――“刀愛”溢れる地、銀座にあり

――誠友堂さんでは買取や委託販売などもやっておられますが、有名なテレビ番組のように“悪い仕事”の刀がやってくることはあるのですか。
生野●ヒドいのはいっぱいですねえ(笑)。どうにもならないようなのがありますよ。
――持ってきた本人は数百万円の価値があると思っていながら……。
生野●そうですね。銘が入っていながらそれではない、つまりは贋作だとそうなっちゃうのですが、ただそれでも“いい刀”ってのはあるのです。
――どういうことでしょう。
生野●元がそれだけいい刀なので、いい名前を彫っちゃうのですね(笑)。これは非常にもったいない。それにはもちろん逆もありまして……。
――元が悪い刀で……。
生野●そうそう(笑)。元がどうしようもないのに『虎徹』とか入っている。これぞニセモノって感じですね(笑)。『虎徹』とか『村正』って贋作の大手ですよ、ははは。
――それ、逆に欲しくなってきました。
生野●いやいや、それならば安いのでも楽しめますから、ぜひちゃんとしたものを揃えてください。最初に価値の話をしましたが、美術品ってけっこう値の変動がしますよね。ゴッホとかってたしかバブル期に……。
――20億円とかでしたね。
生野●そうですよね。それがバブル崩壊とともにかなり値段も崩れたと思いますが、日本刀ってそんなに大きく変動しないんです。
――そうなんですか。
生野●なので、お子さんに受け継いで……なんて話もしましたけれど、そういった財産としての面もあるんです。ちゃんとしたものであれば文化だけでなく財産としても残るのですよ。
――なるほど、相続財産としても引き継いでいけるのですね。
生野●繰り返しになりますけれど、日本刀というのは日本が誇れる大事な大事な文化であり、芸術であり、美術品です。大昔ですが、戦国時代に勲功があっても、城や領地ではなく日本刀を大名から贈られることがありました。
――つまり城と同様の価値が……。
生野●はい。江戸城なんてあれだけの堀を巡らし、何万人もの人が何年も掛けて作ったわけですよ。いまの時代に作ったとしたら何百億円とかの話ですまないわけですよね(笑)。もちろんお金の総量というより、それだけの価値が存在するものなんです。
――いや、完全に日本刀に対するイメージが変わりました。
生野●ありがとうございます。繰り返しになりますが、これからも日本刀の文化が衰退しないように頑張っていかないといけませんね。銀座の地から発信し続けていきたいと心から思っております。
――生野さん、今日はありがとうございました。
生野●こちらこそ(ニッコリ)。











読み物 VIVA ASOBIST   記:  2015 / 03 / 17

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