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「アイゼン、用意しといて」
登攀タイムテーブルとともに、メールに記載されていた一語に釘付け。
わー、それって、冬?山?
でも「念のため」って注釈つきだったから、「まさか」って感じでもあった。
ところが…
三島駅を8時15分に出て登山口に向かう途中、雨が降り出した。結構な降りっぷり!
「えー、アタシ晴れ女なんだけどー」「誰だ、誰だー」
登山口そのものが既に標高700m。近づくにつれ気温が下がってくる。
雨が雪に変わる。
「うっそー!」「まさかー!!」
登山口到着のころは、お山はうっすら雪化粧。
その時点で登攀8人パーティーだったはずが、リタイヤが3人出た。
アイゼンの用意がなく、うち一人はスポーツシューズだったので、撤退せざるを得なかったのだ。
雪がちらつく中、スパッツをつけたり、装備を点検したり、登攀準備をした。
9時34分登山開始。もう、なんだかワクワク・ドキドキ!

歩き始めるころには雪は止み、丸太で土止めされた階々を数百段「もうイヤッ!」ほど登った先に展望エリア。
お天気ならば、富士山が手が届きそうに眼前に望めるのだとか。
残念ながらその眺望には出会えなかったが、雲とモヤ、ないまぜの緞帳垂れ込める隙間から富士の長い長い流麗なすそ野曲線が垣間見える。
薄雪を踏んで山道を歩く。
初体験のワクワクと、もうひとつ内心「ニヤリ」のここち。 さほど「キツイ」感もなくパーティーに足並みそろえられている実感。実は今日の皆さんは6月に塔ノ岳にご一緒させていただいたメンバーの中の4人。
8月には北岳登頂の一行でもあった。
塔ノ岳ではアタシはパーティーについていけなかったばかりか、下山で右膝痛で大ブレーキを起こし、さんざんぱら迷惑をかけてしまった。
 
アタシが小山登りを繰り返しながらトレーニングに励んだのは、それからだった。その鍛錬の過程にあって「まだ、ダメ」自己判断で北岳は断念したのだった。思えば、その体験がいっそうアタシを小山登りにかりたてた。
メンバーと足並みをそろえて歩けていることに感動し、それをまた雪化粧で迎えてくれた越前岳に感謝しながら歩くことの、なんと楽しいことか。
 
ああ、冬の山の魅力にとりつかれそう!
草花好きから始まったアタシの山行き。春から秋にかけてはたくさんの山野草との出会いに惹かれこそすれ、冬に閉ざされた山へ登る、などという考えは長いことアタシにはなかった。
なのにどう、薄雪を被った木々の美しいこと。鋭角な空気の冷たさに対抗する自らの温かい「生命」を直接に頬に感じる。なんてステキ。
越前岳・標高1504.2m登頂。
サッブッ!!!
山頂の気温はおそらく0度以下。あたりは真っ白。
体からポッポ湯気が上がるのが目に見えるほどの体温が見る間に冷えて、ガクガク歯の根が合わなくなる。
コワコワにかじかんで、手袋したままニギリメシをとる手が、他人の手のよう。
同行のekoさん夫妻がおでんの用意をしてくれた。食べものが温かいということが、普段とはまったく違った意味をもつ。
そしたら、先着のパーティーが煮込みうどんをしていて、たいそうにおすそ分けいただいた。アリガタイ!
「そろそろ降りますか〜」
下山準備をしかけていたら、山をすっぽり被っていたモヤモヤが動いた。
息を呑む。
まだらに透けた雲のベールのスイートホールに、遠くの街並みがのぞく。山斜面の樹々の枝々に結んだ樹氷が、わずかに射しこむ薄い日差しにキラキラと輝く。
かと、思う間もなく雲は流れ、無常にも再び緞帳が落ちてしまった。束の間の夢心地。

予定通り、順調に下山。
下山後の温泉・ひとっぷろに続く忘年会の楽しかったこと、押して知るべし。
 
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