「書評」なんぞというたいそうなものじゃありません。「批評・評判」もどちらかと言うと苦手。
ま、無理矢理「おすすめの一冊」ってとこですか。

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■ 賞の柩

記事年月日 2005/09/05
作者名 箒木蓬生 
ジャンル 小説 
出版 新潮社文庫 

賞の柩
賞とはノーベル賞のことである。
英国人研究者アーサー・ヒル博士のノーベル医学・生理学賞受賞決定から物語は始まる。ストーリーを引っ張るのは同じ筋肉の収縮機構に関する研究をフィールドにする日本人研究者の津田だ。

各分野で栄えある受賞者のために用意されるたった40の「席」。それは世界平和を願って、あるいは人類の発展、科学進歩のためにという大前提の上に日々研鑽を積んだ者が結果として手にする最高の栄誉なのだ。

ところが、もしそこに主客転倒が生じてしまったら、
研究内容の秀逸なることは当然として、同種の研究者より如何に早く発表にこぎつけるかが最重要を占めてしまう。授賞式の壇上40の席に座るか、見えない41番目の席に甘んじる羽目になるか、1日、1時間、1秒を争うあたかも特許出願競争と化す。

著者は医・科学研究のノーベル賞を題材に「大いに起こり得る主客転倒」という仮説の上に物語を描いた。

あまりにも巧みなディテールの積み上げにより、読者の内で「仮説」が見る間に現実とすりかえられていく。その術中にはまる怖いばかりの快感。

しかしながら読後「はて?」と胸に居残るものがある。スパイスとして混入された黒こしょうの粒の、噛み砕き損ねたかけらが歯の隙間に挟まったような感じ。

どうやら大きな川の流れにほんのたまに一滴落とされる異質の水滴が作用しているらしい。
「主客転倒」劇を演じさせるものは何か?そして、その劇場はひょっとするとどこにでもありはしないか?
著者が精神科医であることを鑑みるまでもなく、それはもうひとつの「主題」ではなかったか。

著者は意識的に大河に1滴を投じているのだ。成長過程で少しずつ形成された精神構造にこそ、人をして主客転倒せしめる「ねじれ」があるということを読者に伝えたかったに違いない。非常に伝達困難であるが故に、物語に一筋紛れ込ませるという方法をとったのだ。
精神構造の「ねじれ」は他者が指摘することではなく、当事者が覚醒し自認することによって初めて有効なのだから。

記: 2007-03-08