シネマピア

嫌われ松子の一生

読んでから見るか、見てから読むか

小説の映画化は数々あれど、「あそこが違う。ここが変」とつい重箱のすみをつつきたくなります。ここで紹介するのは、重箱のすみが気にならない作品限定。あくまでも記者の目を通してですが…。ただし、記者は本の虫。年間300冊以上の本を読み倒す活字中毒者をうならせた、本を原作としている映画を紹介していきます。

「嫌われ松子の一生」が出版されたのが3年前。タイトルと独特の装丁にひかれてすぐに読んだ。内容は重いものだった。 主人公の松子は堅実な家庭に育ち、中学校の教師をしていた。しかし、教え子の不祥事をきっかけに、転落の人生を歩んでいく。松子が関わる男たちが救いようのないヤツばかり。松子に貢がせ暴力をふるう男、ソープ嬢となった松子のヒモ、ヤクザになった元教え子…。そんな男たちに幸せを求め、裏切られ続けた松子の最後は、行きずりの暴力による不条理な死。読後感もやるせなかった。でも、なんだか松子がなつかしいような、暖かいような、冷たいような、不思議な感情も押し寄せたのだ。
「嫌われ松子…」を映画にした中島哲也監督は、前作「下妻物語」で一躍脚光をあびた。「下妻物語」を知らない人でも、豊川悦司と山崎努が卓球やバーベキューで白熱のバトルを繰り広げるビールのCMを作った人と言えば、「ああ」とうなずくだろう。コミカルで独特な映像美をつくりだす中島監督。その次回作が「嫌われ松子…」とは! 驚きとともに、あの重い作品をどのように料理するのか興味津々で試写に臨んだのであった。

映画の「嫌われ松子…」は、私が小説で感じた不思議な読後感が映像で表現されていた。さまざまな不幸の嵐に翻弄される松子が、アップテンポに、ときにはコミカルに、スクリーンいっぱいに映し出される。ふんだんに使われているCGやアニメも見どころのひとつだ。料理でいえば、グズグズと煮くずれてしまう「不幸」を、カラリと空揚げにした感じだ。エピソードごとに挿入される松子の「これで人生が終わったと思いました」というセリフさえ、心がウキウキしてくるから不思議。松子が生き抜いてきた70〜80年代の流行歌のヒットパレードシーンも、映画ならではである。中学の同僚教師・谷原章介、松子に暴力をふるったうえ自殺してしまう作家志望・宮藤官九郎、妻に不倫がばれ松子を捨ててしまう男・劇団ひとり、松子が稼いだ金を若い女に貢ぐヒモ・武田慎司、松子が最後に愛した元教え子のヤクザ・伊勢谷友介など、松子がかかわる男たちのキャスティングが絶妙!

人生に疲れ、醜く太りボロボロになった晩年の松子が、ミュージカル「キャッツ」のグリザベラに見えてしまったのは私だけだろうか。 最後に天国への階段をのぼっていく、中谷美紀演じる松子が美しい。ホーッとため息をつきながら、「生きるって、それなりに楽しいんじゃない」という思いがこみあげてくる。華やかなエンターテイメント作品の主人公となって、小説の松子も本望に違いない。本も映画も、松子の甥・川尻笙(瑛太)がストーリーの進行役となっている。記者は、「本ではああだったけれど、映画はこうだった」と、細かい指摘は敢えてしたくない。でも、ひとつだけ、物語の冒頭と最後に笙が松子の骨壺からコトリという音を聞くシーンがある。ここが、映画では別のものに置きかえられていた。中島監督の小技に思わずニヤリ。「コトリ」が何なのか、ぜひ映画をごらんあれ。

嫌われ松子の一生(DVD)
嫌われ松子の一生(単行本)
原作:山田宗樹
監督:中島哲也
脚本:中島哲也
出演:中谷美紀/瑛太/伊勢谷友介
配給:東宝
ジャンル:邦画















エンタメ シネマピア   記:  2006 / 05 / 23

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