シネマピア

八日目の蝉

20110425picm.jpg 父の不倫相手に誘拐され、4歳まで育て上げられた少女。直木賞作家・角田光代のベストセラー小説『八日目の蝉』が、錚々たる名優陣らを配し実写化となった。

会社の上司と不倫して身ごもった命を止む無く絶ち、その後遺症で二度と子どもを産めない体となった野々宮希和子(永作博美)。一方、その上司と妻の間にできた新しい命を、上司は妻に産ませた。「赤ちゃんを一目見れば諦められる」......そう思った希和子は夫妻の留守宅に忍び込む。希和子に抱き上げられた赤ん坊は泣くことをやめ、彼女に微笑んだ。その瞬間、希和子は赤子を薫と名付け、この子を守り、この子と生きていくことを決意する。その後、4歳の時分に実の両親のもとに戻された薫(井上真央)は、血を分けたはずの両親に馴染めないまま成人を迎えていた......。

20110425pic1.jpg まず、俳優陣の演技が凄い。すっぴんの永作は逃亡者としての苦労を、それなりに年を取った顔や皺に自然に滲みださせる。一人芝居ならある程度自分のペースで芝居ができるが、台本どおりに動いてくれるはずもない赤ちゃん相手の演技は、これぞプロの真骨頂というべきだろう。妻役の森口瑤子は、この性根なら浮気されてもしょうがない的な精神的ヤバさ、そしてそれが誘拐後に加速され、誰もが近寄りたくなくなるヒステリックな雰囲気を見事に表現。父役の田中哲司が娘にお茶を出す際の表情などは、ほんの一瞬ではあるが見逃せない名演技だ。
また、物語の肝とも言うべき薫役の渡邉このみだが、要所要所はずせない部分の表情を演技とは思えないほどのリアル感で魅せる。演技経験がまったくなかったこのみをここまで昇華させた監督の技量に拍手だ。

特筆すべきはルポライター役の小池栄子。キョドりすぎじゃないかと思えるほどの挙動不審さ、目の泳ぎ加減。他人との距離の取り方がわからないまま生きているそのキャラは、普段はスッとしてまともそうに見える小池が敢えてこの役を演じたからこそ醸し出される稀有なオーラだ。惜しむらくは井上と劇団ひとりのラブシーン。他があれだけリアル感を追及したシーンで埋め尽くされているのに、ここだけは高校生同士、またはアイドル同士のように子どもっぽいそれであったため、非常に残念ではあった。が、井上ファンにとっては劇団ひとりにあれ以上のことをされたらタマラんだろうから、集客、そして井上の今後のためにはあそこまででやめておく、というのが大人の判断だったのだろう。

実の親と育ての親が違うという例はままある話だ。だが通常、そこに犯罪という要素は加わらず、親同士が互いを憎むということもなく、むしろ逆のパターンが圧倒的多数だろう。憎むべき育ての母と過ごした愛あふれる日々、一方、愛すべき実の親と繰り返される空虚な日々...
この、決してほどけることはない悲しい捩れ。成人した薫と幼い日の薫の時系列が交互に組み合わさるなかで、拭えない悲しみと消せない愛が、まるで違う生き物のように薫のなかに息づくようだ。一方的に希和子が悪いと断罪することができないところ...否、むしろ希和子のほうが善い人に見えてくるあたりも、この物語が万人を惹きつけてやまない深さなのだろう。

八日目の蝉(Blu-ray)
完成会見:井上「裸でぶつかっていった作品!」永作「避けては通れない役」
原作:角田光代『八日目の蝉
監督:成島出
脚本:奥寺佐渡子
出演:井上真央/永作博美/小池栄子/森口瑤子/田中哲司/渡邉このみ/市川実和子/余貴美子/平田満/風吹ジュン/劇団ひとり/田中泯 
配給:松竹
公式サイト:http://www.youkame.com/index.html

※タイトルの蝉は本来、旧漢字を使用しておりますが、
本稿では常用漢字を使用しております。ご了承ください

© 2011 映画「八日目の蝉」製作委員会















エンタメ シネマピア   記:  2011 / 04 / 25

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