シネマピア

【映画レビュー】ストレイ・ドッグ

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あのニコール・キッドマンが、美貌をかなぐり捨ててただ一つの目的のために動くヤサグレ刑事に成り果てる……! 2019年ゴールデングローブ賞ドラマ部門・主演女優賞へのノミネートの他、「美しく、悲痛で、映画として完璧。これ以上は望めない」、「ニコール・キッドマンの凶暴な演技が驚異的。彼女のキャリアにおける最高作だ」等、全米各誌からの賛辞が鳴りやまない本作。キッドマンが“野良犬(ストレイ・ドッグ)”になるべく、特殊メイクを施してまで挑んだ意欲作にして問題作、そして大傑作。

ロサンゼルス市警に勤務の刑事、エリン・ベル(ニコール・キッドマン)。酒におぼれ、生きる屍のような日々を送る彼女のもとに、ある日、差出人不明の封筒が届く。それは17年前、まだ20代のうら若きエリンがFBIの潜入捜査官だった頃。とある任務で犯した重大な過ちを意味するものだった……。

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映画を観る際、私はできるだけ前知識なしで観ることを心がけている。設定もあらすじも監督もキャストもできるだけ何も知らない状態で、作品そのものを楽しみたいのだ。本作もまた前知識なく、監督が誰か知らない状態で、ただただ「ニコール・キッドマンがシャーリーズ・セロンの『モンスター』ばりに変貌を遂げた姿でワイルドにブイブイ言わせる作品なのかなぁ」くらいの情報しか入れずに観たのだ。

そして試写完了。これは何というか、とてつもない完成度の、込み入ったストーリーの、脚本も演出もきめ細かく、際立つキャラもピッタリのキャストも、何もかもすべて完璧な映画だったのだ。 それもそのはず、監督はカリン・クサマだった。クサマ監督といえば、おぞましくもキレッキレなスリラー『インビテーション』(2015)が前作だ。観る者を丁寧に丁寧にこちらの縁に引き付けておきながらの急激すぎるターンで私個人の3本の指に楽勝で入り込んできた、あのクサマ監督だ。日系であり女性であることをこれまた後に知り、リスペクト度合いもますます高まったあのクサマ監督だ。セリフよりも映像で多くを語る、寡黙で詩的なスタイル。説明はセリフではなく映像と役者の演技がメインで、回想シーンもふんだんに盛り込むという、実は観客思いの親切設計。そりゃぁ本作が完璧中の完璧なのは当然中の当然だ。

脚本はクサマ監督の夫フィル・ヘイとマット・マンフレディによる共同脚本。監督とこの脚本2人は、前作に続き鉄壁のトリオと言えよう。本作でも、ベールに覆われていた真実が徐々に徐々に姿を現し、絡まり合った謎が一気に解ける瞬間、これこそが映画の醍醐味、というものをストレートに心に突き刺してくる。あの不可解な言動も、無謀な行動も、すべてが一点に集結してくる。過去の過ちに生贄を捧げることが、赦しに繋がると信じているかのようなエリン。まるで儀式のように、あらかじめそれが決まった所作であるかのように、それを行うエリン。過ちを犯さなかった人などいないであろうすべての観客は、エリンのその行為で何かを許されたような感覚に陥るのかもしれない。

今までにないニコール・キッドマンの姿がこの映画のウリなのは確かだ。それはビジュアルとしては確かにそうで、広い層へのとっかかりとして最適な素材なのは揺るぎのない事実だ。だがそれ以上にこの映画が胸に迫ってくるのは、ストーリーも脚本も演出も映像自体の質感もキッドマンをはじめとするすべての役者の演技も、何もかもが相まってできあがる映画の力、映画全体のパワーが強大だからに他ならないのだ。

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監督:カリン・クサマ
脚本:フィル・ヘイ、マット・マンフレディ
出演:ニコール・キッドマン、トビー・ケベル、タチアナ・マズラニー、セバスチャン・スタン、スクート・マクネイリー
配給:キノフィルムズ
公開:10月23日(金) TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開
公式サイト:https://www.destroyer.jp/ 

© 2018 30WEST Destroyer, LLC.

 


記:林田久美子  2020 / 09 / 07











エンタメ シネマピア   記:  2020 / 09 / 09

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