シネマピア

女神の見えざる手

misssloane_001.jpg 「ロビイスト」。ロビー(控室)で活動する人を意味するこの言葉は、日本でも2020年の東京オリンピック招致が決まった頃に報道でよく耳にするようになったが、あまり聞き慣れない職業だ。現在、アメリカにはロビイストが3万人いるといわれ、ホワイトハウス近くにはロビイストの会社が密集している。彼らは、人々からは見えない日陰で合法非合法問わずありとあらゆる手段を駆使し、政治、マスコミ、そして世論をも動かし、クライアントの依頼を実現させていく。本作は、ロビイストのトップとして業界内外からも恐れられる一人の女性を描いた、生き馬の目を抜くようなサスペンスだ。主演には『ゼロ・ダーク・サーティ』でアカデミー賞主演女優賞ノミネートとなったジェシカ・チャステイン。本作でもゴールデン・グローブ賞主演女優賞にノミネートされている。

敏腕ロビイストとして名高いエリザベス・スローン(ジェシカ・チャステイン)は、不正を行った罪に問われて聴聞会で厳しい追及にあっていた。いくら聡明な彼女であっても、法を犯したことがバレてはただでは済まされない。陰鬱な面持ちで、彼女はこうなってしまった原因に思いを馳せる。それは3ヶ月前、銃擁護団体からの依頼に端を発していた......。

本作は、単にロビイストの過酷な現状をドキュメンタリータッチで描いた作品なんかではない。非合法どころか、非人道的な非倫理的な手段をもものともせずに突き進む天才ロビイストの、まるで心なんて持ち合わせていないかのようなロボットのような表情。「太陽と北風」なら太陽でも北風でもなく、落とし穴に旅人を落としてマントを引きはがすような冷酷な手法。彼女の手腕ひとつで右だろうが左だろうが瞬時に変わる大衆の感情。目的のためなら手段を選ばない主人公だが、そんな彼女が油断した隙に鉄仮面から一瞬漏れる人間としての表情......それらが、計算しつくされた脚本の中で理路整然と構築され、巨大な高層オフィスビルの窓に映った空のように、観客の目を欺いてくれる。そしてクライマックスのあの瞬間、信じ込んでいたすべてが罠だった、我々も彼女に騙されていたと気づかされるのだ。

misssloane_002.jpg 我々観客は常に予想を裏切られる驚きを求めて映画を観るが、その期待に応えられる作品は近年数少ない。だが、本作はそれを叶えてくれる。『ユージュアル・サスペクツ』のような、『ソード・フィッシュ』のような、『ゲーム』のような、『L.A.コンフィデンシャル』のような、『真実の行方』のような、『鑑定士と顔のない依頼人』のような、終盤ですべてが覆る、あの瞬間の心地よさ。歴代の名作と肩を並べるほどのクオリティが、本作にはある。

驚くことに、そんな奇跡の脚本を作り上げた脚本家のジョナサン・ペレラは、本作が初作品でデビュー作なのだという。弁護士を辞め、韓国で英語教師をしていた彼は、映画学校等で脚本を習うことはせず、独学で脚本の書き方を構築していった。手に入った脚本を半分だけ読み、続きは自分で考えて書いたあと、後半を読んで自分のものと比較する、といったやり方で勉強したのだという。本作の脚本を読んだ配給会社社長がその内容に驚嘆し、それからたったの1年という驚異のスピードで映画が完成した。まさにシンデレラ・ストーリーだ。

この脚本の時系列を組み換え、観客の心によりクリティカルヒットするように仕上げたのが、アカデミー賞最多7部門を受賞した『恋におちたシェイクスピア』のジョン・マッデン監督。キャストも『キングスマン』のマーク・ストロング、『インターステラー』のジョン・リスゴーら、豪華かつ実力派の俳優が脇を固めている。

まるで本作の主人公の仕事のように、映画として完全無欠で完璧な作品。それが本作なのだ。

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監督:ジョン・マッデン
脚本:ジョナサン・ペレラ
出演:ジェシカ・チャステイン、マーク・ストロング、ググ・バサ=ロー、ジョン・リスゴー、マイケル・スタールバーグ
配給:キノフィルムズ
公式HP:miss-sloane.jp
公開:10月20日(金)より、TOHOシネマズシャンテ ほか全国ロードショー

©2016 EUROPACORP - FRANCE 2 CINEMA
 














エンタメ シネマピア   記:  2017 / 10 / 04

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