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バーニング 劇場版

burning_1901_001.jpg 貧しい青年、美しくなった幼馴染み、富める青年。危うい男女三人の関係のなか、いったい彼女はなぜ消えてしまったのか……? 原作の短編小説である村上春樹の「納屋を焼く」をもとに、韓国の巨匠イ・チャンドン監督が映画オリジナルストーリーで肉付けして大胆にアレンジした本作は、原作にはない驚愕のラストで観客の度肝を抜く。アメリカのオバマ前大統領が2018年のおすすめ映画として選出し、また、昨年度のカンヌ国際映画祭では批評家らが4.0満点中の実に平均3.8点という過去最高点をマークし、平均点3.2点だった『万引き家族』のパルムドール受賞を最も脅かしたという話題のミステリードラマだ。

小説家を志望しながらフリーターで生計を立てているジョンスは、デパートの店頭で広告モデルをしていた幼馴染みのヘミと偶然再会する。ヘミは自分が長期旅行で留守にする間、1人暮らしの部屋で飼っている猫の世話をして欲しいとジョンスに依頼する。しばしの別れのあと、帰国したヘミは1人の青年、ベンとともに空港に現れたが……。

文才がないわけではないが、叶うかどうかもしれない小説家への夢を持っていながら、寝る間も惜しんで小説を書き続けるわけでもなく、日々のバイト生活と実家の家畜の世話に追われキツキツの生活を強いられるジョンス。貧しく不幸せだったであろう過去と決別するためか、自らの容姿を変え、その容姿を売りに働いたお金で海外旅行にも行き、あたかも幸せかのように振る舞うヘミ。田舎町に生まれ育ったこの2人とは真逆に、ベンは働いているふうでもないのにハイソな家に住み、高級車を乗り回す。日本もそうだが、というか世界中の多くの国がそうだが、韓国もまた貧富の差が激しい。

劇中中盤で恐らくベンが行ったであろうある事柄は、彼が富める者であるからこそ完璧に成しえてしまうことができるものだろう。仮にジョンスが同じ事をやろうと思っても、経済力のない彼には完全にそれを遂行する道具も場所も人員も用意できず、失敗に終わってしまっただろう。というより、ジョンスからはそれをやるという発想自体、出てこないはずだ。貧しい彼は日々の食い扶持を稼ぐことが精一杯で、ベンが行ったであろうその「趣味」をやる精神的・肉体的余裕などこれっぽっちもないからだ。

burning_1901_002.jpg ベンのその「趣味」もまた、ベンが富める者だからこそ求めてしまう娯楽だ。衣食住に困らない何不自由ない生活のなか、自分自身に突出した才能もない者が行きつく先。あってはならないその刺激だけが、モノクロの彼の人生に色を与える。経済的に貧しているジョンスと、心が貧しいベン。どちらが果たして幸せなのか。劇中で語られるリトルハンガー(小さな飢餓者)とグレートハンガー(大きな飢餓者)。果たしてどちらがどちらなのか。

結果的にこの2人の人生を変えてしまうきっかけを作ったヘミだが、彼女もまた自分が作り上げた虚像を壊すまいと、必死にあがいている。現実の自分と理想の自分とのギャップにもがき苦しんでいる。表向きはリア充だが、その仮面の下には非リア充の自分がいる。重い重いリア充という盾を持ち続けるその手は、いつ骨が折れてしまってもおかしくないほど疲弊している。

全編に渡って俳優陣の演技には目を見張るものがあるが、特にラストのベン役のスティーブン・ユァン(「ウォーキングデッド」シリーズ)の演技は圧巻というほかない。ユァンは本作で全米映画批評家協会賞の助演男優賞を受賞しているが、そりゃ当然でしょう。納得の受賞だ。

ラスト以降の展開は色々と読むことができる。私が願うのは、その後、ジョンスが今回の出来事を小説にしたためて出版することだ。本作はジョンスから見た視点だけで物語が進行していくが、起こった事柄を淡々と文章にするだけでもなかなか面白い読み物になるはずだ。それでジョンスの夢も叶うだろうし、とある登場人物の無念も晴らせるだろう。

ちなみに、本作のサブタイトルには「劇場版」とある。本作公開に先立ち、韓国側と国際共同制作を行ったNHKで放送されたテレビドラマが前身とのことだが、これは本作本編全体の148分のところを53分カットして計95分のみ放送されたものだ。一般的な手法としてそのドラマを映画用に作り直したのではなく、映画の予告なり宣伝としての位置づけがそのドラマだ。という経緯でのサブタイトルなので、本作が気に入ってそのドラマ版を別に観る必要性はといえば、柄本時生(ジョンス)、萩原聖人(ベン)、高梨臨(ヘミ)といった豪華な吹き替え声優陣目当てになるだろうか。

ここでこんな断りを入れるのも妙な気がしないでもないが、昨今、大多数の方が韓国系の不穏な政治関連のニュースを耳にされているかと思う。だが、政治的なそれと映画作品のこれとは全く別の話だ。それを一括りに「韓国」という大雑把な枠で捉えて色眼鏡で見るようなことがあれば、それは甚だ勿体ない。映画は映画として、作品そのものを純粋に楽しみたい。本作はそれに値するほどの完璧なクオリティの傑作なのだから。



監督:イ・チャンドン『シークレット・サンシャイン』
脚本:オ・ジョンミ、イ・チャンドン
原作:村上春樹「蛍・納屋を焼く・その他の短編」(新潮文庫)
出演:ユ・アイン『ベテラン』 スティーブン・ユァン「ウォーキング・デッド」シリーズ チョン・ジョンソ
配給:ツイン
公式HP:http://burning-movie.jp/
公開:2月1日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

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エンタメ シネマピア   記:  2019 / 01 / 31

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