シネマピア

ボーダー 二つの世界

border_001.jpg 醜い容姿ゆえに孤独に暮らすひとりの女性に転機が訪れる時、彼女の世界は静かに、大きく動き始める……! 第71回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で、俳優のベニチオ・デル・トロら審査員に絶賛され見事グランプリを獲得するほか、第54回スウェーデン・アカデミー賞でも作品賞等6部門を受賞した異色作。スウェーデンのスティーヴン・キングと称される『ぼくのエリ 200歳の少女』の原作者が新たに贈る、珠玉の北欧ミステリー・ファンタジー。

スウェーデンの税関で働くティーナは、外見は他の人より劣るものの、人並外れた鋭い嗅覚を活かして違法物品を嗅ぎ分ける能力を遺憾なく発揮していた。ある日、いつものように彼女の鼻が違法な持込物を察知し、旅行者の男を足止めするが……。

とてつもないものを観てしまった。それが鑑賞後の率直な感想だ。醜いとは何か。美しいとは何か。美醜の感覚とやらを、根こそぎもぎ取られたような。

普通、というか一般的にというか、市場に出回る殆どの映像作品に登場する人物の容姿は優れており、いわゆる美男美女がヒーローやヒロインの場合が圧倒的だ。同じストーリーなら、観ていて心地良い視覚情報を選ぶのが人の常だから、当然のことだろう。中には物語の中身そのものより、目当ての俳優をスクリーンで拝めればそれでいい、といったライト層も存在する。
カビの緑色はおぞましく思うが、同じ緑色でも観葉植物の葉の色は綺麗だと感じるのが多くの人々の感覚だ。美しい容姿の個体は遺伝子的にも優れているので、我々は自ずと美しい個体、外見のバランスの整っている個体を本能的に選ぶ、という研究結果もある。
そうした人間の本能からしてみても、美しい男女をキャスティングするというのは説明するまでもなく当然のことだ。
ただ、時代や地域によって、美しさの物差しもまた変化する。葛飾北斎が描く当時の美女は、現代からすれば美人の部類には入るまい。

border_002.jpg 容姿の悪さがストーリーの根幹となっている『美女と野獣』や『アグリー・ベティ』のような作品は別だが、それでも前者の容姿はケモノに全振りなので、イケメンゴリラのシャバーニのようにイケメンな猛獣に見えるし、後者は眼鏡をかけ歯の矯正をしているとはいえ普通の人間の骨格を保っている。
本作も、主人公の容姿が多くの人たちの容姿とかけ離れていることがストーリーの根底に流れている。だが、その容姿の逸脱さ加減は断トツだ。特殊メイクを1日4時間もかけて施し、見た目の骨格から人間とはかけ離れさせた。なぜティーナがそうした容姿に生まれついたのか、それがストーリーの要でもあるからこのメイクにリアリティを持たせることは重要なのだ。

かくして物語が進むうちに、見てはいけないものを見てしまったような感覚に陥るシーンが出現する。各国の映画祭で「ショッキングすぎる」と評されたシーンはここだろう。日本でも製作者の意向どおり、全編ノーカットで公開されるとのこと。これは大変喜ばしい。なにせ、本作と同じ原作者の『ぼくのエリ 200歳の少女』の際は、物語の核ともいえる肝心なシーンにぼかしがかかっていたのだ。あれがあるとないとでは雲泥の差。黒が白に見え、白が黒に見えてしまう。詳しく書くとネタバレになるので、興味のある方は検索を。

たとえマイノリティに生まれ落ちようが、環境がその人の善悪を形成していく大きな要因となる。そのマイノリティとは、容姿の醜悪に限らない。広義でいえば、人はすべてマイノリティなる要素を持って生まれ落ちているはずだ。その点、本作は限られた人を描いた物語ではない。すべての人に少なからず当てはまる物語なのだ。

“人生”を諦めながら生きていたティーナに訪れる重大な転機、そして心張り裂けるほどの決断。愛を取るか、善を取るか。否、真実の愛を貫くために、その善は遂行されるべきなのか。“許す”とは何か。大いなる問いを内包したクライマックスとラスト。この物語のすべて、映像のすべてが圧巻、というほかない。

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監督:アリ・アッバシ
脚本:アリ・アッバシ、イサベッラ・エークルーヴ、ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト
原作:ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト
出演:エヴァ・メランデル、エーロ・ミロノフ、ヨルゲン・トーション、アン・ペトレーン、ステーン・ユンググレーン
配給: キノフィルムズ
レイティング:R18+
公式サイト:border-movie.jp
公開: 10月11日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町・ヒューマントラストシネマ渋谷他

©Meta_Spark&Kärnfilm_AB_2018














エンタメ シネマピア   記:  2019 / 10 / 07

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