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【映画レビュー】藁にもすがる獣たち

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ひょんなことから大金が入ったバッグを手にしてしまったその時から、人生が狂いだす……! 日本の傑作犯罪小説を原作に、『犯罪都市』『悪人伝』を手がけた韓国の最強スタッフ・キャストが集結し映画化。韓国本国では興行収入ランキング初登場第1位となるなど、新たなる韓国ノワールの金字塔を打ち建てた。

甲斐甲斐しく家族の面倒を見てくれる妻と、それを罵る認知症の高齢の母との板挟みに揺れる中年男性、ジュンマン。ある日、勤め先のロッカーの中から忘れ物のカバンを発見したジュンマンは、カバンの中の10億ウォンにもなろうかという大量の札束に驚愕する。だが中身が大金であるとは勤務先に報告せず、そのまま何食わぬ素振りで勤め先の管理室にカバンをしまい込むのだったが……。

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10憶ウォンといえば、日本円換算で約1憶円弱だ。我々日本人の多くは年末にもなれば歳末ジャンボ宝くじを買ったり買わなかったり買いそびれたりするわけだが、もし宝くじが当たって1憶円が手に入ったなら、間違いなく人生は一変するだろう。そんな大金だ。それをジュンマンは、心の準備も何もなく、何気ない日常の一コマの中で見つけてしまう。

そんなふうに見つかる大金なのだから、マトモな金である訳がない。その金がどこから出、どこを渡ってジュンマンのもとに来たのかが、絡まった糸を解くかのように描かれていく。その糸の、それはそれは絡まっていること、絡まっていること。途中途中でその金に関わる男たち、女たちの、それはそれは切羽詰まっていること。人間、カネに目が眩めばなんだってやってのける。その出自が反社会的勢力であろうが、真面目な公務員であろうが、DVに悩む美しい妻であろうが、人生の断崖絶壁に追い詰められていれば皆同じだ。やらなければいけないことはやる。まるで仕事をこなすかのように、淡々と、やる。ただそれだけだ。

絡まったその糸が一本に繋がった結末のそのシーンで、思わず「あっ」と声をあげてしまった(新型コロナの影響で、ここ最近は映画の試写も都内の試写室には出向かずにもっぱらオンラインで自宅で済ませているから、声を出したところで周囲の誰にも迷惑はかからないのだが)。その「あっ」に至るまで、人間の残酷さとユーモア、弱さ、愚かさ、強欲さとが綯い交ぜになったほど良い力加減で、その糸は観る者の心をがんじがらめにし、そして一気に釣り上げる。その糸さばきの、それはそれは見事なこと、見事なこと。

原作の曽根圭介をして「実をいうと、私は今、本作を手本にして原作を書き直したいと、半ば本気で思っています」とまで言わしめた本作。つい先日、1都3県には緊急事態宣言が発出となったが、本作が公開となる頃には感染状況が収まってくれていることを願いたい。そして読者の皆様におかれては何卒感染対策に万全を期した上で、是非劇場でこの滑稽な群像劇をご覧いただきたい。

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原作:曽根圭介「藁にもすがる獣たち」(講談社文庫)
監督・脚本:キム・ヨンフン
出演:チョン・ドヨン、チョン・ウソン、ペ・ソンウ、チョン・マンシク、チン・ギョン、シン・ヒョンビン、チョン・ガラム、ユン・ヨジョン
配給:クロックワークス
公開:2月19日(金) シネマート新宿ほか 全国ロードショー
公式サイト:http://klockworx-asia.com/warasuga/ 

Copyright © 2020 MegaboxJoongAng PLUS M & B.A. ENTERTAINMENT CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED. © 曽根圭介/講談社

 


記:林田久美子  2021 / 01 / 08











エンタメ シネマピア   記:  2021 / 01 / 09

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