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【映画レビュー】キャメラを止めるな!

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2018年、日本。当時は無名だった監督が無名俳優たちを集めて作り上げた低予算映画が、その面白さから口コミが口コミを呼びまさかの大ヒットを遂げた、あの『カメラを止めるな!』。日本人ならもはや知らない人はいないであろうあの傑作が、アカデミー賞5冠に輝いた『アーティスト』のミシェル・アザナヴィシウス監督により、なんとフランスでリメイク。あの驚愕と笑いと感動が、日本オリジナルとは一味も二味も違った趣で甦る……!

チナツ役の主演女優が驚愕の表情で叫び、ゾンビと化した彼氏のケン役俳優に斧を向ける。だが、抵抗も空しく女優はゾンビの牙の餌食となってしまう。……といった冒頭シーンが気に入らない監督のヒグラシ役の俳優は、チナツ役の演技の下手さを口汚く罵倒する。そう、ここはB級ホラー映画の撮影現場。そんな演技力もへったくれもない俳優たちを見越して、この映画の監督のレミー(ロマン・デュリス)はとある秘策を現場に仕込んでいた。だが、それは、決して開けてはいけない禁断の呪いの扉だった……。

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「カ」メラではない。「キャ」メラだ。もう、そのタイトルだけで笑ってしまう。

昨今、わざと自らネタバレ情報を仕入れてから映画を観る層がいるらしい、という話を以前にも何回か書いたことがある。本作の原作は、映画好きな日本人なら誰もが知っているであろうあの出世映画、あの大傑作『カメラを止めるな!』だ。リメイク作品とは説明するまでもなく、元々の作品を別の監督や俳優や国や言語で作り直した作品だ。要はその層のように、ネタバレの状態で観るようなものだ。そして、リメイク前の作品が有名であればあるほど、ネタバレの確率は高くなる。有名ならそれだけ、元となる作品を観たことがある人たちが多くなるからだ。それがリメイク作品の宿命だ。

そして。そしてそして。本作は日本ではかくも有名な作品だ。だから、必然的に日本で本作『キャメラを〜』の方を観る観客は、ネタバレの状態で本作を目にすることになる。私ももちろんそうだ。特に本作は、先が分かっていない状態で、次に何がどう転ぶか見当もつかないそのジェットコースター感を楽しむのが肝の作品だ。そういう意味では、本作の観方は原作を初めて観た時とは全く異なるものとなる。元の作品との違いを、あ、ここはあそこと違うな、ここは似ているな、等々、まるで利き酒をしているかのように、自分の記憶と照らし合わせながらその違いを楽しみながら観ることになる。

本作も、原作との違いがそこかしこにある。ここで監督の言葉を引用しよう。「日本文化の驚く点は、多くのことを敢えて言葉にしないところだね。だからこそ、物語があれだけ素早く展開する。状況が変化しても、登場人物は特にそれに対して何も言及することなく、次の展開へと発展する」だそうだ。ほう。そうだっけ。我々日本人はそれをフツーに何の疑念も引っかかりも持たずに観ていたが、フランス人から見るとそう映るのか、へえー。更に「しかし、フランスでは、登場人物がやたらしゃべる。変化した状況を説明せずに放置することに、フラストレーションを感じてしまう国民なんだ。つまり、どうすれば物語のペースを崩さずに、変化した状況を極限まで発展させ、それを利用し、対立や登場人物が辱められているおかしな状況から、いろんなものを引き出すことができるか、というのが難題だった」だそうだ。なるほど。だから諸々、原作とは違うエッセンスがたくさん入れこまれているわけか。

原作の上田慎一郎監督の言葉も引用しよう。「驚いたのは自分たちが"やれなかった"ことを"やっていた"ことです。カメ止めにはワンカットで撮りたかったけれど時間や予算の都合で叶わなかった、とある場面がありました。本作ではその場面がワンカットで撮られていたのです。オリジナルから感じ取ってくれたのか......まるで映画を通じて作り手同士がコミュニケーションを交わしたような、そんな感覚を受けました。これまた「カメ止め的」としか言いようのない出来事に深く感動しました」とのこと。そのシーンを本作から探しだすという楽しみも、本作には秘められている。事前にネタバレを仕入れてから観るのとリメイク作を観るのとでは、ネタバレの質も理念も目的も何もかも全然違うのだ。

原作で出演していたプロデューサー役の竹原芳子が、唯一、本作でも出演。ちっちゃくて可愛いおばあちゃん。まさに『還暦のシンデレラガール』(著書同名)だ。

オリジナルのマトリョーシカ構造に、更にオリジナルにはなかった層を加えた本作。リメイク作の方のフランスでは、オリジナルの方を観ないうちにリメイク作の本作を観る観客も多いだろう。「カメ止め」の魅力が本作を通じて全世界に広がってくれることを、同じ日本人として願ってやまない。

原作:上田慎一郎『カメラを止めるな!』(脚本・監督)
監督・脚本:ミシェル・アザナヴィシウス(『アーティスト』)
出演:ロマン・デュリス(『ゲティ家の身代金』)、ベレニス・ベジョ(『アーティスト』、『ある過去の行方』)、グレゴリー・ガドゥボワ、フィネガン・オールドフィールド、マチルダ・ルッツ(『ザ・リング/リバース』)、竹原芳子(『カメラを止めるな』、『ルパンの娘』)
配給:ギャガ
公開:7月15日(金)全国公開
公式サイト:gaga.ne.jp/cametome/ 

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記:林田久美子  2022 / 06 / 09











エンタメ シネマピア   記:  2022 / 06 / 10

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