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【映画レビュー】EO イーオー

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主役はロバのEO(イーオー)。EOの台詞はなく、EOの表情や思い出の映像、心象風景、EOを取り巻く人間たち、EOを包み込む大自然……、それら圧巻のシーンのひとつひとつが壮大なる叙事詩を紡ぎ出す。アメリカの映画評論サイト・ロッテントマトのトマトメーターでは驚異の96%(3月8日現在)を記録するほか、第75回カンヌ国際映画祭では審査員賞と作曲賞を受賞するなど、世界各国の映画賞を席巻。ポーランド発、童話でもなく寓話でもなく、一頭のロバ目線からリアルで残酷な世界を覗く詩的映画体験。

サーカス団で芸をこなす灰色のロバ、EO。同じサーカス団の人間の少女・カサンドラに愛されながら楽しく暮らしていたEOだったが、思いがけぬ出来事によりサーカス団から離れてしまうことに……。

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EOの辿る足跡は、まるで我々ひとりひとりの人間の人生のようだ。EO同様、我々は予期せずに様々な人に出会い、あたたかい人たちのお陰で人生が豊かになることもあれば、はたまた中途半端な善意がきっかけで奈落の底に突き落とされたり、明らかな悪意にさらされて抵抗したり、或いは抵抗することもできずに暗黒の闇の中にどっぷりと浸かったりもする。たったの一寸であっても、人生の先を予測することは至難の業だ。人間に生まれ落ちようと、ロバに生まれ落ちようと、自分自身の手で人生を掴み取り、人生の舵を切るのはなかなか一筋縄ではいかない。

EOの目線から、または地面すれすれから、はたまた高い空から、縦横無尽に動き回り微細な出来事に焦点を当てたり、壮大な景色を映し出したりするそのカメラワークは、そんな我々の「生き様」を表すかのようで、雄弁な台詞などなくとも、我々を取り巻く世界の刹那や無情を観る者の心に滝のように浴びせてくる。

本作はストーリーを丹念に追う作品ではないし、決してすべての伏線が回収されるわけではない。だが、果たして我々人間の人生で「伏線が回収された」ことなどどれくらいあっただろうか? そんなドラマのような人生を、有名人のような人生を、いったいどれくらいの割合の人たちが体験しているだろうか? そういった意味でも本作は、寓話かと見せかけて残酷なまでにリアルさを追求している作品なのだ。

EOと相思相愛の人間の少女役のサンドラ・ジマルスカ。Netflixの人気コメディ「Sexify/セクシファイ」への出演でも知られるが、ネット検索ではカタカナ表記で"サンドラ・ドルジマルスカ"と、苗字の前に"ドル"が書かれているページがヒットすることが多い。これは彼女の英語表記"Sandra Drzymalska"からそのように書かれているようだが、本作の宣伝会社のご担当氏がポーランド大使館に確認したところ、読みは「ジマルスカ」の方が正確だとのこと。SixTONESはシックストーンズではなくストーンズと読むようなものだろうか。いや、だいぶ違う。どうやら、ポーランド語を英語表記にすると実際には発音しない音というものが出現することがあるようだ。どうやら。

異国の言語は奥が深い。異国の本作もまた、底が見えぬほど奥深い作品だ。

監督:イエジー・スコリモフスキ(『アンナと過ごした4日間』、『エッセンシャル・キリング』)
脚本・製作:エヴァ・ピアスコフスカ、イエジー・スコリモフスキ
出演:サンドラ・ジマルスカ、ロレンツォ・ズルゾロ、マテウシュ・コシチュキェヴィチ、イザベル・ユペール
配給:ファインフィルムズ
公開:5月5日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテ他にて全国ロードショー
公式サイト:https://eo-movie.com/ 

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記:林田久美子  2023 / 03 / 08











エンタメ シネマピア   記:  2023 / 03 / 10

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