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【映画レビュー】関心領域

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花が咲き誇る広い庭、青く澄み渡る空、子どもたちの笑い声……幸せそうに暮らす一家のその新築の一軒家は、アウシュヴィッツ収容所の隣に建っていた。「この映画をみたことは一生忘れないだろう」Entertainment Weekly、「今世紀最も重要な映画」IGN、「どんなホラー映画よりも恐ろしい」Vox……と、各誌が絶賛。監督と脚本は『記憶の棘』(ニコール・キッドマン主演)、『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』(スカーレット・ヨハンソン主演)のジョナサン・グレイザー。『ウィッチ』『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』『ミッドサマー』『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』等、異色の衝撃作を続々と生み出す新進気鋭の映画製作会社A24製作のもと、同名タイトルの原作小説を独自の解釈で磨き上げた。第76 回カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞する他、英国アカデミー賞、ロサンゼルス映画批評家協会賞、トロント映画批評家協会賞など世界の映画祭の各賞を総なめにした話題のホロコースト映画が、いよいよ日本で解禁となる。

1945年、ドイツ。アウシュヴィッツ収容所隣の新築の邸宅に、収容所所長のルドルフ(クリスティアン・フリーデル)と妻ヘートヴィヒ(ザンドラ・ヒュラー)、その子どもたちは、召使いを数人使いながら裕福で仲睦まじい生活を送っていた。とある日、妻の母がその家を訪れ、一晩、その家に泊まることになる……。

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タイトルの「関心領域(The Zone of Interest)」とは、第2次世界大戦中、アウシュヴィッツ強制収容所群周辺の40 平方キロメートルの地域のことをナチス親衛隊が実際に呼称していた言葉だ。
この領域の中で、絵に描いたような幸せな生活を送る家族。だが、壁を一枚隔てた隣の収容所から聞こえてくるのは、何かしらの機械の音、怒号、人の悲鳴。収容所の煙突からは、昼も夜ももくもくと天に昇っていく、おびただしい量のどす黒い煙。邸宅に打ち合わせに訪れる焼却機の業者は、新作のその機器の焼却能力の高さを売り込むが、燃やすその対象のことを“荷”と呼ぶ。“ユダヤ人”とは呼ばない。そうした細部のディテールを、グレイザー監督は約2年にわたり綿密に調査。実在のアウシュヴィッツ収容所所長、ルドルフ・ヘスの実際のエピソードを盛り込み、新たな視点からの衝撃作を生み出したのだ。

ルドルフにとって“それ”は単に上から与えられた仕事だ。組織の一員でしかない彼は、その仕事を淡々とこなす。いかに効率よく、いかに費用を抑え、いかに時間をかけずに“それ“をやり続けるか。それこそが、それだけが、組織が彼に与えた使命だ。一家を養い、衣食住事足りずに裕福な生活を続けるために、そして昇進のために必要なこと。彼らにとってユダヤ人とはもはや“人”ではない。繁殖しすぎた害獣を処分するかのように、その作業には何らの感情もない。

……ない。ない? 本当に“無い”のか? レントゲン映像で描かれるとある人物のとある行為、妻の母が残したある物の中身、そして終盤、ルドルフに訪れるとある生理現象。そうした数少ない“救い”が、本作で重要な役割を果たす。

スクリーンを観ながら、彼らと我々を隔てるものは何だろうと考える。もしも私たちが将来、同じような状況に置かれたとき、この映画を観ている観客の視点……すなわち今の自分の視点で、自分を見ることができるだろうか。それともルドルフ一家のように、想像力を削ぎ落して自分たちの幸せだけを追求する獣に成り果ててしまうのか。

決して後者にはなるまい。前者でいなければならない……と、今の平和なこの日本でこれを書きながらそう思ってはいるが、もし本当にそうなったなら、果たして。そんな問いを残酷に突き付けてくるのが本作だ。是非、大切な人たちと一緒に、劇場でご覧いただきたい。

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原作:マーティン・エイミス『関心領域』 (早川書房) (https://www.amazon.co.jp/dp/4152103329 )
監督・脚本:ジョナサン・グレイザー
出演:クリスティアン・フリーデル、ザンドラ・ヒュラー
配給:ハピネットファントム・スタジオ
公開:5月24日(金)、新宿ピカデリー、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
公式サイト:https://happinet-phantom.com/thezoneofinterest/ 

© Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money LLC and Channel Four Television Corporation 2023. All Rights Reserved.
 


記:林田久美子  2024 / 05 / 10











エンタメ シネマピア   記:  2024 / 05 / 13

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