ikkieの音楽総研

第88回 ikkieのロック用語解説編 AOR――これが"きっかけ"となった対談なんですよ

2013 / 10 / 01

今回の音楽総研はロック用語解説編の最終章、AORでございます! 音楽総研で取り上げるのは意外な感じがしますよねえ。でも実は、このAORが、ロック用語解説編を始めることになったそもそものきっかけだったんですよ。ある原稿に書いたAORという単語について俺と編集部・松本氏との間に認識の齟齬があって、いろいろと解説しているうちに、じゃあこの際だからいろんな専門用語についても解説しちゃおうと、ロック用語解説編をスタートさせたわけです。いろいろと解説してきましたが、実はこのAORこそを、解説したかったという。今までの回は、長い長い前振りだったのです......。

松本●これが最後のロック用語ですね。AORです。AORというのは、アルバム・オリエンテッド・ロック、アダルト・オリエンテッド・ロック、アダルト・コンテンポラリーという、三つの考え方があると。
ikkie▲はい。
松本●私はAORというのはアダルト・オリエンテッド・ロックの略だとばかり思っていましたが......。私が思うアダルト・オリエンテッド・ロックは、ボビー・コールドウェルボズ・スキャッグス という方々......なんとなくああいう音楽というイメージを高校時代から持っていました。でも、AORと書いてあってもそればかりを当てはめるのは違う、というのがikkieさんの考えでしたね。
ikkie▲一般的にAORと聞いて頭に浮かぶのはその辺りのアーティストだと思うし、俺自身も原稿にAORと書いた時に浮かべた顔はそこなんです。でも、アダルト・オリエンテッド・ロックというのは......実は和製英語で、欧米ではこう言わないらしいんですよ。AORというのは、元々はアルバム・オリエンテッド・ロックの略で、曲をシングルカットしなかったり、シングルよりもアルバムを重視するアーティストのことを指していたんですね。だから、それこそプログレなんかのことだったりしたわけです。でも日本では、爽やかで洗練された都会的な音......ボビー・コールドウェルなんかのサウンドを、アダルト・オリエンテッド・ロック、略してAORと紹介したんです。それで、向こうではなんて言っているかというと、AC......、アダルト・コンテンポラリーと言われています。現代的で、かつ大人向けのサウンドですよ、ってことで、アダルト・コンテンポラリーなんですけど、ACって言葉は日本じゃあんまり使われてないと思うんですよ。
松本●ですよね。公共広告機構かと思いますね。
ikkie▲そのせいもあるのかな(笑)。なので、日本で使うならAORで間違いないんだけど、それをあえてAOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)......って注釈つけて書いちゃうと、俺がそれを知らないで使ってる人みたいになっちゃうという(苦笑)。

ボビー・コールドウェル『Heart Of Mine』
AORといえばこの曲ですよねえ。名曲!
しかしこの動画、最後ブツ切れ……そういうところ丁寧にしてほしいもんです

松本●なるほど(笑)。そのAORという単語が伝わってきた時に......訳し間違いではないんでしょうけど、また違う意味を当てはめた言葉になったということなんですかねえ。
ikkie▲そうなんですよ。で、また、この辺がややこしくなる原因なんですけど、アルバム・オリエンテッド・ロックって言い方も、今は誰もしないと思うんですよね。
松本●まあ、語源としてはそういうことだったわけですよね。シングルカットしないバンド。
ikkie▲そうです。まあ、シングルもちょっとは出していたのかもしれませんけど、シングルよりもアルバムを重視してるってことで、オリエンテッド(「〜を志向する」、「〜主義」といった意味)なわけです。でも、AORと聞いた時に日本人がイメージするサウンドはプログレではなくて、確実にACのほうですよね。
松本●間違いなくそうでしょう。
ikkie▲ただまあ、あんまり定着していないとはいえ、日本でもマニアの人はちゃんとそう言うんですけど。前に知り合いのバンドのライヴを観に行ったら、メンバーがその辺のマニアらしくて、MCで「この間、AIR SUPPLY のレコードを見つけてね......」なんてことを話してたんですが、その人ははっきりとアダルト・コンテンポラリーって言ってましたし。
松本●そうサラッと言えるのはカッコいいですね。
ikkie▲マニアの人はそう。でも一般的に......例えば雑誌とかでも、ACというよりも、AORと書いてあることのほうが多いし、そのAORというのはアルバム・オリエンテッド・ロックのことではなく、アダルト・コンテンポラリーを指していることが多いと思うんですよね。で、同じジャンルを指す、アダルト・オリエンテッド・ロックというのも間違いではないけど、さっき言ったようにある意味で正しくない。だから、AORといえばなんとかの略だとか言わず、その三つのアルファベット、AORっていう単語だけでイメージしてほしいな、という気持ちが俺の中ではあるんです。
松本●カッコ付きで注釈を書いたりするのはいらん、ということになるわけですね。
ikkie▲そうそう。AORはAORだよ、と。
松本●ひとつの単語として存在していると。

ボズ・スキャッグス『We're All Alone』
これもいい曲ですねえ。
ちなみに、この曲が収録されたアルバム『Silk Degrees』に参加したミュージシャンたちが、
後にTOTOを結成します

ikkie▲そういうのって、他にもなんかありそうな気がするんですけど......。
松本●ありますよね。JRAとかJTとか、それこそたくさん。
ikkie▲そうそう。JRAと聞いたら「日本中央競馬会」とか思う前に「競馬をやっているところ」、JTと聞いたらとりあえず「タバコ」。そんなのと同じ意味で、AORと聞いたらあの音、いわゆるAC的な音を思い浮かべるんじゃないかな、ということなんですよ。
松本●なるほどなるほど。わかりました。だからもう、あえて注釈をつけたおかげでマニアの人が「いやそれは違う」と言ったりするくらいなら、一つの単語、記号にしようじゃないかという。
ikkie▲そうなんですよ。まあ、俺が絶対そういうことを言うタイプだから、なおさら気になるのかもしれないですけどね(笑)。AORとだけ書いたものを、「AOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)」って校正されて載ってしまうと「いやー、ikkieってわかってねえな、なんか偉そうに書いてるけど、こっちかよ」みたいなことを言われるんじゃないかと思っちゃって(笑)。
松本●(その注釈をつけたのは)俺じゃない俺じゃない、ってなる(笑)。
ikkie▲そう(笑)。ほんと、そういう反応もゼロではないだろうな、と思うんですよね。じゃあACと書けばよかったじゃないかというと、それだとイメージしにくいかもしれないし。それで、あえて書くなら......注釈をつけるならね、きちんと書きたかったんです。アダルト・オリエンテッド・ロックと日本では言われているけども、実は......というところまで書きたかった、という気持ちがありました。
松本●でも、それだと凄く面倒くさくなるんでやめよう、ってことにしたんでしたね。
ikkie▲そうですね。だったら※でも付けて、別に注釈のスペースをとるとかね。雑誌やマンガなんかだと、そういうふうにしてあるのもありますよね。
松本●それで今、まさにこのコーナーが成立しようとしてるわけですよね(笑)。
ikkie▲そうですね(笑)。それと、AORだけじゃなくて、HR/HMにしても、もういい加減「ハードロック・ヘヴィメタルの略」だとか書かなくてもいいんじゃないかな、って気持ちもあったんですよねえ。
松本●この一連の原稿が載れば、もう大丈夫ですよ(笑)。

★ikkie★
AORは、アルバム・オリエンテッド・ロック、アダルト・オリエンテッド・ロックの他にも、実はオーディオ・オリエンテッド・ロックなんて言い方もあります。これは音志向とでも訳せばいいのかなあ。サウンド的にはACのことを指すらしいので、日本のアダルト・オリエンテッド・ロックと同じ意味なわけですが、正直言ってほとんど聞いたことがありません。欧米でどうなのかはわかりませんが、使われている印象はないですねえ。

クリストファー・クロス『Arthur's Theme (Best That You Can Do)』
『ニューヨーク・シティ・セレナーデ』という邦題のほうが有名ですかね。
透明感のある美しい歌声とさえない(失礼!)ルックスとのギャップが衝撃的でした

松本●さて、AORで用語解説は終了です。......ここまでいろんなジャンルの解説をしていただきましたけども、実は生まれは全部この言葉、ハードロックからだったんですねえ。あ、AORやACは関係ないわけですけど。それ以外の言葉はたいていここから派生して、生まれてきた音楽になるんですねえ。
ikkie▲今回はその辺りを中心に話したので、なおさらそういう印象だと思うんですけどね。おそらく他のジャンルでもそういう、根っこになる音楽はいっぱいあるんですけど、そうすると俺はまあ、それほどくわしくはないので......。HR/HMや、それに近いジャンルに関していうなら、そうですね。
松本●一つの系譜としては、そこから生まれてきたという流れになっていると。じゃあ、当たり前のことですけども、90回近く連載してきた中で出てきた単語、ジャンルというのは、ひとつ幹があって、そこから枝葉が出ているという流れだったんですね。いろんな単語が出てくるから、それぞれ違うジャンル......もちろんそれぞれ違うジャンルなんだけども、生みの親が一緒だったということなんですね。
ikkie▲そうですね。まあ、もっと言っちゃえば単純にロックってことだし、音楽だってことなのかもしれないですけど。今回解説してきたHR/HMというジャンルは特に......まあ、この辺って"村"みたいな感じなんですよね。ハードロック村。もちろん世界中に広まっているジャンルですけど、どこか"村"的なものを感じます。
松本●でも、そのハードロック村からいろんなのが、移民みたいなのがバーっと出て行って......。
kkie▲まさに移民ですね。
松本●イギリスから、アメリカ、ドイツ、北欧、日本などの、土地、土地によっていろんな成長を見たと。
ikkie▲そうそう。音が変わっても......大きく括ればHR/HMですよ、だけどもその中で......、ま、グランジとかはHR/HMって言うと双方のファンが怒っちゃうと思うんですけど、まあ、LAメタルでも、デスメタルでもなんでも、この大きな括りの中にいて、細かくわけていくとこうですよ、っていうことですね。
松本●凄くはっきりと流れてるんだな、っていうのがわかりましたね。私もわかんないまま二年以上担当してましたけど、今回でよくわかった気がします。どこかからロックというものが出てきて、土地、土地によって変わって、中には極端で、先鋭的なものも出てくる。で、それをいいなという人も出てくる。本当に、世界の自然と一緒ですね。
ikkie▲そうかもしれないですね。
松本●これから先も全然相容れないジャンルから新しいロックが構築されていくのでしょうね。......なにかありますかね......詩吟とか長唄とか......?
ikkie▲それって"イギリスの炭坑節"とか、最初のころに言った日本人のいちばんダメな発想法ですよ(笑)。
松本●融合できる余地があるかどうか、詩吟の先生でも呼んで対談しましょうか?
ikkie▲遠慮させていただきます、はい(笑)。

さて、長々と連載してきたロック用語解説編ですが、今回で一旦終了いたします。最後の最後に編集部・松本氏が暴走してますが(笑)、いかがでしたか? 我ながら、なかなかわかりやすく解説できたと自負しております。今後もロック用語だけでなく、ギターの専門用語など、機会があれば解説したいと思っています。質問も受け付けますよ! 俺の知ってることなら、と最初に断っておきますけども。




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