インタビュー/記者会見

「音楽は驚きと感動だと思っています」
アルバム『NOTHIN' BUT JAZZ』発売!
ジャズピアニスト、クリヤ・マコトインタビュー!

kmPH001.jpg構想2年。世界的に活動を展開するジャズピアニスト、クリヤ・マコトが総勢22名の国内外の人気・実力派アーティストを迎えて制作した、日本ジャズ界のマイルストーンとなるアルバムが登場。スタイル・世代を超越した「ジャズの魅力・楽しさ」の探求を続けるクリヤ・マコトがまさにスタイル・世代を超越したメンバーと作り上げたのが『NOTHIN’ BUT JAZZ』だ。魅力たっぷりの楽曲とメンバーをおもちゃ箱のように詰め込み、カラフルなジャズの世界観が一遍の物語のように綴られた、傑作アルバムに仕上がった。
クラブジャズの注目を集め続けているジャズカルテットQUASIMODEのmatzzや、昨年10周年を迎えた国内外で活躍中のジャズバンドSOIL&"PIMP"SESSIONSからタブゾンビと元晴、昨年の日本レコード大賞の優秀アルバム賞を受賞したJiLL-Decoy associationのkubota、音楽家・文筆家・大学講師等としても活躍中のサックス奏者、菊地成孔らが参加しており、現在のクラブジャズシーンで活躍中のアーティストを数多くフューチャー。ボーカル曲も2曲収録しており、SHANTI、ギラ・ジルカがその魅力を遺憾なく発揮している。今回は、アルバム『NOTHIN’ BUT JAZZ』の発売に合わせて、デビュー前から現在までの活動、そして本作の魅力について話を聞いた。

★海外の音楽をリアルタイムで聴ける、理想的な環境

父親がセミプロみたいなミュージシャンで、家の中には音楽が溢れていました。でも、父は僕を音楽家にしようとは思っていなかったし、むしろ音楽家になることには反対だったんです。音楽家として生計をたてていくことが非常に困難であることは、一度目指したことがある父だけに、わかっていたんでしょうね。僕がソロ・デビューしてCDを作り始めた時でさえ、まだ反対していました。子供に不要な苦労をさせたくなかったんでしょう。
父のバンド仲間がよく遊びに来ていましたが、その中には商社マンなども多く、世界中の出張や赴任先から様々なレコードを買って帰り、みんなで聴くわけです。当時だとラテンやジャズを始めスペインのフォークミュージックや中米のサルサ、南米はブラジルのアントニオ・カルロス・ジョビンなど、リアルタイムで聴ける、理想的な環境にいました。父親が聴いている音楽を盗み聴きしているような感じで、音楽に興味をもちましたね。ピアノは5歳から、ギターも父の影響もあり自然に弾けるようになっていました。

KmPH002.jpg★10代のころに聴いた音楽が、僕の細胞の中に入っているような感覚

中学時代には、レッド・ツェッペリンやディープ・パープルを聴くようになり、ロック・バンドを組んで、担当は鍵盤楽器が中心でしたが、ギターも弾いていました。お気に入りはイエスで、あの音楽の構造部分、たとえば組曲形式だったり、変拍子や対位法といったところが好きでした。アレンジャーとして、20年くらい活動していますが、そのころにいろいろな音楽を聴いていたことが、今でも役に立っています。僕は音楽学校を出ていないので、全部“ノリ”でやっているんです。曲作りやアレンジ、演奏において奇抜なアイデアが出てきたりするわけですが、潜在的に聴いていた音楽の集合体みたいなものがヒントになって、今の時代感覚に孵化されるわけです。特にイギリスのプログレは教養溢れる音楽だと思っています。それと対極にあるのはサルサですね。サルサはあれだけ複雑なことを、まったく譜面が読み書き出来ない中で体で憶えているんです。ジャズの激しい展開の曲をいろいろと書いてきましたが、トリオから大編成のものまで、サルサが基本になっていたり、イエスが参考になっていたりと、10代のころに聴いた音楽が肉となり、肥やしになって、僕の細胞の中に入っているような感覚ですね。

★自由奔放に譜面もオタマジャクシもないところで音楽を

父の反対があって音楽大学には進めなかったので、2番目に興味があった言語学の勉強をしようと。その当時、日本にはその学科がほとんどなく、それでアメリカのウェストバージニア州立大学・言語学部に進学しました。マインドを自由に開放できる、自分の思考回路に役に立ったのが言語学だった。そういうリベラルな言語学の影響を受けながらも、黒人たちのコミュニティーの中では、自由奔放に譜面もオタマジャクシもないところで音楽をやっていて、そういう意味でも自由だった。その中で、黒人の背負っているものを彼らの話から肌で感じ、その苦悩を目の当たりに。彼らのその日常の会話が音楽にそして歌になる。日本とは感覚がまったく違います。今でもよく思うことは、ワシントンやニューヨークにいると、自分はこういう環境にいるべきなんだなって。アメリカでは、ロックバンドもソウルバンドも自分たちが楽しければそれでOK。同時にお客さんたちも楽しめればというところでリンクして、それがだんだんとビジネスになっていく。
日本人は、音楽に対する接し方を自分たちで敷居を高くしている気がします。特にメンタルな部分では、世代を越えて感じますね。日本の場合、なんのために音楽をやるのかという初動の部分で踏み外しているような。よく「最近アドリブが出来なくて悩んでいる」、「うまくコードが弾けない」、「早い曲になるとわからなくなる」など、相談を受けることがありますけど、音楽を悩むなと、悩んでやるもんじゃないと。その段階で違う思考回路が働いてしまっている。音楽は先生について学ぶものですよって思っているところが、間違えとまでは言わないですけど、どこか他力本願的なところがあって、習い事になってしまっている。その空気を正さないと不味いなと。どうしてそうなっちゃうんだろうって。音楽って、もっと自由であるべきものです。

kmPH003.jpg★ニューヨークなどでは、レジェンドが普通に暮らしている

黒人たちのコミュニティーの中で、いろんな音楽を聴いていました。AORだったり、ファンクだったり、ソウルなど、そういったブラックミュージックの影響を受けました。ですが、いい音楽はなんでも聴こうといった感じ。当たり前だけど、日本ではレジェンド(伝説的人物)が近所に住んでいませんが、ニューヨークなどでは普通に暮らしていますから、空気感が違いますね。僕はピッツバーグに住んでまいたけど、ジョージ・ベンソンを筆頭にミルト・ジャクソン、上原ひろみさんを見いだしたアーマッド・ジャマルなどがいました。黒人街の文化センターみたいなところで、「鍵盤がいないからやってくれないか?」って頼まれた時のドラムがプージー・ベルだったり。そういう名前の通った強力なアーティストがその場にいるんです。

★チャック・マンジョーネは寝ない!

『フィール・ソー・グッド』で全世界的にブレイクした後、彼がロサンゼルスオリンピックのテーマ曲を書いるころでした。主にフージョン系のサウンドをやっていた彼が“どジャズ”をやりたいということから、僕がツアーに参加することに。アート・ブレイキーのジャズメッセンジャーズ(ジャズの登竜門バンド)に在籍していたこともあり、もともとジャズをやりたかったようです。彼はグラミー賞を獲るほどのスターだから、普通の生活がつまんない。ニューヨークのロチェスターで暮らしていましたが、ほとんどその街にはいなかったんです。つまらないから、すぐにツアーの仕事を入れて旅に出る。ツアー中は多忙なので寝ないんです。まわりが驚くほどに数時間しか寝ない。チャック・マンジョーネは寝ない(笑)。居眠りで終わっちゃう。普通のツアーの行程は、夜に演奏が終わり、食事して就寝。その翌朝、ロビーに集合して飛行機で移動し、次の場所で演奏。彼の場合は、演奏が終わって食事した後に、必ず近くのボウリング場に行くんです。コンサート中にお客さんに、「この近くのボウリング場を知っている人がいたら、後で楽屋に来てください」って。それで、夜中にボウリング場に。アメリカでの公演は日本と比べて遅いから、行くころには夜中になっているんです。ボウリングを朝の4時ころまでやって、僕らはその後ホテルに帰るんですけど、彼は今度は釣りに行くんです。アメリカの地方公演は、だいたい近くに海か湖があるから。釣りをやって、ボートの上でちょっと仮眠して……。それが毎日続きます。寝ないで曲を書いているわけではなく、遊んでいる(笑)。

kmPH004.jpg★『ナッシング・バット・ジャズ』—ジャズが無くちゃ生きていけない—

今回のアルバムは、ひとことでいうならジャズの楽しさをみなさんにわかってもらいたいということから制作しました。
ジャズを知っている人にも、ジャズを知らない人にも。広く一般のリスナーにも聴いていただいて、ジャズって楽しいなって思っていただければ、と。そのためには聴き手の年齢層や演奏する側でも20代の若いミュージシャンから50代まで、年齢のギャップを埋めたり、ジャズの中でもロックっぽかったりと、縦軸では年齢、横軸ではジャンルといった感じで、包括できる作品にしました。また、生演奏を聴いているような“生きのいい”サウンドに。スタジオ版でカッチリとした形にはしたくなかったんです。ふだんはライブでしか聴けないような感じの曲だったり。今回はどの曲もライブ感を大事にして、いかにもライブをそのまま録ったような、そういった絶妙な演奏を。基本的には一発録りで、多少の修正は入っても、演奏者同士のグルーブ感がそのままリスナーに伝わればと……。

★『Great American Melodies』は、玉手箱のように

これは、僕の中でずっと体の中に鳴っていた組曲みたいなものです。『ラプソディー・イン・ブルー』は、一瞬しか出てきませんが、もともとの発想は『ラプソディー・イン・ブルー』から。『ラプソディー・イン・ブルー』が速くなった部分は、なぜか僕の中では『シンプソンズ』が鳴っていて、それを発展させていったら面白いかなって。そこから次々とメロディーが出てきて、とりとめもないんだけど、玉手箱のように、次何が起こるかわからないような驚きを出したくて。僕の音楽の中では、驚きはファクターとして重要なんです。音楽は驚きと感動だと思っています。それがないと、聴くに値しないと。僕の音楽では常に両方を入れようと務めています。

kmPH005.jpg★作曲、編曲、演奏の3つの作業がオーバーラップする

よく笑い話で、インタビューの時に「どういう時に作曲しますか?」と聞かれると「締め切り前に作ります」って答えます(笑)。コンセプト的な話で言えば、先ほどと繋がりますけど、驚きと感動を与えたいということでは、演奏もそうですけど、編曲も曲作りにおいても同じです。僕の場合は作曲、編曲、演奏の3つの作業がオーバーラップすることは確かですね。ひとりですべてが出来るということだけではなくて、作曲中に編曲のことを考えながら作曲し、編曲中に、自分で弾けるのかなって考えたり。自分が演奏することが前提になっているので、それぞれのプロセスを考慮しながら作曲中に編曲もしています。気がつくと作編曲が同時に終わっていることも。

★いままでスポットライトが当たらなかった人にもチャンスを

今回収録の『Interlude』(アドリブ・コンテンスト用リズム・トラック)は、ミックス中にリズムトラックだけを聴いたら面白かったので、これはうわものなしでカラオケ的に成立させようと。そこからアドリブコンテストという発想が生まれました。コンテストをやることによって、音楽の状態が下降傾向にある中、困っている若い世代の発表の場になれば、と。僕や菊地成孔さんが審査をします。これからレコ発ツアーを行なうので、その会場で入賞者には僕らと一緒に演奏を。you tubeに画像をアップするだけです。いままでスポットライトが当たらなかった人にもチャンスをという思いで、このアルバムが自分だけのものではなく、後進の発掘にも一役買えればという意味もあります。
応募した人のホームページや過去の投稿などプロファイルも参考にしますし、すべての作品にコメントも付けます。以前、一度同じような企画をしたことがありますが、応募作品の中にはアマチュアでも凄く演奏技術の高い人や新しく楽器を作る人など、プロよりも面白い人がいますので、今から楽しみです。

kmPH006.jpgクリヤ・マコト・オールスターズ『NOTHIN’ BUT JAZZ(ナッシング・バット・ジャズ)』
2014年4月23日発売 COCB-54083 2800円+税

<参加アーティスト>
クリヤ・マコト:ピアノ、キーボード、プロデュース、アレンジ
納浩一:ベース
鳥越啓介:ベース
早川哲也:ベース
大坂昌彦:ドラムス
則竹裕之:ドラムス
天倉正敬:ドラムス
安井源之新:パーカッション
グラハム・パイク:トランペット、フリューゲル・ホルン、トロンボーン
中川英二郎:トロンボーン
類家心平:トランペット
太田剣:サックス
ジェームス・ホアレ:ナレーション
フランチェスコ・ブルーノ:ギター

<ゲスト>
ギラ・ジルカ:ボーカル
SHANTI:ボーカル
kubota:ギター from JiLL-Decoy association
菊地成孔:サックス
元晴:サックス from SOIL &"PIMP"SESSIONS
北原雅彦:トロンボーン from Tokyo Ska Paradise Orchestra
タブゾンビ:トランペット from SOIL &"PIMP"SESSIONS
松岡 “matzz” 高廣:パーカッション from QUASIMODE
スノーボーイ:パーカッション

<収録曲>
1.Street Walking Woman
words & music : Marlena Shaw / Loonis Mcglohon
クリヤ・マコト(pf/key)、納浩一(b)、則竹裕之(ds)
Guest: ギラ・ジルカ(vo)、スノーボーイ(perc)
2.Afro Feet
music:Makoto Kuriya
クリヤ・マコト(pf)、早川哲也(b)、大坂昌彦(ds)
Guest: 北原雅彦(tb)、元晴(as)、タブゾンビ(tp)、松岡 “matzz” 高廣(perc)
3.Great American Melodies
music:Makoto Kuriya
クリヤ・マコト(pf/key)、菊地成孔(ts)、鳥越啓介(b)、天倉正敬(ds)、安井源之新(perc)、グラハム・パイク(tp/f.hr/tb)
4.Cherokee Introduction
music:Makoto Kuriya
クリヤ・マコト(pf)、納浩一(b)、大坂昌彦(ds)
5.Cherokee
music:Ray Noble
クリヤ・マコト(pf)、納浩一(b)、大坂昌彦(ds)
6.The Stranger
words & music:Billy Joel
クリヤ・マコト(pf)、鳥越啓介(b)、天倉正敬(ds)、ジェームス・ホアレ(na)
Guest:SHANTI(vo) 、kubota(g)、スノーボーイ(perc)
7.MANTECA
music:Dizzy Gillespie / Walter Gilbert Fuller / Chano Poz
クリヤ・マコト(pf)、鳥越啓介(b)、天倉正敬(ds)、安井源之新(perc)
8.Sakura Garden
music:Makoto Kuriya
クリヤ・マコト(pf/key)、納浩一(b)、則竹裕之(ds)、太田剣(as)
9.On The Ridge(TOYOTA86プロデュースBS日テレ「峠 TOUGE」テーマ曲)
music:Makoto Kuriya
クリヤ・マコト(pf)、早川哲也(b)、大坂昌彦(ds)、太田剣(as)、類家心平(tp)、
中川英二郎(tb)
10.Interlude (アドリブ・コンテンスト用リズム・トラック)
music:Makoto Kuriya
クリヤ・マコト(pf/key)、鳥越啓介(b)、天倉正敬(ds)、安井源之新(perc)
11.Sister Sadie
words & music:Horace Silver
クリヤ・マコト(pf)、早川哲也(b)、大坂昌彦(ds)
Guest: 北原雅彦(tb)、元晴(as)、タブゾンビ(tp)、松岡 “matzz” 高廣(perc)
12.Discovery(BS-TBS「それがしりたい ニッポンおもしろいネ」テーマ曲)
music:Makoto Kuriya
クリヤ・マコト(pf/key)、納浩一(b)、則竹裕之(ds)、安井源之新(perc)、
フランチェスコ・ブルーノ(g)

All Arranged by Makoto Kuriya











エンタメ インタビュー/記者会見   記:  2014 / 05 / 13

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