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インタビュー/記者会見
映画『野良犬はダンスを踊る』
「今まで見たことのない近藤芳正を描きたかった」
窪田将治監督インタビュー!
近藤芳正初主演、窪田将治監督の最新作『野良犬はダンスを踊る』が2015年10月10日(土)より渋谷ユーロスペース他で全国順次公開される。モントリオール世界映画祭(「失恋殺人」「クレイジズム」「僕の中のオトコの娘」に続き本作『野良犬はダンスを踊る』で4回目)に正式出品されるなど、海外でも高い評価を受け、本年度は新作の公開が続く(「D坂の殺人事件(2015年2月)」「BAR神風〜誤魔化しドライブ〜(2015年4月)」)窪田将治が初主演の近藤芳正をイメージして、オリジナル脚本を書上げメガホンを取った。その窪田将治に今回は、映画監督をめざしたきっかけから、モントリオール世界映画祭、そして『野良犬はダンスを踊る』について話を聞いた。
■ストーリー
主人公、黒澤宗之(近藤芳正)は高山組抱えの敏腕殺し屋として数十年に渡り活動している。今では若手の育成を含め2人の若衆、林田洋平(加藤慶介)と秋元創輝(鈴木勝吾)を連れ日々の稼業に勤しんでいた。いつまでも若いと思い込んでいた黒澤だったが徐々に仕事でミスを犯すようになり年齢による衰えに苛立ちを感じはじめていた。そんな時、黒澤は常連のクラブのホステス米沢美織(柳英里紗)の優しさに触れ徐々に惹かれていく。黒澤の心の隙に入り込む美織の存在…黒澤は自身に鞭を打って仕事に励むが致命的なミスをしてしまう。そして家業の引退を決意するが…物心ついた時から裏社会で生きてきた男が黄昏時を迎えた時、どう決断し生きていくのか!?
尾崎●まずは、映画監督を目指したきっかけからお話を聞かせてください。
窪田▲実は、映画監督は目指していなかったんです。僕はダマされて映画監督になったんです(笑)。
尾崎●日本映画学校(現・日本映画大学)を卒業されたとうかがっていますが……。
窪田▲最初は別の映像学校で写真をメインに勉強をしていました。その学校時の同級生に本格的に映画を撮りたい友人がいて、彼から日本映画学校の説明会に一緒に行って欲しいと頼まれたんです。今村昌平監督がその説明会に出席されるとのことだったので、僕は監督に会えるという興味本位から参加したんです。友人は説明会後に映画学校に入りたいと言いだし、一緒に受験しないかと誘われました。面白そうだったので僕も軽い気持ちで受けることにしました。いろいろと手続きをして受験票が届いたんですけど、僕を誘った友人はなんと心変わりをして受験を辞めてしまったんです。
尾崎●えっ?
窪田▲そして僕は受験をし、受かってしまったので以前の学校を辞め日本映画学校に(笑)。それから映画の勉強を本格的にするようになったんです。卒業後は、自主映画を撮ったりはしていましたが、生計はバイトで立てていました。ある時、ミュージックビデオを監督する機会に恵まれて、偶然にもその時のプロデューサーが中学の先輩だったんです。それからその先輩には可愛がっていただき、ミュージックビデオの仕事を定期的にもらえるようになりました。その後、知り合いの社長さんからの依頼でテレビ埼玉のバラエティ番組を作ることになり、構成作家と演出を任されました。その番組が深夜枠の30分番組だったんですけど、局内での全時間帯の視聴率2位になったんです。
尾崎●全時間帯ですか!すごいですね。
窪田▲浦和レッズ戦の次だったらしいんですよ!
その番組は若い女の子が様々なスポーツに挑戦するといった内容でした。 2クール(半年)続けてたんですけど毎週の締切がキツくなり辞めたくなったんです(笑)。ただ簡単には辞めれないので、この番組の枠組みを使って映画を製作する企画を作ったんです。
ちょうど番組内で女子プロレスに挑戦するというのが好評だったこともあったので、女子プロレスを題材にした映画を製作できないかと思案したんです。当時の女子プロレス界は、年に2〜3人が新人デビューすれば多いと言われる世界でした。そこに目をつけて企画を作りました。その企画内容は「映画にキャスティングされる条件としてプロレスラーデビュー」という物です(笑) 。そして番組内容としてはオーディションから練習、プロデビュー、映画制作、公開までを番組で放送しようと考えたわけです。その企画が通り『スリーカウント(09)』を創ることができました。その作品が僕の長編デビュー作となります。この映画がきっかけで、その年は10人以上がプロデビューすることになり、今でも活躍しているレスラーもいますね。
尾崎●それでは、今回の作品『野良犬はダンスを踊る』についてお聞かせください。
第39回モントリオール世界映画祭“Focus on World Cinema部門”に選出されたとのことですが……。
窪田▲今回は、主演の近藤芳正さんとプロデューサーの佐伯寛之さんの3人でモントリオールに行かせていただきました。評判も良かったですね。海外の方にとっては、日本人の行動や感覚は不思議に映るようです。でも老いることに関してはどの国も同じですね。
尾崎●海外では殺し屋は日常にいるような気もしますが、日本人の殺し屋というのはどうなんでしょう?
窪田▲海外では“アサシン”という言葉があるようにとっつきやすいみたいです。拳銃が日常にあるからそんなに驚かない。日本では銃は規制されているので、今回は意識してあまり使わないようにしました。銃を持っている時点で嘘臭くなってしまうので……。日本人の殺し屋という存在をどうリアルに見せていくかが、課題でもありました。
尾崎●近藤さんは、初めての海外の映画祭とお聞きしましたが……。
窪田▲みんなから“上手”っていわれていました(笑)。近藤さんは「上手っていわれたのは学芸会の時以来だ」っていわれていましたよ(笑)。
尾崎●以前、取材させていただいた時に「小学校の学芸会で『夕鶴』の与ひょうを演じて、父兄や先生たちに評判がよかった」っていわれていました。その時以来ということですね(笑)。
窪田▲モントリオールでは若い監督たちとの出会いがたくさんあり、勉強になりました。
その後は、夜の街にくり出しましたけど(笑)。
尾崎●作品についてのお話を聞かせてください。
窪田▲主役にベテランの俳優を起用して、まわりを若手で固めるという企画を考えていたんです。そんな時に、近藤さんのマネージャーと知り合いお話する中で、近藤さんが今まで主役をされたことがないことに驚かされました。これはこの企画にピッタリだと思い、近藤さんにオファーさせていただきました。
最初は、地方の定年後のサラリーマンの物語を考えていましたが、近藤さんをイメージして脚本を考えた時に、今まで見たことのない近藤さんを描きたかったんです。セクシーで、ハードボイルドで、強面な近藤さんは、今まで誰も見た事がないだろうと殺し屋をテーマに脚本を書きました。近藤さんに脚本を見ていただいたところ「是非やろう!」といっていただき、映画製作がスタートしました。濡れ場シーンもあったので、それがNGだったらどうしようって不安もありましたけど(笑)。
尾崎●ズバリ、見どころは?
窪田▲主人公の黒澤宗之(近藤芳正)は、殺し屋なんですけど、でもそれが日常で、淡々と仕事をこなしています。黒澤にとっては、他の仕事をしている人となんら変わりがないんです。逆にその黒澤にとっての非日常は、体力の限界とか好きな女性ができてしまったところなんじゃないかと思っています。年配の人には、黒澤の体力の限界というところに感情移入できるんじゃないかな?って。そこが見どころのひとつですね。
尾崎●撮影現場でのエピソードは?
窪田▲近藤さんの濡れ場シーンは面白かったですね。同日に2人の女優さんとの濡れ場を撮りました。
尾崎●同日に2パターンも。
窪田▲近藤さんは一日中、裸でした(笑)。撮影が終わった翌日に近藤さんが「監督、朝起きたら腰が立たなくて、鼻を擦ったら鼻血が出てた」って(笑)。
尾崎●そんなにハードな撮影だったんですね!
窪田▲カメラアングルの違いで同じシーンを何度も撮影しましたから。濡れ場はアクションシーンに近いです。
尾崎●それはハードですね……。
窪田▲途中で、近藤さんが「このカットほんとうに使うんですか?」って、何度も聞かれました(笑)。
尾崎●窪田監督は若手に熱い指導をされることで有名ですが……。
窪田▲今回のメインの若手は2人の若衆を演じた林田洋平役の加藤慶介と秋元創輝役の鈴木勝吾、それからキャバクラ店長の川口一輝役の久保田秀敏ですが、この3人とは初めて仕事をしました。
尾崎●完成披露試写会での3人のコメントからでは、いろいろとキツイ言葉が飛び交ったようですが……。
窪田▲彼らは話を盛っています(笑)。いつも優しく指導してます(笑)。ネタにしているんですよ。僕の作品に出演した若手から受け継がれているネタなんです。でも、若手を指導するということは、この作品の企画のひとつでもあったんです。
近藤さんたちベテランの空気を感じながら、芝居をしてもらえればという思いはありましたね。彼らにとっては良い勉強になったと思っています。
尾崎●メイン出演者の魅力についてお聞かせください。
窪田▲主役の近藤さんは、今までに見たことのないセクシーでチャーミングなところ、この作品の一番の魅力ですね。今回の作品では、近藤さんは「なにもせずに、現場に行くことを心がけた」といっていました。現場では僕の間だったり、動きを理解して演じていただきました。やっぱり良い役者さんは理解の反応が早いんですよね。とても楽しかったですね。
尾崎●高山雅彦役の木下ほうかさんはいかがでしたか?
窪田▲ほうかさんは、今回で4作品目の出演になるので気心が知れた間柄です。今回のもうひとつの見どころとして、このベテラン2人(近藤芳正と木下ほうか)の駆け引きがあります。
尾崎●2人の間になんともいえない緊張感がありましたね。
窪田▲近藤さんもほうかさんも脇役としての受け身の芝居が達者なんです。これって実は難しい芝居なんですよ。2人がやり合うシーンは、僕にとっては居心地が良かったですね。あの空気感をみなさんにも味わっていただきたい。
尾崎●2人の微妙な距離感が良かったですよね。
窪田▲あの危険な香りが良いですよ。僕はそういった感じが大好きなんです。
尾崎●2人の若衆の加藤慶介さん、鈴木勝吾さんはいかがでしたか?
窪田▲そんなに期待はしていなかったんですよ(笑)。キャスティングする前に数名の俳優と顔合わせをしたんです。どんな人間か知りたかったので。加藤慶祐以外の俳優はマネジャーと2人で来たんですけど、加藤はひとりで来ました。だからコイツなら多少絞っても平気だろうなって(笑)。鈴木勝吾の場合はマネージャーに前々からお願いされていたこともあって、マネージャーの営業力です(笑)。現場では2人とも一所懸命悩んで、自分の力を出しきろうともがいていたので、鍛えがいがありました。この作品で成長したい良い作品を作りたいという気持ちが感じられました。2人にとって手応えはあったんじゃないかな。
尾崎●川口一輝役の久保田秀敏さんはいかがでしたか?
窪田▲彼も加藤と同じですね。最初に食事でもしながら打ち合わせをという話になった時にひとりで来たんです。それで決めました(笑)。
尾崎●窪田作品に参加するにはひとりで来ると良いんですね。
窪田▲もうダメですよ。今回までです(笑)。
久保田秀敏は“カラミ”のシーンもあったので、大変だったと思いますが良くがんばったなと。今回の若手3人はドラマの中で生きている方向がまったく違うんです。林田(加藤慶介)は黒澤をなぞりたい、秋元(鈴木勝吾)は逆に自分ひとりでも上にいくんだという向上心が強い、川口(久保田秀敏)は長いものにまかれるような感じがあり、同年代の人にはどこか重なる部分があるんじゃないかと。
尾崎●あえて、キャラクターを分けたということですね。
窪田▲3人のそれぞれの魅力を見ていただきたいですね。
尾崎●ヒロイン、ホステス米沢美織役の柳英里紗さんはいかがでしたか?
窪田▲彼女とは以前、別の作品のオーディションで会っているんですよ。印象は良かったんだけど、なかなか彼女に合う作品がなくて、今回ようやく繋がりました。映画と紳士的に向き合っている彼女なので、現場での立ち振る舞いに関しては特に心配はなかったです。ほんわかしたところもあるので、現場は和やかな雰囲気になりましたね。僕がピリピリしていても英里紗がいることで現場が落ち着いたりもしました。
尾崎●完成披露試写会の時に英里紗さんは「近藤さんよりも濡れ場シーンでは先輩です」といわれてましたが……。
窪田▲ふたりとも初めてだと難しい部分がありますが、狙ってキャスティングした所もあるので、そういったところは助かりましたね。
尾崎●彼女自身は映画の中では「走っているシーンが好きです」と……。
窪田▲あのシーンはこの映画で唯一のファンタジーです。ひとつの心情をどう表現しようかなと思った時に、黒澤は歩いている場面が多かったので、その対比として彼女は走らせました。
尾崎●それでは、最後にひとことお願いします。
窪田▲日本は高齢化社会をむかえていますが、それでも50代60代とバリバリと仕事をしている人が多いですよね。そういう人たちに対するリスペクトでもあるんです。映画を撮っていると辛いこともたくさんありますけど、それでもやり続けるんだと諸先輩方を見て思うんです。
そういう部分を黒澤を通して少しでも感じていただければ嬉しいです。若い人には、若手3人を見て感じるところもあるでしょうし、黒澤を見てカッコいいなと思うこともあるんじゃないかな。どんなにダメでもやるんだというところにカッコ良さがあると思います。この作品は観た人の生きる糧になるんじゃないかなと自負しています。みなさん、ぜひ劇場で黒澤の生き様をご覧ください。
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監督・脚本・編集:窪田将治
出演:近藤芳正 / 加藤慶祐 鈴木勝吾 / 久保田秀敏 山田ジェームス武 倉貫匡弘 / 川瀬陽太 柳憂怜 草野康太
/ 柳英里紗 / 木下ほうか
エグゼクティブプロデューサー:佐伯寛之 井上常明
撮影:西村博光
照明:高橋拓
録音:田邊茂男
美術:岩田有立
ヘアメイク:知野香那子
音楽:與語一平
制作プロダクション:FAITHentertainment クラスター
製作:「野良犬はダンスを踊る」製作委員会
配給:FAITHentertainment クラスター
公式HP:http://www.norainu.asia
公開:2015年10月10日(土)より渋谷ユーロスペース他、全国順次公開
©2015「野良犬はダンスを踊る」製作委員会
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エンタメ : インタビュー/記者会見 記:尾崎 康元(asobist編集部) 2015 / 10 / 07