インタビュー/記者会見

40歳を前に退職。
夫婦は、アートで生きていけるか!!
『生きるための芸術』著・檻之汰鷲(おりのたわし)
作者のひとり石渡のりおにインタビュー!!

orinotawashi _001.jpg 「生きるとは何か」「アートとは何か」を追求し、世界を旅しながら各地で作品をつくり発表してきた芸術家夫婦の物語『生きるための芸術』が、2017年5月18日(木)より全国の書店やAmazon等にて発売された。著者名の檻之汰鷲(おりのたわし)は、石渡のりおと妻ちふみが創作活動をする際の作家名である。今回は、その作者のひとり石渡のりおに本書について話を聞いた。

■石渡のりお/プロフィール
1974年、東京生まれ。
妻のちふみと共に、檻之汰鷲(おりのたわし)としてアート活動を行う。2013年6月より、スペイン、イタリア、ザンビア、エジプト、モロッコの5か国に滞在し、アート作品を発表。滞在先でモチーフを見つけ、そこにある材料で作品を作る。また「芸術は、生きる技術である」というテーマのもと、異文化や日本古来の暮らしから技術や知恵を採集中。現在は全国各地で「生活」と「創作活動」を結び付けたプロジェクトも行っている。
http://orinotawashi.com

尾崎:まずは、旅のきっかけとなった、アーティスト・イン・レジデンスについて教えてください。
石渡:アーティストとして活動していく中で、その活動方法に悩みが徐々に出てきます。海外に活動先を求めると、国内よりもアートに関する取り組みは進んでいて、助成金も含めサポート体制が整っています。そのひとつに、アーティストが滞在して作品を製作する場所を提供する、アーティスト・イン・レジデンスがあります。友人がそれに関する書籍を出版していて知りました。海外に進出する時には、そのシステムを利用してみたいと思っていました。
アーティスト・イン・レジデンスは、アメリカやヨーロッパを中心に世界中にあり、中でもドイツやイギリスなどアートの盛んな国では数多くあります。アーティスト・イン・レジデンスの専門サイトもあって、地図を見ると山の中だったり「こんなところにも?!」と驚きました。クリックするとその場所の情報や写真と応募の条件などが載っています。その中で20ヶ所ほどに応募しました。
尾崎:その応募された中の5ヶ所がOKだったということですね。
石渡:ホームページが丁寧に作られている場所は、条件も厳しく人気も高かったです。ロンドンは特にそうですね。そういった人気のある場所を外して、ホームページが「大丈夫なのかな?」って場所だったり、ブログだけの所に応募しました。ハードルが低い感じがしますよね。実際に訪れたスペインは「君が初めてだっ!」って言われました(笑)。そこは、主に友人が利用していて、窓口からの応募は初めてだったそうです。イタリアも初めてだったと思います。そこは、夫婦が別荘を Airbnb (エアビーアンドビー)として使い、それを息子さんがアーティスト・イン・レジデンスとして利用し、そこに僕が応募しました。
尾崎:イタリアでアスコリ・ピチェーノという地名は聞いたことがなかったです。
石渡:私もまったく知らなかったです。ローマから東にバスで4時間位の地域です。

orinotawashi _002.jpg 尾崎:それでは本書について、目次の順番に滞在先についてお尋ねします。まずは、スペイン/バルセロナからーー。
作品を作るための材料を買わないという発想で本には掲載されていないエピソードはありますか?
石渡:パピエマシェという、日本の張り子を作るような技法があります。新聞紙で芯を作り、小麦粉を水で溶いた後に煮て糊を作り、濡らした段ボールを貼っていきます。針金で補強することもあります。アイルランドから来ていたアーティストが犬をモチーフに作品を作っていて、それを見て実際に僕も作ってみたいと思いました。彼がワークショップを開催した時に教えてもらいました。新聞紙と段ボールと小麦粉は、どこにでもある身近な材料ですよね。その技術は今の立体の作品でも使っています。
スペインとイタリアでは、雑誌から切り抜いてコラージュ作品をつくりました。お金は有限で、持ち運べる荷物の量も決まっていることから、このサバイバルアートという方法が生まれました。バルセロナでは、雑誌をくださいと街で呼びかけ材料を集めました。(写真上)

orinotawashi _003.jpg 尾崎:続いて、イタリア/アスコリ・ピチェーノからーー。
モリーン、エドワード、トットベーネ様、この3体の作品の関係性は?
石渡:ヨーロッパは、宗教と深く関係があり生活に密着しています。彼らは常に感謝をしているように僕の目には映りました。そういった姿を見て、もう一度聖書を読もうと思いました。聖書には大切なことが書いてあることを再認識しました。自分なりに人間と自然との関わりについて考え、聖書に習い自分も最初は人間から作ろうと思いました。そして男性と女性の像を作りました。(写真上)滞在中には、イタリア語はマスターできませんでしたが「トットベーネ」という、イタリア語で全部OKという言葉を学びました。君はイタリア語が喋れなくても大丈夫だよって、みんなが「トットベーネ」、「トットベーネ」と言ってくれました。すごく良い言葉だなと思い、神様は全部OKなんだよという思いから、トットベーネ様という架空の生き物を作りました。
尾崎:馬に似ていますよね?
石渡:アスコリ・ピチェーノには公園にたくさんの馬がいます。
尾崎:なぜですか?
石渡:分からないんですけど(笑)。そういった馬の放し飼いがとても印象的だったので、「トットベーネ」のモチーフになりました。見たものがそのまま作品になることが多いですね。
尾崎:男性像と女性像が持っている道具の意味は?
石渡:僕が考えた物語の中で、人間が考える力を与えられたのは、生態系のバランスをとるため。そういった物語を作って、それを守るために道具というか武器を持たせました。自分なりの神話です。
尾崎:アスコリ・ピチェーノは、田舎街でしたか?
石渡:そうですね。「こんな田舎街に何をしに来たんだい?」って、何度も尋ねられました。
尾崎:観光名所はないのですか?
石渡:歴史的に古い場所で、ローマ時代よりも前に栄えた街です。普通にロバやニワトリを飼っていたり、ワインは自分たちで作っていました。現地の人は「ワインは買うものじゃないよ」と言っていました。
尾崎:ワインを自分たちで醸造するのですね?
石渡:酵母を発酵させて簡単に作れるそうです。地下室には大量のワインが樽に入っていて、週末になるとご近所同士集まり、ずっとワインを飲んでいました。
尾崎:水より飲むといいますよね?
石渡:本当にそんな感じです。新歓コンパのように飲まされました(笑)。

orinotawashi _004.jpg 尾崎:次は、ザンビア/ンデケ・ビレッジからーー。
電気・ガス・水道がない生活で、泥の家を建てたエピソードが掲載されていますが、日本人が泥の家を建てるということは貴重な体験ですよね、いかがでしたか?
石渡:ンデケ・ビレッジについて調べてもあまり情報がありませんでした。どんな所か先方に尋ねても、写真が1枚送られてきただけで、状況が分からないまま現地入りしましたので、最初はびっくりしました。でも、生活していく中で、電気・ガス・水道がなくても大丈夫と感じました。
尾崎:ネットの環境はあるのですか?
石渡:あります。とはいっても、ネットの環境のある場所まで出向いて、わざわざ送るといった感じです。
尾崎:その街まで向かうのも大変ですよね?
石渡:でも、空港からは近かったです。すごくアクセスの良い所でした。タクシーで30分くらいの場所です。
尾崎:空港から30分の場所で、電気・ガス・水道がないのですか?
石渡:電気と水道は通っています。ごく一部の裕福な人は使っていますが、その他の人は使っていません。水は井戸を利用しています。
尾崎:井戸なら無料で利用できるので、わざわざ有料で水道を使わないわけですね。
石渡:平均所得を調べると月収が6000円でした。都市部では東京と物価があまり変わりません。ハンバーガーのセットを食べると日本円で1000円位です。自給自足をしている人が多いことも平均所得を下げているのかもしれません。格差を感じました。僕が出会った人はあまり仕事をしている感じはありませんでした。
尾崎:自給自足をすることが労働をすることになっているのですね?
石渡:そうですね。ザンビアは、都市部から僕が滞在した地域までのグラデーションが凄いのです。東京で例えれば、新宿から中央線で30分移動した場所で、みんな自給自足をしている感じです。

orinotawashi _005.jpg 尾崎:その自給自足の体験はいかがでしたか?
石渡:最初はものがなくて困りました。絵の道具とか……。
尾崎:自給自足ですから、お店もないわけですね?
石渡:お店はありました。クッキー、ドリンク、バナナ、キャベツなど食料品を売っていました。
尾崎:その場所で、泥の家を作ったと?
石渡:ヨーロッパでは、アート作品を作ると「良いね!」「欲しいね!」といった反響がありましたが、ザンビアでは絵を観てもあまり反応がなく、それよりも生きるために必要なものに興味を持っていました。そういった人にとって芸術ってなんだろうと考えた時に、みんなの暮らしを見ていると、黙々と家を作っていました。僕には泥んこ遊びをしているように見えて「これは、面白そうだな」って。これを作ろうと思いました。
尾崎:ザンビアでの経験から、生きるための芸術が生まれたのでしょうか?
石渡:そうですね。生きるための能力こそが芸術なんだと、自分の中で明確になっていきました。
尾崎:泥の家の中でもデザイン的に差別化はありましたか?
石渡:炭で色を付けたり、違った種類の土を混ぜたり、あるいは着色して差別化をしていました。
尾崎:そこからアートに繋がるのですね。それを販売したりするのですか?
石渡:家は、売らなかったです。おカネ以外の交換システムがあるようでした。例えばタバコなどは親しい人からもらったり。
尾崎:物々交換ですか?
石渡:というよりは、互助システムのような感じです。助け合いですね。家を建てる作業は、みんなで助け合う感じです。僕たちが建てる時もみんなが手伝ってくれました。

尾崎:それでは、エジプト/ギザからーー。
エジプトの子供たちの創作意欲が旺盛でしたが、日本の子供たちとの違いはありますか?
石渡:話によるとエジプトの小学校では、絵を描いたりする授業がなく、絵の具もあまり見たことがないようです。ザンビアでもそうでしたが、子供の教育に関しては日本ほど豊かではないです。その分、生きるための能力が日本人に比べて高いですね。彼らにとって、ふだん経験のない絵を描くことは楽しく、小学生以下から中学生まで集まってきました。現地のアーティスト・イン・レジデンスのハムディー・レダさんは、革命後のエジプトで状況が良くない中でも、アーティスト活動をしっかりとしていて、日本でいう地域活性のようなことを、ここを拠点に行なっていました。

orinotawashi _006.jpg 尾崎:エジプトで作られた作品では、木材などが多く使われていたと思いますが?
石渡:僕が滞在した場所には、木工の職人が多く、木をくり抜いた文様の入った家具を作っていました。僕たちはその職人とコラボしたいと思い、ほとんど身振り手振りで、まったく通じないアラビア語で交渉しました。言葉が通じなくてもなんとかなるものですね。

尾崎:最後に、モロッコ/テトゥアンからーー。
初めての日本人とのことでしたが、その印象は?
石渡:日本人が初めてだったのはタルウェルです。最初にテトゥアンを訪れて、そのアーティスト・イン・レジデンスの方が、もっと田舎の村を紹介したいと。その田舎の村がタルウェルです。地図にも載っていないような村です。その村が初めて日本人を見たという村です。
尾崎:村人の反応はいかがでしたか?
石渡:その村には観光客がほとんど来ません。村人以外の存在にドキドキしている感じです。警官が来て「何しているんだ?」と質問もされました。
尾崎:不審人物だと思われて?
石渡:そうですね。泊めてくれた家の方に説明していただいて、その後は「ようこそ」と歓迎されました。文化の発達度は国によって違っていて、日本との価値観の違いも肌で感じました。
尾崎:本書で紹介されている、他の国の衣装で着物を作ることとは?
石渡:お茶のセレモニーを開催しようということになりました。モロッコの若者は日本が大好きで、街を歩いているだけで、日本語で「日本人ですか?」って、声をかけられます。日本のアニメがテレビ放送されています。
タルウェルという田舎の村には1週間ほど滞在しましたが、それ以外はテトゥアンという都会の街で生活をしました。「NARUTO -ナルト-」や「ONE PIECE(ワンピース)」がみんな大好きでした。アニメの仕事や漫画家になりたい人がたくさんいました。そういった所から日本を知っているので、とても好意的に受け入れていただきました。日本の紹介も合わせて、お茶のセレモニーを開催することになりました。モロッコのお茶と日本のお茶とのコラボです。旅では、お茶と着物は持っていましたが、着物は必要がないと思い途中エジプトでプレゼントしていました。ないものは作ろうと、この旅で経験をしていましたので、現地の素材で着物を作ることにしました。セレモニーでの作品展示では、着物の試着ができるようにしました。モロッコの人は日本文化に詳しく、日本語で「ありがとうございます」と言われました。その他に「私のニックネームは“サクラお守り”です」と言われたこともありました。彼女は着物を着て感激のあまり泣いていました。日本は豊かな国で憧れだったようです。モロッコの人は、日本人ほど簡単に海外に行くことができません。でも日本人のパスポートは、どこの国でも行けるんです。色々な歴史の中で、たまたま私たちは豊かな国に生まれただけです。しかし色々な国から学べることも多くあり、この旅は貴重な経験になりました。

orinotawashi _007.jpg 尾崎:今後の活動について教えてください。
石渡:帰国して思ったことは、ザンビアの経験から家は古くても生活ができること。東京で暮らしていましたが、高い家賃を下げることで生活が楽になればと考えました。自分が変われば家賃は安くなる。人が住まない空き家を探して、愛知県津島市に築80年の長屋を見つけました。その空き家の改修にザンビアで泥の家を作った経験が生きました。日本にも泥の技術ってありますよね。
尾崎:土壁ですか?
石渡:そうです。その土壁のワークショップを開催して技術を習いました。スペインを訪れた時には船を作っていた人たちに出会いました。彼らが「匠-TAKUMI-」という本を持っていて、日本の大工技術を掲載した写真集でした。木工に携わる彼ら曰く、日本の技術は最高峰だと。ノミやカンナといった道具は、海外のホームセンターでは、日本ほど豊富に品揃えがないようです。何処からか日本製のノミやカンナを手に入れて使っていました。日本人の自分が今までその技術を使わなかったことは残念なことでした。せっかくの日本の良い技術を家作りに生かそうと考えました。それから木材を使って作業をする中で、森について考えるようになりました。そのことがきっかけで今度は、岐阜県中津川市の森のある古民家に住むことになりました。前の冬は、キャンプが出来るように、森を間伐して保全する活動をしました。チェーンソーの扱いも地元の方に教えていただきました。現在は、北茨城市の地域おこし協力隊の芸術家募集に応募して委嘱され、芸術家として「生活を芸術にする」ことに取り組んでいます。今後の活動の拠点になるでしょう。

尾崎:最後に本書『生きるための芸術』についてメッセージをお願いします。
石渡:ふだん日本で暮らしていると、生きることが曖昧になり、何のために生きているのか分からなくなることがあります。日本では、お金を手に入れることが生きる手段になりがちですが、僕が世界を旅して思ったことは、お金以外でも生きる技術や方法はあるということです。貧しい国の人は、お金がない部分を工夫して生きていて、上手にバランスをとっています。お金がなくても、生活って面白くなるんじゃないかなって。そのきっかけになった旅のことがこの本に書かれています。楽しい人生のヒントになったらいいなと思います。


orinotawashi _008.jpg ■書籍情報
『生きるための芸術』

やりたいことがあるのに最初の一歩が踏み出せずにいる人に。また、移住や地域活性、リノベーションやDIYなどのライフスタイル系として。さらに、アート関連の仕事を目指している若者(芸大生、専門学校生)にもオススメの1冊。
定価:本体1,200円+税
ISBN:978-4-8021-3056-1
発行:ファミリーズ
発売:メディアパル
定価:本体1,200円+税
全国の書店、Amazon等にて販売











エンタメ インタビュー/記者会見   記:  2017 / 05 / 23

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