編集長!今日はどちらへ?

カナダアイスクライミング―3―

2016 / 04 / 08

2016年2月29日
カールスバーグコラムCarlsberg Column:W15/150m
1P:W13-4/40m
2P:W12/55m
3P:W14/30m
4P:W14-5/25m
5P:W14-5/50m
同エリアにPilsnerPillarだのLuckyLager、Sapporoルートがあり、直近エリアにはGuinessGullyなんて小峡谷もある。よほどのビール好きの手になる開拓だったと見える。

datin160408_01.jpgさて、カナダ最終日の最終マルチアイスである。車を降りて10分もかからないほどのアプローチ。天国だ。
「今日はどんな氷瀑だろう?!」
この先に起こるできごとなど微塵も知らず、見えてきた巨大氷壁に感動する。
素晴らしい!!

datin0408_02.jpg3ピッチ目、氷柱を乗り越したあたりで先行チームがラストピッチの氷柱に取りついているのが見え、やがて懸垂しているのが見える。

「あれがラストか〜」「短いけど面白そうだな〜」と独りごちする。3ピッチ目の終盤はなめた氷斜面を3段上ってラストの氷柱の基部に着く。
3ピッチの途中で、降りにかかっている先行チームとすれ違う。降り口で懸垂姿勢している背景があまりにも雄大で素晴らしいので、思わずパチリ!

しかしながら「面白そうだな〜」と独りごちしたラストピッチのバーチカルアイスを私が登ることはなかった。美しい背景を背に自力で懸垂することもなかったのだ。

datin160408_03.jpg最後のピッチを登ることも上記2枚の写真のようにアックスを握ることさえできなくなってしまった。

3ピッチ目の終盤のなめた氷斜面を登って4Pの基部に到着した時、セカンドは既に登攀を開始していた。順調に高度を稼いでいっている。
と、セカンドが言った。
「その辺にスクリュー落ちてない?落としたっぽいのよ」
で、私が首をめぐらして後下方を目で探りながら「見当たらないね〜」と言った瞬間、左腕に何事かが起こった。
落氷、しかもかなり大きな氷塊が落ちてきて、私の左腕を直撃したと認識するまでかなり時間がかかった。
後から聞いた話だと先行メンバー・セカンドが少し大きめの氷の突起上にアックスを打って引いた次の瞬間、すなわち突起状氷に全体重がかかった瞬間、その重みに耐えきれず氷突起は氷塊となって剥がれ落ちた。先行メンバーすらどれほどの氷塊が落ちたのか認識できなかった。「落!」コールする間もなかった、という事の次第らしかった。

あまりにもの衝撃の強さに瞬間、気が動転し、次に激痛で訳が分からなくなった。上の方でセカンドとリード・ガイドさんがなんやかんや事実確認しているようではあったが、私は「うー」とうめき、「いったあアアア――ッ」「痛い〜〜〜」と叫びはしたが、それ以外に言葉を発することもできなかった。
アックスを手に取ろうとしたが、氷から引き抜くどころか握ることさえできなかった。グーパーはできる。ゆっくりならひじを曲げることもできる。けれどまったく力が入らなかった。
「すみません、登れません」「アックスも握れません」
ようやく、そう自分の状態をアピールできるまで、実はさほど時間経過していないのだろうが、私にはとてつもなく長い「空白の時」だった。

「わかってるよ、そこで待っててね」
と聞いて、やらなければならないことがあった。同じ場所にいると懸垂の際にまた落氷でなくても何かが落ちてくるかもしれない。使える右手で1本アックスを腰に下げ、1本アックスで氷柱の右に逸れ、1、2mほどずり登って氷柱のチョイ裏側、岩壁に身を寄せて待った。

「打撲でしょう」
のはずだった。パタゴニアのポーラテック長袖インナーの上にソフトシェルを着ていたが、どこもなんともなっていないから裂傷はないはずだとは思った。けれど、左上腕に手をやると感覚が乏しくはあるが、なんだかじとじとしている気もした。

ラストピッチの基部からスタート地点まで介護懸垂、すなわちガイドさんとつながって、お荷物状態で下してもらった。ほんの10分で車のロケーションがありがたかった。パッキングも誰かにお願いし、ザックも背負わず、空身でゆっくり歩いたが、左腕が利かないというだけで、相当に体全体のバランスが悪くなってしまうと痛感した。

何の縁かチームのメンバーに整形外科の先生がいて、片肌脱いで痛いところを診てもいらった。
皮膚がばっくり裂けていて、組織がめくれあがっていた。
どういうわけかウエアはインナーもソフトシェルも切れていないのに皮膚肉が裂けていた。それだけ落氷の圧力がすさまじかったのだろう。衝撃で押し切れたということだ。
「恐らく骨などは大丈夫とは思うが、病院に行って縫合しないといけないレベルの裂傷ですね」
チームメイトの整形外科医の判断で病院に行くことになった。

幸い、宿からほどないところに診療所があるのを確認していた。
碧い眼のドクターが傷周りに麻酔注射をし、傷の中まで消毒液で洗い、傷口を縫う間、我がチームの整形外科医は所見を交換し、アシスタントを務めている様が、なんとも面白かった。なんちゃって英会話はできても専門用語はちと分からないから助かった。
怖くてよくは見ていないが内側3、4針、表皮10針ほど縫ったと思う。

「数日後はシャワーならいいがバスタブはだめ」とかいろいろ注意事項を聞き、最後に私が質問した。
「Can I drink tonight?」

「まさか、あんな質問するなんて」
と後で我がチームの整形外科医は笑って言った。
「さすがカナダの先生!日本のドクターなら今縫ったばかりの患者に今晩飲んでもいいとは、まかり間違っても言わないですね」

一段落して宿に帰り、明日帰路に就くためのパッキングをチームメイトにやってもらい、夕食に出かけた。
「だってYes, if you likeって言ったもん」
と言い訳して、ビールも飲んだワインも飲んだ。だってカナダ最後の晩餐だもんね。
っていうほどに私は元気だったし、不思議と傷もずきずき痛くてたまらない、というほどでもなかった。
「ま、内からも消毒ってことで!」なんちて!

datin160408_04.jpg帰国した翌日、病院へ行った。現地の診療所にはレントゲン設備はなく、骨に異常がないか一応確認してもらった方がいい、念のために筋肉組織や神経組織に損傷がないかも確認した方がいいかもしれない、というのが我がチームの整形外科医の所見だったから。

裂傷以外はどこも問題はなかった。
「きれいに縫ってあるよ」日本の先生が言った。
「それにしても、何してこうなったの?」
肘少し上、内肘よりに斜めにばっさり小ぶりのムカデがはっているよう。しかも傷口から手首にかけて全体が打撲で紫色に腫れ上がっている。
アイスクライミングというスポーツがありまして、カナダにそれをしに行っていたわけでありまして…うんぬんかんぬんetc、etc…
先生はいちいち目を剥いて驚くのはいいが、
「ってあなた、66歳でしょ?!」
だから?!何?!ほっといてんか!!だよね?

怪我した3月1日から2週間目、抜糸した。3週目インドアクライミングを始めた。
あまりにも体力、筋力の後退が著しいのでスポーツジムトレーニングも再開した。なんと3連休の最終日は午前中ジムトレ、夕方ロープという快挙!
なので3月22日、今日現在ハム筋といわず大臀筋、背筋…筋痛祭り中の今日この頃!
何の後遺症もなく、元気にリハビリに励んでおりまする〜!!!

*カナダアイス1〜3に使用した画像は一部は篠原ガイド、一部は木村ガイドの撮影によるものです。











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