鉄、この部屋

【駅員はつらいよ】キミは完全に包囲されている――「運転見合わせ」という恐怖

2012 / 07 / 13

一口に「駅員さん」と言っても、それはそれはいろいろな仕事がある。
私がいた某駅はそれなりに大きい駅だったので、ふたつの改札口にいる駅員さん、ホームにいる駅員さん、「みどりの窓口(きっぷ売り場を総称した呼び方として「出札」と呼ぶ)」にいる駅員さん、事務室で内勤(券売機にトラブルがあったときなどに、機械の裏から顔出したりもする)をしている駅員さん、駅の信号所(私はここは見たことなかった)にいる駅員さん......などなど。小さい駅だと「みどりの窓口」と改札の係が一緒だったりもするが、社員の駅員さんはこれらの仕事をローテーションでこなしていた、のだと思う(詳しくは知らない。たとえば信号所の操作には資格が必要とか、そういうことはありそうだし)。

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こちらは駅員さんではなく「乗務員」さん。
おなじみ車掌さんですね
かく言う私は「自動指定席券売機の案内」という名目、現実的には駅内外の全般の案内として雇われたアルバイトなので、他の仕事はなく時刻表を小脇に日がな一日きっぷ売り場をウロウロしているだけ、である。階下にあるホームで人身事故が起ころうとも(勤務中に1回あった)、きっぷ売り場前に貼り付き。まあ現場を見なくても、なんかとんでもないことになってんな......って空気はバンバン感じましたけどね。

さて、そんな人身事故が起こるなどしたとき......常にきっぷ売り場にいる駅員として、気合いを入れるほぼ唯一(いいのか断言して)の状況がやってくる。いわゆる「運転見合わせ」である。
先日も「駅員や乗務員への暴力行為911件」なんて記事が出ていたがさもありなん。運転見合わせとなると半数以上の客(敬称略)がハナからケンカ腰で挑んでくる。あたかも親の敵を見つけたように発せられる「なんで止まってんだよバカ野郎」に対し、100%反駁しないことを承知で言ってやがる、なめんじゃねえぞと憤慨した私は敢然と「知るかこの野郎」であるとか張り倒す(おいおい)といった攻勢を仕掛ける、ことはもちろんなく、粛々と「まもなく復旧予定ですが、よろしかったら地下鉄に振り替え輸送もやってますよ」などと誘導するばかりである。まあ、私を含め駅員さんが電車を止めているわけでは当然ないので、別に我々に怒らないでも......とはホトホト思うのだが。

まあ、細かな運転見合わせが山ほどあるのは普段の生活でもわかるだろうし、毎日駅にいたらなおさらである。そんななので多少の運転見合わせでのvs客(敬称略)は段々と慣れてくる。で、だいたいそんなときに多少ではすまないことも起こったりもする。
某駅は山手線内にあり、走っている路線はその山手線と京浜東北線。そしてサラリーマン街であり、いくつかの有名私立大学の最寄り駅でもある。つまり仕事も終わり学校も終わっている17時過ぎからは驚異的な混雑っぷりを見せる。私の勤務時間は18時までなのでこの1時間を乗りきれば、というよりお客さんがいっぱいいるのでやりがいがある1時間……あのね、私の仕事はヒマなほうがツライのよ。それについてはまた後日。
その日も定期券の更新だ、suicaチャージだ、近くに病院ないか、ジャイアンツは勝ちましたか、などなどさまざまな案内に飛び回っていた大混雑の17時半。遠くに掲示されている路線トラブルを表示するモニターに、赤い輪が出たのがふと目に入った。
トラブルモニターの黄色い線は遅延運転中、そして赤い線は運転見合わせ中である。運転見合わせ――。さて、首都圏にて一発で輪になってしまう路線は......
あ、ヤバ――
そう思うが早いか場内放送が入る。
「ただいま○○駅山手線内におきまして人身事故が発生し、山手線の内回り外回り、京浜東北線全線の運転を見合わせます」
ここは『笑っていいとも!』生放送中のスタジオアルタで、「それではお友達を」とタモリが言ったのではないか......? そう勘違いするほどの「えーっっっっっっ!」という声が響いた瞬間、私の周りにはすでに五重、六重の人垣ができていた。ひとこと、恐怖。そして口々に発せられる罵声。これはもう罵声でいいと思う。絶対に反駁できない人間を100人くらいが囲んでいるのである。ひょっとしてこれ集団心理ってやつですか(笑)。

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赤が見合わせ、黄色が遅延。
京葉線が見合わせ中で、外房線が遅延していますね
ただまあ、罵声を浴びせ続けても続けられても、お互いに状況は好転しない。小さな見合わせの際のトラブルシューティングも教わってない私が、こんな大混乱の処理方法など教わっているはずもないので、とりあえず四方八方向いて謝った。申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません......ドラマ『HOTEL』の高島政伸もかくやという謝りっぷりで周囲を再び見渡すと、まあ大きな怒りは沈むものだ。「まああんたが謝ることじゃないし......」と言ってくれたサラリーマン氏から、今度は手当たり次第に振り替え輸送を使った帰り道を提案していく。
「はい、○○駅。じゃあ地下鉄で××まで行って今度は△△線ですね、改札で振り替え券出してるからもらっていってね。ごめんなさいね。はいお母さんどこまで? あら、京浜東北の下りか......向こうは地下鉄も通ってないし、あ、でも事故があったのは山手線で、京浜東北はいま便宜的に止めてるだけだから、振り替えよりも待ったほうがいいかも。ごめんね。で、学生さんは?......」

落ち着くまで1時間くらいかかっただろうか。「誠意を持って謝り、対応すればなんとかなるな......」と思ったのと同時にふと「謝ってよかったのかな?」とも思った。ヘンな疑問だが、同じケースで自分が客だった場合に感じる対駅員さんの居心地悪さは、ひょっとしたら謝りの言葉がないからではないか......と。責任の所在等々の面から「謝っちゃいけない」というマニュアルもあるのかもしれない......そう考えたが、結局その後にその有無は確認しなかった。最初から教えてもらってないし、いろんな局面に接して助役さんなど上役に報告しても私は野放しのまま(笑)だったので、それならばお客さんが気持ちいい方法を勝手に探っていくか、最後にはそう結論付けて、以後私はそれで勝手に突き進んだ。×だとしても時効だよ、もう(笑)。

いまも書いたが、現在ひとりの客としてJRの運転見合わせに接した際、木で鼻を括ったような対応過ぎて、お客さんが怒る気持ちもわかるときがある。実際のところ、初手から居丈高な客(敬称略)より、そんな対応しかできない駅員(たいてい若い)がいまだにワンサカいるほうが病理が深いとも思うのだが、それでも私は振り替え券と引き替えに、ついこう声を掛けてしまう。
「大変だけど頑張ってね」
ポカンとしている駅員さんも多いけどね(笑)。でもそれはあの日の光景、そして戦慄を記憶している人間の本音、なのである。











連載 鉄、この部屋   記:

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