初恋物語

私のランボー

「またかよ」「節操のない!」の声があろうことは覚悟の上である。
相手によって自身の「本質的な何か」が変えられる、すなわち小さくはあっても、人生の一つの精神的分岐点と呼ぶべきを「恋」と規定するなら、これぞのまさしく「男」によって変わったワタクシ的「女性史」の第一章の話でもあるのだ。

「女はいいよ、簡単で。『女は16で成熟する』ってショウペンハウエルも言ってるよ」

高校3年生になって間もなく、席替えで近くの席になった男子がそう言ったのだ。どういうシチュエーションだったかは忘れた。
おお、カルチャーショック!!
投げられた言葉をどう解釈すればいいのか測りかねて、さすがのゲラ子の私も返す言葉が見つからなかった。「うっ」って感じ。その瞬間から私は男子に目を離せなくなった。

とびきりハンサムでもなくスラリと長身でもないが、幾分童顔で笑顔がいい。ネクラではないが底明るくもなく、スネ者というわけではないが、どこか斜に構えて、ちょっと謎めいて...そう、それはそれでチャーミング&キュートな男子だった。

男子は山岳部員だった。山系の雑誌やらなんやらでいつもゴチャゴチャにギューギュー詰めの男子の机のもの入れから、しばしばいろんなものがこぼれ落ちた。
いちいち拾って、ドキドキしながら確かめずにはいられなかった。(今でいうストーカーだよね。こわっ!)
「ランボー詩集」もその一つ。デカダン的で痛々しいアルチュール・ランボーの詩にたいそう惹かれたが、巻末だったかに小さく揚げられた斜め横顔の写真に吸い寄せられた。あまりにも男子の風貌に似ていたのだ。
時が経つにつれ男子とランボーは私の中でいつの間にか同一化し、今ではいくらか投げやりだけどたまらなくいとしいランボーの詩とうっすら悲しげなその面立ちが、男子の面影とないまぜになって浮上してくる。

ある時、机のもの入れからヒラリと落ちた紙切れを拾い上げて、そこに書かれていたメモに釘付けになった。

『鳥は卵の中から抜けでようと闘う。卵は世界だ。生まれでようと欲するものは一つの世界を破壊しなければならない。鳥は神へ向かって飛ぶ。神の名はアプラクサス』
ご存知ヘルマン・ヘッセの「デミアン」の一節だ。ヘッセの東洋思想への傾倒が伺える作品として知られている。
当時の私が夢中で「デミアン」を読んだことはいうまでもない。時が経ち、たとえば大学生時代にも、子育て時代、中年になっても折に触れ読みたくなった。そして今も「最も好きな一冊は?」と問われれば「デミアン」と答えるだろう。
アプラクサス、全き神。悪人正機説「善人、救わる。いわんや悪人をや」あるいは「闇、なお光を照らす」というのに通じる。「善か悪か」「光か闇か」「受容か拒絶か」ではなく「全体」。一切合財を包括する神・アプラクサスは私の中でさらに血肉をつけながら長大・変容し、「私」というものの全てを決定づけているとさえ思う。
最近の山への憧憬も自分では、たまたま登山系のサイトで見聞きした話題に触発されたんだとばかり思っていたが、もしかしたらあの頃しばしば男子が口にした「山はいいよ...」が耳底に消えずにいたからなのか、と今さら思ったりする。
いや、私自身の中の「私」もまた「私のランボー」と一体化して、いまもなおキャラバンに紛れ旅の途中なのだ。アプラクサスの世界を目指して。

学校が休みの某日、なんだかとてつもなく会いたい気持ちになった私は男子の家を訪ねるという大胆かつ突飛なことをやらかした。
男子の家から歩いてほどない多摩湖の周りを一緒に歩いた。今まさに落ちなんとする夕日が湖面を紅く染め、わずかな風にほんの少し波立つ波背が無数の魚のうろこのようにきらめくのを黙って見詰めた。
急になんだか切なくなって、「何しにきたんだか」こっ恥ずかしさもあり、涙がこぼれそうになった。男子がポツンと言った。
「おれさー、シバザクラみたいなヤツ(女の子)が好きなんだよ」

ええーっ!
なんだよ、なんだよ。なんだよ、それー。ダメじゃんかよー。

小柄で可憐なシバザクラ。逆立ちしたって、アタシにゃ、そんなの無理。
どうよく見積もったって、ポンポンダリヤってとこだわさー。ガクッ。


今でもシバザクラを見ると、チョッチむかっ腹...。















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