初恋物語

走行距離

「リリーちゃんがナオキ君のこと大っ嫌いって言ってた?」

年長組みの教室に、可愛らしい大声が響く。さっちゃん。
スモックを軽やかなスキップと共に振り回しながら、満面の笑みでナオキ君に言い放った。

あたしはナオキ君に恋をしていた。

「ナオキ君なんか、だーいっきらい!」整列で前後になった時、急にあたしを振り向いて、そう言ったのはさっちゃんだった。

ナオキ君は立ち竦むあたしをチラリと一瞥した。
「言ってない、あたしじゃない!言ったのはさっちゃんだよ!」あたしは大声で叫んだ。心の中で。

「ふーん」

興味なさそうにナオキ君が言った。あたしは強烈に打ちのめされた。人生初めての恋。見事に惨敗。

それでも人は恋をする。
あたしはいつも、逃げ出したい気分だった。欠点を探す、不一致を探す。付き合った時から別れの準備をする。そして結局、恋を手放すのはあたしだった。

「ふーん」あの時。あたしは惨めだったのだ。今更何を言ったって「結果」は何も変わらないと、状況から逃げ出す事ばかり考えていた。

あたし達はあまりにも結果に追われている。歳を重ねると「過程」という言葉は聞こえなくなった。過程とは何なのか。乗り越える手順だ。100センチの身長では超えられなかったハードルも、165センチの身長では超えられる。そういう事を成長に合わせてやっていく事ではないのか。
人生とは結果の為にあるものなのだろうか。
では。人生が終えた時、どれをとって結果とするのだろう。過程の最中で、人生は始まり、終わっていくのではないのか。

恋愛と人生は似ている。
あの時。例え大泣きするだけだったとしても、言っていないという事をアピールするアクションを起こしていれば。今とは違った恋が出来たのではないか。
ハードルを飛んでみる事が重要なのだ。飛び越える為の自分の必要走行距離、必要速度を知る為に。あたしはそれすら計り切れていなかった。恋において。

あたしは今恋愛をしている。
初めて怖いと思うような恋愛をしている。出会った瞬間から、驚くべきスピードで惹かれあった。
彼は6歳年下。社会経験も人生経験も、何もかもが違い過ぎる。うまくいくわけはない。あたしはまた、お決まりの逃げの思考回路に捕らわれた。
しかし。
全ての思考を破壊する勢いで、彼へ向かおうとする感情の波が押し寄せる。あたしはかろうじて言う。

「あなたとは姉弟のようなもの。恋愛感情はない。」

苦肉の策。とりあえず保存。
リタイアしない自分に驚いた。そうまでしても、彼のそばにいたいと思うあたしがいる。
「保存」とは、止める為にあるものではない。もう、走るしか、ないのか。あたしの中で何かが変わろうとしていた。
「保存」それは準備期間。スタート地点に立って、あたしは息を整えながら、ハードルを見つめていた。

ある夜。突然に思考の防波堤は崩れ落ちた。

「好きなんだって!弟としてなんかじゃなくて!」

あたしはガムシャラにハードルを踏み切る。目も当てられない走行。着地点など見えもしない。

「俺だって好きだよ!」

地面すれすれ。彼はあたしを抱きとめた。初恋から20年以上。あたしはようやくハードルを越えた。爽快だった。やってやった!自己満足にも似た快感が走る。

飛び越えたハードルが小さい。スタートとゴールではこんなにも見え方が違う。まるで「九九」のようだ。今では当然のように使いこなせる「九九」だって。小学2年生には怪物のような存在だった。

しかし、恋愛に終わりはない。
この先には、二人で越えねばならない果てしない高さのハードルが、果てしなく控えている。派手な喧嘩も食い違いも多いあたし達。互いに我がまま。個性と個性のぶつかり合いに、うんざりする。
着地点はどうなるのか。うまくいくのか、そうでないか。さだかではない。

「ふーん」そう言いたければ、言え。
あたしは追っかけてって、自分の想いが伝わるまで、ボコボコに殴りながら訴えてやろう。惨めでもいいじゃないか。それで伝わる何かがあるのならば。

初恋とは人生と初めて対面する瞬間なのかもしれない。自分という流れ以外にも、たくさんの人の流れがあっての、人生、恋。
「自分」という世界で生きてきた、ある日。人は突然、誰かに恋をする。恋を知って初めて、「他人」という存在が、「自分」の中に流れこんでくる。自分は「世界」に所属している「一人」であるという意識を、初めて持つ。不可抗力な力におびやかされながらも、たどり着きたい場所へ行くための力。

うまく飛び越えられる人も、そうじゃない人もいるだろう。しかしそれは問題ではない。
ヒントはその走行距離にある。たくさんの物を持たなかった時代。
単純に自分が感じた思いの中に。今を乗り越えるアイテムが隠れている。
生きていく中であたしはまた、ナオキ君の事を思い出すだろう。そこにはきっと、今はまだ気づかないアイテムがあるのだ。それを手に、あたしはまた、元気よく走ろうと思う。











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