初恋物語

そうめん弁当と「魔王」

中学校に入学したばかりの頃、私の斜め前の席に座っていた男の子。大きな目とやや尖り気味の口元が可愛らしいが、注目を集めそうなタイプではない。小学生の頃から"ボケ"と仇名される、どこか飄々とした雰囲気の持ち主。痩せていて、"長い"と表現したくなる体型。スポーツが得意そうにはとても見えない風貌。しかし、所属は運動部。それがK君だった。

土曜の昼。部活の練習前に弁当を広げ、落胆しているK君の姿が。
「伸びった......」
何のことやら、と中身を覗かせてもらうと、いかにもコシのなさそうなそうめんが。
「俺、そうめん大好きでやー、弁当にしたかったんけど、駄目だ、やっぱり伸びったわ......。どうしたら伸びさせねで、そうめんこと弁当にしてこれっかね?......ゆで加減、変えたらいいんだろっかね?......来週もやってみるわ......どうしても食いてんさね、そうめん弁当」
好奇心だけで近寄った私に延々と語る、K君の表情は真剣そのもの。
「あんた、何言ってん!? 何なん? その、そうめんへの思いは!!」
との言葉を、私は飲み込んだ。

以来、K君の動向が、私にとって気になって仕方のないものとなった。授業中、時折教室中の笑いを誘っていた、K君の突拍子もない発言。"ボケ"呼ばわりされている彼が口にする言葉、クラスメイトには天然のものと認識されていたようだ。しかし、私は計算を感じた。完全に天然と見せかけた計算ができるなんて、こいつ、かなり頭のまわる男なのでは? ----私の軽い驚愕を知ってか知らずか、
「な? 鈴木もそう思うろ?」
斜めに振り返り、同意を求めてきた。なぜだか、それがとても嬉しかった。
班日記の当番になると、いつも思い付きの適当なことばかり書き殴っていたK君。からかわれると、相手が誰であろうが、表情ひとつ変えず、「うるせえバカ」の一言で話を終わらせるK君。懲りもせず、伸びないそうめん弁当完成に情熱を傾け続けていたK君。気付くと、K君のことばかり考えていた。体が弱く、学校を休みがちだった私は、K君に会えない日がたまらなく切なかった。

あるとき、やはり同じクラスで、私と仲の良かったAちゃんが切り出した。
「希望ちゃん、Kのことが好きなん?」
返事に戸惑っていると、Aちゃんは間もなく続ける。
「だとしたら、やめたほうがいいよ! あいつ、性格悪いから!」
聞けば、AちゃんはK君をからかい、前述の「うるせえバカ」を喰らったらしい。美人で、ちやほやされることに慣れている彼女にとっては、耐えがたい屈辱であったようだ。
K君が悪く言われている----胸が苦しくなり、私は、自分がK君を好きなのだと認識した。でも、もしそのことをAちゃんに言ったら? 今後もきっとK君の悪口を聞かされることになる。耐えられない。辛い。避けたい。
「ん? 別に好きじゃないよ」
心とはまったく逆の台詞を、私は返した。

K君に興味のない振りを続けたまま、中学校の三年間が終了。K君と私は、別々の高校へと進学した。そして、のちに同窓生から伝えられた事実。
「Kってさ、中学の頃、希望ちゃんが好きだったんよ。希望ちゃんが学校欠席すると、いつも言ってた、『鈴木がいねえとつまんねえな!』って」
思ってもみなかった。驚いた。しかし、その頃のK君には彼女がいた。もう、過去の話。
ちなみに、K君が私に惹かれたきっかけとは。
「あいつ、ドイツ語できるわけでもねえのに、シューベルトの『魔王』、ドイツ語で歌えんじゃん! 訳わかんねえ! でもおもしれえ!!」
そうめん弁当作りに必死になっていたやつに、「訳わかんねえ」とか言われたくないよ......。

コンビニで普通にそうめん弁当が買えるようになり、「魔王」のドイツ語詞なんてすっかり忘れてしまった今、ふと思う。もし、あのとき自分の気持ちを隠さずにいたら、あるいは----いや、奥手だった私は、K君本人には伝えられなかった気がする。











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