初恋物語

守ってあげたい王子さま

保育園の頃。初めて好きになった男の子の名前は、「ししくらしんいちろう」君。色が白くて、目がくるっとしていてかわいくて、やさしい男の子。

ウルトラマンなど特撮ヒーロー物が大好きで、どちらかというとオテンバの部類にいた私の目には、彼の天使のような笑顔は「守ってあげたい王子さま」として映っていた。しんいちろう君は9月生まれ。6月生まれの私はちょっとお姉さんぶって世話を焼いたり、追いかけ回したり(?)していた。

好きになると何でも特別に感じられるものだが、私にとっては彼の名前からして神秘的だった。私の名前が「のぎりんこ」と音が5つしかないのに対して、「ししくらしんいちろう」君は10も音がある。これはすごい。しかも、10音の中に「し」という音が3つもある。これはきっと何か特別な力を持った名前に違いない、そう思いこんでいた。
その無声音を多く含んだ名前は、年中さんだったか年長さんだったか、幼い私にとっては魔法の言葉だった。

保育園では、時々「おさんぽ遠足」というのがある。遠い遊園地に行くイベントとしての「遠足」ではなく、近所の原っぱに手をつないで歩いていく「課外授業」だ。もちろん私はしんいちろう君と手をつなぎたかったのだが、先生がそんなことを配慮してくれるはずもない。機械的に背の順で並ばされ、ひとり二人分ずれてしまって、彼の斜め前の並びになった。
それでもあきらめきれず、時々後ろを向いてはしんいちろう君に話しかけ、先生に「前を向いて歩きなさい」と注意された。なんとか彼の注意を引きたくて、何度も振り返っては先生に怒られていた。

狭い路地を歩いていた時、乗用車が横を通り過ぎた。先生が両腕を広げて、乗用車から園児を守るように立った。その姿はとてもかっこよかった。
これだ!私も車からしんいちろう君を守らなければならない!そうひらめいた私は、両腕を広げてしんいちろう君の前に立ちはだかった。

好きな人を守る愛と正義にあふれ、私の心はヒロイズムに酔っていた。しんいちろう君もきっと感謝するに違いない!

そう確信していた私の右腕に、突如、激痛が走った。
あまりの痛さに涙目になった私が振り返ると、そこには信じられない光景があった。正義感にあふれ、感謝され、賞賛されるべき私の右腕に、がぶりと、当のしんいちろう君が思いきり噛みついていたのだった。

「なぜ?」
最初、痛みだけで出かかった涙は、次にショックと失意の涙に変わった。
心の中は疑問符だらけ。なんでしんいちろう君は噛みついたの?なんで私の気持ちが通じなかったの?噛まれた腕と同じかそれ以上に、胸が痛んだ。

異変に気づいた先生が私の腕から彼を引きはがし、事態の収拾を図っていた。
どうも、「りんちゃんが急に目の前に腕を出したから、噛んだ」らしかった。
なぜ噛みついたのか。
なんのことはない。目の前に腕があったから、なのだ。いきなり無遠慮に出された腕に対して、彼は腹を立てて報復したのか、それともただ反射的に噛みついたのか。どちらにしても、私の愛情も思いやりもヒロイズムも、どれひとつ彼には届いていなかった。切なさの感情を知ったそれが最初の記憶だった。

私はべそをかきながら、痛む腕をさすりさすり、「そうか、しんいちろう君はまだまだあたしよりもこどもなんだ」と、自分に言い聞かせていた。

だってしんいちろう君は9月生まれで、私は6月生まれ。
私の方がお姉さんなんだもの。











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