初恋物語

時間差で気付いた初恋

彼のあだ名は「ハカセ」。
飄々とした雰囲気と、理科実験部に所属していたのが出所と思われる。
別にカッコいい部類の男子ではなかった。中学1年男子の中では背も低いほうだったし、スポーツも人並み。勉強はといえば、理科や算数はすごくできたけれど、国語や英語は平均レベル。まぁ、十人並みの男子中学生だったというわけだ。
私だって、テニス部の成瀬先輩のほうがよっぽどカッコいいと思っていた。

ただ彼は、誰からも一目置かれていた。
生徒だけでなく、先生からも一目置かれていたのだ。なぜなら彼は自分に正直で、本当の言葉しか口にしない人だったから。

中でもいまだ伝説となっているのは、全校集会で、生徒同士が取っ組み合いのケンカになった事件。生徒のひとりは勉強もスポーツもできる代議士の息子、もうひとりは家庭環境のよろしくない、ちょっと不良っぽいS君だった。
先生が代議士の息子のほうに事情を聞くと、彼は「Sが勝手にからんできた」と答えた。S君はたしかに不良っぽい子だったけど、わけもなく他人にケンカをふっかけるタイプではない。しかし先生は、「S、ダメじゃないか」と、一方的にS君が悪い方向に持っていこうとした。全校集会の最中ということもあり、進行上早くその場を収めたかったということもあったのだろう。S君は怒りを露わにしたが、何も言い訳をせずそっぽを向いた。

その時、いきなりハカセが挙手。そして、
「本当に解決する気があるのなら、Sからも事情を聞くべきだ。先生は、親や成績で生徒を差別してはいけないと思う」
と言い放った。
全校集会は、水を打ったように静まり返った。
たかだか13、4歳でこのせりふを先生に言える中学生は、ハカセ以外にいないだろう。私を含めその場にいた全員が、しばらくバカみたいに、ポカーンと口を開けていた。

その後もハカセは変わらなかった。
勝気で目立つタイプのNさんが、内気なOさんに対しいじめっぽいことをしていると、
「相手に不満があるのなら、その点だけを伝えればいい。それがないのなら、今していることは無意味だ」
と言い放ち、教室中を凍りつかせた。
Nさんは気まずくなって(というかしらけて)、いじめを止めた。
そんなことがあった日もハカセはどこ吹く風。放課後の部活では、淡々とレモン果汁で電気を起こす実験に従事していた。

私は高校を出て大学を出て大人になり社会人になり、人生で本当に大切なのは、自分自身を信じること、そして自分に誠実に生きることだと知った。そしてそれを実行するのがどれほど難しいのかも、知ったつもりだ。
結婚適齢期になった最近、ふとハカセのことがチラチラと頭をよぎる。人生を共に過ごす相手というのは、人間的に尊敬できる男性でなければ選べない。
ルックスのよさに惹かれて始まった恋愛は、相手のちょっとしただらしなさで幻滅する。激情なんか、冷めれば終わりなのだ。

私の本当の好みのタイプは、ハカセだったんだな?と、この年になって改めて思う。当時は彼のことなど意識していなかったから、言葉を交わしたこともほんの数回しかないのだけれど。

彼とは中学卒業以来、会ってもいない。
あんなイイ男が身近にいたのに気づかなかったとは、なんたる失態!
それもひとえに、私が子どもだったからだろう。若さと青さに目隠しされて、本質を見抜けずにいたのだ。

時間差で気づいた初恋は、もう実ることはない。
願わくば、彼には今も変わらず「ハカセ」のままでいてほしい。











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